ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

文字の大きさ
304 / 330
四章

二百九十二話 魔物討伐隊帰還Ⅰ

しおりを挟む
「コレでやっと終わりか?」
「そのようですわね。我々の仕事はこれで完遂です」

 首を飛ばした魔物の身体は、他の傭兵たちが檻に詰め込んでいる。残った胴部分もなんとか二つに割って詰め込んでいるようだ。
 それにしてもあの魔物、迂闊に触れることすら許されない点や、不死性によるゾンビアタック……というか被ダメージを一切考慮しない大暴れが厄介だったってのもあるが、単純な強さもクフタリアの地下にいたヤツよりもかなり強かったように感じる。それをイブリスのサポートがあったとはいえオレ一人で抑えられたっていうのは、シアとの旅で俺自身思った以上に強くなってるのかもしれないな。ステータス見れないから確認のしようはないけど。
 傭兵の質が緋爪に比べて遥かに劣るこの国で、あんなのが解き放たれていたらとんでもない事になっていたな。多分今回の討伐隊だけじゃ全滅してただろうな。
 
「なら、一休みさせてもらおうか。流石に疲れた」
「えぇ、雑事はろくに仕事をしていなかった他の傭兵たちに任せてしまえばよろしいのですわ」

 普段ならそんな風に言うもんじゃないよと嗜めるところだが、今回は実際その通りだったからな。支援するように頼んだのに途中から明らかに遠目で観戦するだけだったし。まぁ、切り分けた魔物の身体はキッチリ封印してたようだから、まったく仕事をしてない訳じゃないんだろうが、遠くからぼーっと眺めてるくらいならせめて遠距離援護くらいはしてくれと言いたかった。

「おい、無事か?」
「アンタは……」

 適当な岩の上に腰掛けていたら、例の討伐隊のリーダーから突然声をかけられた。まさか手伝えとか言い出さねぇよな?

「悪いけど疲れてんだ。帰投の準備ならそっちでやってくれ」
「わかってる。流石にテメェにそんな事まで手伝えとは言えんよ」

 そりゃよかった。この期に及んで雑事まで俺にぶん投げるようなら流石にキレてたかもしれん。

「どうやらその程度は弁えているようで、安心しましたわ」

 といっても、実際にキレてたのは多分俺じゃなくイブリスの方だが。
 言葉遣いはお淑やか風なんだけど、何気に俺以外に対して当たりが強いんだよな。最初はシアと仲が悪いからシアにだけあんな態度だったんだと思ってたが、実際は誰が相手でも変わらないらしい。

「二人共、帰還までは何も仕事を振るつもりはない。休み休み帰ってくれればそれで良い」
「そりゃ助かる。正直あの檻を運んで帰るのかと内心うんざりしてたところだよ」
「流石にそこまで任せたら、討伐隊としてもメンツが立たん」
「実際討伐したのはあるじ様と私の二人だけですものね」
「返す言葉もねぇ。今回の件、徒党を組んだとはいえ白金中心でどうにかなる相手じゃなかった。見切りをしくじっった組合からは謝罪と追加報酬ふんだくっておく」

 戦闘面を丸投げされたのは思うところがあるが、面倒な力仕事が免除されるというのであれば、それはソレでありがたい。
 今回は純粋に体力使ったから余計にってのはあるんだけど、ゲーム大会とかもそうだけどイベントの後の片付けとか帰り道とかって普段の倍くらい疲れるんだよな。対戦数なら普段の野試合のほうが多い筈なのに。まぁ心理的なもんだと思うけど。

 まぁ、仕切り役がそう言ってくれてる訳だから、のんべんだらりと帰らせてもらおうか。少し考えておきたいこともあるしな。

『何か疑問でもありますの?』

 念話……? まぁ、周囲に聞かせるような話でもないし、脳内会話で問題ないか。
 いや、金は溜まったから、今後はとりあえずアルヴァストに向かうことになるんだが、その帰還ルートについてな。
 このまま国境から南下して、オシュラスって国を経由して東隣りにあるダンガードって国の港町から海路で行くのが最短ルートなんだが……ダンガードの北にある国がなぁ。

『サルヴァ法国ですのね。あるじ様の記憶では底の関係者と揉め事を起こしている……というよりも一方的に絡まれたようですけど』

 宗教国家とか、ゲーム内であっても正直俺が一番関わり合いになりたくない連中だからな……全員が全員あのクソ坊主みたいなのじゃないとは思う。一緒に居た爺さんの方はまぁ話が通じるようだったしな。
 ただ、服装から見て結構お偉いさんだと思うんだよな、あのクソ坊主。となると、アルヴァストのクーデター起こした貴族共みたいに、上に立つ人間の一定数があんな頭のおかしい価値観を持ってる可能性も多少はあるわけで、そう考えると近づきたくはねぇんだよなぁ。勿論、国として運営されてるってことは、少なくともそこら中に喧嘩売ってるようなところではないと思うのだけれども……

『気にする必要はないのでは? 件の件は個人の暴走のように見受けられますし、害を受けたのはあるじ様側です。流石にこの件で難癖をつけてあるじ様に絡んでくるような展開に発展するということは無いと思いますわ。と言うよりも、そんな小競り合いで一国があるじ様一人に目を向けるというのは流石に自惚れが過ぎるのでは?』

 ハッキリ言ってくれるなぁ。まぁ、イブリスの言ってることの方が正しいって事は頭では理解してるんだけどさ。今回はアルヴァストの時のようにハティみたく目立つ仲間が一緒にいるわけでもないし、オレ個人では実力的にも名声的にも飛び抜けたものはないから、そうそう目を付けられるような事はないんだろうよ。そこは解る。
 ただ、どうにも宗教関連は信用できなくてなぁ。コレばっかりはガキの頃の経験からのモノなんで、この不信感だけはどうにもならん。

『とはいえ、隣接という意味では南のオシュラスも大河越しですがサルヴァとは隣り合ってますし、サルヴァ法国どころかその周辺すら回避したいとなると、西側から森を越えて山を跨いだ先にあるガラニアレ帝国を目指すことになりますわよ? そうなれば、距離的には倍近くなりますけど、わざわざそんなルートを選ぶおつもりですの?』

 そうなんだよなぁ。しかも帝国が安全かと言われるとそうでも無さそうなのがまた……
 一応情報収集した感じだと、数年前にサルヴァを含めた近隣国と揉めて今は休戦中らしいって話は聞いたんだが、今も隠さずに再侵攻の準備をてるという領土欲剥き出しな結構殺伐としたお国柄で、お近づきになりたいとは思えないような国みたいだからな。

『どう考えてもリスクとリターンが釣り合っておりませんわ。多少の不信はあっても、直接赴くわけではないのですから南進するべきだと思いますわ』

 まぁ、そうなるよなぁ。
 近くにヤバい国がある隣国の近道を通るのと、近道を避けるために情勢的にキナ臭い国を遠回りして通る、じゃメリットとデメリットが釣り合ってない。直接サルヴァに足を踏み入れるわけでもないのに、ここまで警戒するのは流石にやりすぎだと俺も判っちゃいるんだが……やっぱりここはイブリスの言う通り、ここは素直に最短ルートを進むべきか。

 よし、判った。ビビってても話が進まないし、ここは素直に南からのルートで行こう。

『それがよろしいかと。そもそも、あるじ様は法国の僧侶と揉めたその現場から飛ばされたのでしょう? しかも状況から見てその僧侶は倒されていると見て良いでしょう。であれば、法国側はあるじ様が僧侶に襲撃された事すら掴んでいないのでは? そもそもそも足取りなど追いようがありませんもの』

 言われてみれば……現場に居たのはあのクソ坊主一人だったし、襲撃の際も最後まで援護とかはなかった。あんな物騒なものを他国で持ち出しておいて、みすみす軍用兵器的なあのパワードスーツもどきを他国へ明け渡すような状況を黙認するとも考えがたい。となると、独断専行で襲撃してきたと考えるのが妥当か。
 となれば、イブリスの言う通りあの現場に俺が居たことを知ってる法国関係者はあの坊主ただ一人ってことになる。まさかあそこから逆転とかは無いだろうし、法国が俺を認識している線は限りなくゼロって訳か。
 協会でも一緒に居た爺さんに言動を窘められていたし、あのクソ坊主が特別素行が悪いだけって可能性もあるわけだ。

『大体、現場から追跡されていたのならともかく、あるじ様は二度も転移してるんですよ? これだけ広大で人の溢れた世界から人一人探すのがどれほど難しいと思っているんですの?』

 それもそうだ。たしかにこの世界には魔法という便利な能力が存在する。ただ、それは思っていたほど万能なものじゃない。むしろ連絡だとか捜索といった点であればゲームよりもリアルのほうが優れていただろう。
 なんせ現代社会では戸籍だったり監視カメラ、銀行カードからの引き落とし履歴から一般人からのスマホ撮影や通報といった、いつどこに居ても犯人を発見する手がかりになる便利アイテムが沢山あった。それもあって、日本での犯罪検挙率ってのは世界的に見ても結構高いという話も聞いていた。
 でも、当たり前の話だがその感覚はコッチじゃ当てはまらないんだよな。コッチで過ごすようになって暫く経ったが、どうしても常識的な部分で現代側の感覚で考えちまうらしい。

 常識か。厄介だなぁ。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...