ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百九十六話 打ち上げ?Ⅱ

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「えぇと、強い傭兵団を作りたいのはまぁ判ったけど、それなら国の外に出たほうが手っ取り早いだろ。この国の傭兵の弱さは自覚してるんだろ? 何で国内に拘るんだ?」
「当然国外にもスカウトは出す。だが、今は国からは出られん。この国の弱さは理解しているからな。今この国は金払いと周辺国の欲目によって生きながらえてるに過ぎん。迂闊に目を話して滅びられても敵わん」

 滅びるって……この国の情勢ってそんな不味いことになってるのか?

「国を滅ぼさせるわけにはいかないって……愛国心って奴か? 俺にはアンタがそんなもんに拘るような人種には見えないんだが」
「フン、愛国心ねぇ? 確かに見方によってはそう取れないこともないが……正直に言えば我欲に基づく私的な行動だよ」
「なら何のために?」
「そりゃオメェ……」

 それまで視線も合わせずスープを飲むでもなくただかき回し続けていただけの手を止めて、初めてこちらを振り向いた。

「俺はこの国を駄目にした今の王族を追放して国を取る。傭兵の国の名の通り、正しく傭兵王を目指すつもりだ」

 居住まいを整えて、一体どんな言葉が出てくるかと思えば、こりゃまたずいぶん大きく出たな。下剋上狙いとか。だが、それを口にするには、何というかその……

「こういっちゃ何だが、傭兵王なんて御大層の名乗りを上げるには、アンタ等弱すぎねぇか? あんた個人の強さもそうだが、率いている団自体もだ。強さが全てだと言うつもりはねぇけどよぉ、正規の王ではなく傭兵王なんてものを名乗るからには何か飛び抜けた力を周囲に見せつける必要はあるんじゃねぇか?」
「確かにテメェの言うとおりだ、俺等は弱い。そして俺より強いテメェの強さをよく知っている。それよりもなお強い緋爪の幹部の強さもこの目で見た。今から俺がどんな修行を繰り返そうと、今更お前らに追いつけるほど都合の良いことは思いやしねぇ」

 そこら辺は現実見えているのか。にも関わらず、傭兵王に俺はなる! なんて豪語するからには何かしらの手札があるのか?

「なるほど弱者であることを認められるのは大変宜しいことかと思います。が、だとしたら貴方は何を持って傭兵の王を名乗る気ですの?」
「長として」

 ……う~ん?

「……そいつは大きく出たな。この国の中ですら白金でしか無いアンタが?」
「今はまだ無理だろうよ。金も地位も名声も、まだ何も足りちゃいねぇ。だが、緋爪を見て、黒鉄を見てその上で俺ならもっと上手くやれると思える余地はあった」
「思うだけなら誰でも出来ますわ。そこまで言うからには未来まできっちりと見据えた上で、その緋爪や黒鉄とやらよりも強い団に育て上げられると?」

 敵だった俺が言うことでもないが、緋爪は間違いなく強い傭兵団だ。一国と正面切って激突できる時点で並じゃない。しかもあの戦場を見たから確信できるが、アルヴァストは間違っても弱国じゃぁない。それとやりあえる程の団を捕まえて、俺のほうが上手くやれるとはまたすげぇ大言壮語が出たもんだな。

「少なくとも、共に行動した緋爪は俺が率いればもっとやれると思った。思ったからにはやって見なけりゃ気がすまねぇ」
「そうかい。ならやってみりゃ良い」

 何だよ、鳩が豆鉄砲食らったような顔して。

「笑わねぇんだな」
「アンタが言ったんだろうが? やってみなけりゃ解らねぇなら、やってみたくて仕方ねぇってのはよく解るからな。俺だってそれで武者修行を始めたみてぇなもんだし」
「成したいことを為すために大した理由は要らないでしょう。成せると思わせる根拠は必要ですが」

 そう、イブリスの言うように理由なんて何だって良い。王様になりたい、ただそれだけだって構わないだろ。大事なのはそれが出来るか……いややる気を本気で持てるかどうかだと俺は思う。

「まぁやりたいと思って出来るかどうかはまた別の話だけどな」
「そんなこたぁ判ってる」

 誰だって、努力すれば結果にたどり着くかどうかなんて判りはしない。それがわかればこの世は成功者だらけだ。失敗者の居ないトンデモ世界の出来上がり。だが、現実はそうじゃない。
 失敗するヤツのほうが多いから、成功者が君臨するんだ。ゲームの中でも現実世界でも、それは変わらない。王政なんてものはその象徴みたいなもんだからな。

「だけど、聞いた感じこの国は今までそうやって生き延びてきたんだろう? 何故今になって突然危機感を覚えるようなことになってるんだ?」
「それは……まぁ、お前なら良いだろう。俺が外に出向しているときに色々手に入れる情報があってな」

 あ、テメェからお前に変わった。警戒度が下がったのか?

