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ストラーニャは、愚王が治めているどうしようもない国だ。魔石の供給さえなければさっさと交流も途絶えていただろう。ストラーニャを征する事は造作もないが、それをすると帝国が目を付けてくるだろうし、それが面倒だから公国はストラーニャを放置していた。
貴族による横領も蔓延っていて、近々国内からか国外からかはわからないが、滅びる事が目に見えている国だ。

そんな国の王女というからには、公国の人間が自国に来る事を当たり前に考えている事だろう。仕事が一段落したら向かうつもりだと手紙には記載したが、待てる性格であれば良いが。

そう言えば、3年位前にふらりと叔父が公国に帰国した時、ストラーニャにしばらく滞在していたと言っていたな……とイングヴァルはぼんやり回想した。



***



「大きくなったな、イングヴァル」
「叔父上ですか?お久しぶりです」
小さい頃にしか会った事のない叔父の姿は全く記憶に残ってはいなかったが、確かに父に似た容姿をしていた。
そして、一緒にとった夕飯の談話で、今まで何処に居たのかと聞けば聞いた事のない小さな島国と、ストラーニャだと言っていたのだ。
「ストラーニャですか……何か面白い事はございましたか?」
イングヴァルとしては珍しい、会話の継続。
父とは食事中にほぼ会話をする事はなかったが、叔父は会話が途切れる事はない。
「うん、とても面白かったよ。小さな姫君がいてね。まだストラーニャに染まる前だったから色んな事を教えてみたんだけど。もし彼女がストラーニャの悪政に疑問を持ったら色々大変になるだろうから、困ってたら手を貸してあげてね」
「はい、畏まりました。……叔父上が手を貸せばよろしいのでは?」
「ははは、私は明日からまた別大陸に向かうからね。そうだな、イングヴァルに子供が出来たらまたお祝いに帰ってくるよ」
「明日からですか?結婚式ではなく、子供……?」
「結婚式だと、早すぎるからね」
「はぁ……」
そうして、叔父は宣言通り翌日には公国から出立していた。
本当に自由な人だ。

短い会話の中で、叔父は「小さな姫君」の話をしていた。アーネ王女は自分と同じ年頃の筈だが、別人なのだろうか。もしくは、叔父がストラーニャにいた頃はまだ小さかったのかもしれないし、実際小柄なのかもしれない。
どのみち、会えばわかる。

イングヴァルは、当主としての仕事と魔術師としての研究は、後何日程で一区切りつくかを頭で計算しながら、その日は眠りについた。



「あちらからこちらに伺う、だと?」
「はい。その様に、アーネ王女様から伝言を承っております。詳しくは、そちらの信書に」
「……」
イングヴァルは、信じられない思いでその信書を開いた。
綺麗な共通語で、返事の御礼と、こちらからの問い合わせに対してそちらに貴重な時間を割かせるつもりはない、という旨が端的に書かれており、公国までこちらから伺います、と纏められていた。
しばらく街の宿に滞在させてもらう予定であるから、そちらの都合がついた時に会えたら嬉しい、また所在地が決まったら連絡するとも。
「……どうやら、多少はまともな人間に育ったらしいな」
ストラーニャで生まれた割には、傲慢さの欠片も見当たらない文面だ。ストラーニャの王族や貴族は、帝国にはへりくだり、公国には傲慢な態度というのが常である。

信書を手紙箱へ片付けながら、ついでとばかりに聞いてみる。
「アーネ王女は、どんな人物だった?」
「非常に真面目な人物です。あの国で、唯一の良心……といった感じでしたね。その為諜報隊からは、王や後継者である兄からは煙たがられる存在になりつつあり、国外との縁談を決めてさっさと他国へ嫁にやってしまおうという動きがあるそうです」
「成る程な」
王に厄介者扱いされながらも処分されないあたり、それなりに可愛がられているか、生かすメリットがあると考えられているかのどちらかだろう。

叔父への興味と、自分が四回もやり直してまで欲しいと願った魔石への興味。ただそれだけだったが、少しだけアーネ王女への関心が高まった。
少なくとも、ストラーニャへ行けば必ず感じる不快感は、今回はそこまで感じずにすむのではないか、とイングヴァルは考えた。
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