8 / 11
8、失言
しおりを挟む
「到着致しました」
「ええ」
馬車から降りると、立派な門の前で使用人と思わしき者達がズラリと並んでいる。
この者達が皆これから自分に尽くすのだと思えば、当主の顔が多少不細工でも許せる気がした。
「あ、すみません。ありがとうございます」
荷馬車の方を見れば、鈍臭い妹が荷物を運び出す使用人達に頭を下げていた。
荷馬車に乗せたからもっと窶れるかと思ったが、存外に元気なようだ。
町を出て笑顔を見せる余裕すらあるようだが、そんなものまた、いくらでも歪ませてみせる。
簡単なことだ、周りの人間を全て私の味方にして共通の鬱憤晴らしの対象を用意すればいいだけなのだから。
「遠いところお疲れでしょうが、当主様がお待ちです」
「ええ、わかったわ」
桔華が案内人の後をついて行こうとすると、「あちらです」と梗華まで案内を受けている。
「花嫁は私です。ごめんなさい、妹には荷物運びをさせておいて下さらない?」
「当主様から桔華様、梗華様、どちらもお連れするようにと仰せつかっております」
双子の名前まで把握されているのでは、どうしようもない。
今ここで抵抗して余計な反感や疑惑を持たれても面倒だと考えた桔華は、梗華の横に来ると耳元で囁いた。
「お前は余計なことを言わずに、黙っていなさい」
「はい」
変わらない従順な妹の様子に満足して頷き、桔華は自分こそが主役であると信じて疑わずに真っ直ぐで広い廊下をしずしずと進んだ。
***
案内人は部屋の外に待機し、部屋には三人だけ。
室内は純和風で、屏風や障子、そして畳自体とても高価なものだと一目でわかる。
藤島の家の、占いの間を思い出させる作りだ。
「──やぁ、待っていました、私の花嫁」
「只今参上致しました、桔華と申します」
時代錯誤も甚だしく、雲上家の当主は御簾の向こう側で座っていた。
桔華は、眉目秀麗という噂は眉唾ものだったかもしれないと、顔を伏せながら眉を潜める。
「──梗華さん、顔を見せて下さい」
「えっ……」
梗華が後ろで固まったのがわかった。
顔を見せている妹に対して「見せろ」というのは、前髪を退かせと言っているのだ。
「失礼ながら、申し上げます。妹の瞳はこの世のものならざるもので、不吉なのです」
「ほう?というと?」
当主の気を惹くことに成功し、桔華は内心ニンマリとする。
「人とは到底思えぬ、悪魔の色……金色の瞳をしております」
恐怖に畏怖、疑念に懸念を植え付けるように身体と声を震わせ、桔華はそう訴えた。
「ふむ。では、この私をどう思う?」
当主の身体が動いて、御簾をさらりと持ち上げた。
桔華はその美しい容姿を目にして一度頬を染め……それに気付いて、青褪める。
「私も悪魔ということかな?」
「も、申し訳ありませんっ!決して!そんなつもりでは……!!」
なんてことだ、と桔華は焦燥感に駆られた。
まさか、日本で梗華以外にも金色の瞳を持つ者がいたなんて。
どう挽回しよう、と頭を回転させたが、相手はそんな余裕を与えてはくれない。
「悪魔に嫁ぐのは嫌であろう?」
「い、いいえっ……!その、私が嫁がなければ、凶相を避けることが出来なくなってしまう為……!」
出だしは失敗したが、まだまだ挽回は出来る。
占いを気にして、町の為に尽くす巫女という路線であれば、問題はない。
「ああ、そうだったな。『……先読みの神子を雲上家に嫁がさなければ、この町は破滅の道へ向かうだろう』だったか。占ったのは、梗華さんでしたよね」
当主は梗華に話を振る。
当主の興味が妹に移ったことを察した桔華は、美しい自分の顔をパッと顔を上げ、じっと熱い視線を送った。
「ええ」
馬車から降りると、立派な門の前で使用人と思わしき者達がズラリと並んでいる。