「東の商国の連中がこの国を落とすために動いている」
「商国? 山脈をまたいで東隣は法国じゃないのか?」
「知らないか? 正確には商業都市カラクルム。サルヴァ法国の南東にある国だ。王を持たない都市ではあるが、有り余る資金を駆使して独立を果たしたどの国にも属さない中立都市というやつだな。規模と動く金の多さから周辺国から国と同等の扱いを受けている商人共の巣窟だ」

 随分離れてるな。たとえ陥落させることが出来たとしても飛び地になるじゃねぇか。

「商国ってところへはまだ行ったことないが……その商人共がリスクを犯してまでこの国を盗ると?」

 利に聡い商人達が、黙っていても金を落としてくれるカモな状態のこの国をわざわざ遠隔征服してまで何か利になる資源でもあるのか?

「俺も連中が何を狙っているのかまではわからないが、そのために金や人が流れているのは裏を取っている。だからそう遠くない先に連中からの侵攻があると予測して動いている」
「そんな状況で国盗りを狙うのか? 急拵えの計画でそのカラクルムとやらより先に国を盗っても、すぐに奪い合いになっちまうんじゃねぇのか?」
「誰が、先に取るなんて言った?」

 うん? この国が不味いことになる前に王位簒奪を狙うって話じゃないのか?

「いくら何でも今の俺らに正面から国を落とすだけの力はねぇよ。緋爪くらいの規模があれば話は別だが、俺等はまだ白金の傭兵団に過ぎない。しかもこの国基準のな」
「そこまで自覚があるなら……」
「だから、その対カラクルムで名を挙げる。団の規模は関係ない。カラクルムとの戦いでどの傭兵団よりも、国軍よりも活躍して民意を味方につける」
「なるほど、力よりも先に権威を手に入れると?」
「できれば同時に……と行きたいところだが、力ある仲間を引き入れるためにもまずは宣伝は欠かせないだろ?」

 へぇ、こいつ言うだけあってちゃんとそういう事も考えられるのか。識字率だけじゃない、この世界の一般人の教養は義務教育と言った制度がない分、平均的に見ればかなり質が低い。例えば、農家は農業の知識は豊富でも、自分の使う農具がどうやって作られたかまるで知らない……といった感じでかなり偏っている。自分が生きていく上で必要ない分野の知恵に関しては、ほぼ無知と言って差し支えないほどだ。にもかかわらず、ろくな教育も受けられないであろう野良の傭兵が求人の重要さやその為の撒き餌をきっちり把握してるってだけで知恵が回るというのはよく判った。

「俺達が国を盗るのはカラクルムを倒した後だ。その後、世論を味方につけて団を拡張する。平時なら大きくなりすぎた傭兵団に対して、国が何だかんだ理由をつけて規模縮小を狙うだろう。だが、俺達が国防の戦いで大きな戦果を上げれば話は変わってくる」
「そのためにカラクルムが攻めてきてくれるのはある意味では好機でもある……という訳か」
「ああそうだ。国民たちは、国を守った俺達を英雄……とまでは行かないだろうが、少なくとも救国の立役者として認識するだろう。そうなれば、いかに王家と言っても国民の目を恐れてそう乱暴な手はとってこないはず。なんせ、王家が日和見し続けた結果がこの状況だからな。そうやって力と世論を味方に引き入れた上で正面から国を取りにいく。周辺国から文句が出せんように正面から堂々とな」
「確かに、カラクルムとやらが既にこの国を盗ろうと攻撃を仕掛けた後であれば、その国盗りを正面から批判することはメンツの面からも躊躇われるでしょう。その後再侵攻前に貴方がこの国を落とせればの話ですが」

 そう、一度撃退に成功したとしても、再侵攻で落とされては意味がない。撃退した上で、相手が動く前にこの国を落とす必要がある。それは中々に高いハードルだと思うが……

「そこが俺達の勝負所だな。まぁなんとかしてみせるさ。このチャンスを活かせないようならそもそも俺には王の器なんぞ無いってことだ」
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