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死合わせな邂逅
バイバイ
しおりを挟む初夏の陽気が煙る中、梅雨に入った。家中のそこかしこで水の滴る音がするのを咲麻は縁側で足をブラブラさせながら、口を尖らせて聞いていた。先刻まで雨の中、庭で水たまりの上を跳ねて遊んでおり、笹垣に叱られたばかりだった。
足をばたつかせる咲麻の様子を遠くから見ていた志音が、空を見てから、「俺が」と口を開く。雨は小降りになっていた。
「川まで連れていく」
「分かりやした」
そばで控えていた笹垣は抑揚もなく言葉を返す。止まることなく移ろう季節のように、季節を夏に明け渡すまで降り止まないこの雨のように、至極どうにもできないことを今さら気にかけても始まらないのだ。
「坊ちゃん、お気をつけて。サクマ君、いってらっしゃい」
「うん。バイバイ、ササガキ!」
行ってきますを教えなかった。夏が来れば、暑さとともにすべて消えていく。また次の奉りのことで、手いっぱいになる。手塩にかけて世話をした者のことなど、そこにあったが本来存在しない者のことなど、忘れていくのが常なのだ。
忘れゆくことだとしても、笹垣は二人の姿が見えずとも、雨音だけしか聞こえなくなるまで、門前で見送っていた。
相傘を差した二人が土手沿いを山に向かって歩く。ときおり、長靴で水たまりを蹴り上げる音がしていた。見たことのない景色を目にして遊びたそうに辺りを見回すが、いいと言うまで手を離すなと志音が言いつけてあるので、咲麻は雨の中に飛び出していくことはなかった。
「俺はここまでだ。この先には行けない。真っすぐ道なりに行くと社がある。そこにこれを置いてきてほしい」
身ぶり手ぶりで役目について教え込んだあと、古びた倉庫の屋根の下に入った志音は、刺繍の施された小さなお守りを咲麻に握らせる。
「愛してる、サクマ」
お守りを指で押して興味津々だった彼は、大きな目を主に移して見つめ返す。志音は咲麻を見つめたまま、やんわりと押し出した。トクベツな用事を任された咲麻は、主からもらったお守りを握りしめ、嬉々として飛び跳ねた。
「はい、シノさま! バイバイ!」
家を出てから川辺に行くまでずっと離れず、志音は隣にいたので、咲麻の機嫌はたいそうよかった。傘ごと振って、彼は主に、背を向けるときのあいさつを送る。
飛び石から飛び石へ。川に落ちないように、器用に跳躍しながら、咲麻の背中は遠ざかっていった。
「……さようなら、咲麻」
彼は傘を持たない主の元へ、早く戻ろうとするだろう。一つしかない傘の意味を彼は知らないのだ。
志音は彼が行った方を見ながら扉にもたれ、その場にずるずるとかがみ込む。
じきに雨は止む。梅雨が明ける。今年もこの町は、災厄から免れることができるのだ。
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