この者達が皆これから自分に尽くすのだと思えば、当主の顔が多少不細工でも許せる気がした。
「あ、すみません。ありがとうございます」
荷馬車の方を見れば、鈍臭い妹が荷物を運び出す使用人達に頭を下げていた。
荷馬車に乗せたからもっと窶れるかと思ったが、存外に元気なようだ。
町を出て笑顔を見せる余裕すらあるようだが、そんなものまた、いくらでも歪ませてみせる。
簡単なことだ、周りの人間を全て私の味方にして共通の鬱憤晴らしの対象を用意すればいいだけなのだから。
「遠いところお疲れでしょうが、当主様がお待ちです」
「ええ、わかったわ」
桔華が案内人の後をついて行こうとすると、「あちらです」と梗華まで案内を受けている。
「花嫁は私です。ごめんなさい、妹には荷物運びをさせておいて下さらない?」
「当主様から桔華様、梗華様、どちらもお連れするようにと仰せつかっております」
双子の名前まで把握されているのでは、どうしようもない。
今ここで抵抗して余計な反感や疑惑を持たれても面倒だと考えた桔華は、梗華の横に来ると耳元で囁いた。
「お前は余計なことを言わずに、黙っていなさい」
「はい」
変わらない従順な妹の様子に満足して頷き、桔華は自分こそが主役であると信じて疑わずに真っ直ぐで広い廊下をしずしずと進んだ。
***
案内人は部屋の外に待機し、部屋には三人だけ。
室内は純和風で、屏風や障子、そして畳自体とても高価なものだと一目でわかる。
藤島の家の、占いの間を思い出させる作りだ。
「──やぁ、待っていました、私の花嫁」
「只今参上致しました、桔華と申します」
時代錯誤も甚だしく、雲上家の当主は御簾の向こう側で座っていた。
桔華は、眉目秀麗という噂は眉唾ものだったかもしれないと、顔を伏せながら眉を潜める。
「──梗華さん、顔を見せて下さい」
「えっ……」
梗華が後ろで固まったのがわかった。
顔を見せている妹に対して「見せろ」というのは、前髪を退かせと言っているのだ。
「失礼ながら、申し上げます。妹の瞳はこの世のものならざるもので、不吉なのです」
「ほう?というと?」
当主の気を惹くことに成功し、桔華は内心ニンマリとする。
「人とは到底思えぬ、悪魔の色……金色の瞳をしております」
恐怖に畏怖、疑念に懸念を植え付けるように身体と声を震わせ、桔華はそう訴えた。
「ふむ。では、この私をどう思う?」
当主の身体が動いて、御簾をさらりと持ち上げた。
桔華はその美しい容姿を目にして一度頬を染め……それに気付いて、青褪める。
「私も悪魔ということかな?」
「も、申し訳ありませんっ!決して!そんなつもりでは……!!」
なんてことだ、と桔華は焦燥感に駆られた。
まさか、日本で梗華以外にも金色の瞳を持つ者がいたなんて。
どう挽回しよう、と頭を回転させたが、相手はそんな余裕を与えてはくれない。
「悪魔に嫁ぐのは嫌であろう?」
「い、いいえっ……!その、私が嫁がなければ、凶相を避けることが出来なくなってしまう為……!」
出だしは失敗したが、まだまだ挽回は出来る。
占いを気にして、町の為に尽くす巫女という路線であれば、問題はない。
「ああ、そうだったな。『……先読みの神子を雲上家に嫁がさなければ、この町は破滅の道へ向かうだろう』だったか。占ったのは、梗華さんでしたよね」
当主は梗華に話を振る。
当主の興味が妹に移ったことを察した桔華は、美しい自分の顔をパッと顔を上げ、じっと熱い視線を送った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
294
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる