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【原作】始動
麻痺(まひ)した心
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お互いに距離をとった間合(まあ)いに、私達はお互いの思考を巡らせていた。彼らからすれば私を今此処で殺しても、人質にとっても有益(ゆうえき)となる。
しかしそれは私にとってとても都合が悪く、言うなれば彼らとの接点が露見(ろけん)になった時点で詰む。本当に、最悪の最悪で詰むのだ。
今もジリジリと私を捕獲(ほかく)したいと緊迫(きんぱく)めいた空気が物語っている。確かにこの状況だけ見れぼ『鴨(かも)が葱(ねぎ)を背負ってきた』ようなものだ。もちろんいきなり武力(ぶりょく)行使(こうし)で来るのなら躊躇(ちゅうちょ)することなく応戦するが、私が望むのはあくまで『対話』なのだ。
このままでは埒(らち)が明かないと思い両手を上げる。いわば警察に『動くな』と言われたときの姿勢である。此方に戦闘(せんとう)意思(いし)はない。それを伝えてもなお警戒が緩まないのは、まだ私を人質にする選択が残っているからだろうか。
「突然の来訪(らいほう)に無礼は承知の上、私が望むのは貴方達(あなたたち)との対話です。どうか、私の話だけでも聞いていただけませんか?」
「…油断を誘うための囮(おとり)ならやめておけ。どうせあのクソ騎士達の策略(さくりゃく)だろ」
「いえ。あの方達とはちゃんと話をつけてあります。それに例え彼らの策略に乗り囮となるよりも、私が単身で片付けた方がずっと早いのでその必要性がありません」
思っていたよりも冷たい声が出た。仮面で上半分の顔を隠していても、さっきまでの笑顔が消えて一切の表情筋が使われなくなったことで彼らも異様さを感じ取ったのかたじろく者も何人かいた。
「ハッ…、神殿で何にも知らず神の真似事なんかしてるガキが何の冗談だ。こっちはテメェらのそのお上品なクソ神官どもに踏みつけられて死んだ奴の集まりなんだよッ」
滅多に聞き慣れない罵声(ばせい)だったが、それを言われたとことで私の心は微塵(みじん)も動かなかった。だって私にはなにも関係ない。私は多くを救うために身を焦がしているのに、その途中で溢(こぼ)れ落ちていったものを一々(いちいち)数えられる余裕なんてないのだ。
「落ち着いてください。私が貴方達に提案するのは一つ。数年間【メシア教】の活動を潜めてください。そうすれば、その間(かん)必ず【アルティナ教】を廃するとお約束致します」
空気がビリビリと揺れる。警戒は最大に、それでも内側では激しく揺れているのがわかる。他でもないアルティナ教の第二最高権力者である私が発言したことだ。関係者の耳に入れば【魔女(まじょ)裁判(さいばん)】に掛けられてもおかしくない。
「…信じられねぇな。お前みたいなガキの甘言にはいそうですかって言うと思うか? 俺らをあまり見下げるんじゃねぇよ。こっちは命賭けて戦ってんだ」
…彼の発言は正しい。この世界は綺麗なだけじゃ到底生きられないことを私が一番知っているから、彼の考えることも分かる。だけど、今はそれがただひたすらに鬱陶(うっとう)しいと考えてしまうのはきっと嫌な人間に成り下がった証拠だ。
「この提案を退(しりぞ)けると言うのでしたら、此方もそれ相応の手段に出させていたたきます。多少の犠牲も致し方ありませ「あ゛??」」
私が言葉を言い終える前に、膨大(ぼうだい)な荒(あら)めいた波長の魔力が暴発する。ただ味方に一切の影響を与えてないということはコントロールに関しては問題ないのだろう。かくいう私もちゃっかり防御している。
「なぁ、お前今なんて言った? 多少の犠牲? なぁ、ふざけんなよおい。お前みたいな空腹も知らねぇ奴が踏みにじっていい命なんて此処にはねぇんだよ!!!」
神術で作った防御陣(ぼうぎょじん)には物質的な攻撃を阻害(そがい)する効果はない。あくまで魔法や神術といったものに限定されるのが物惜(ものお)しいところだ。
一瞬で距離を詰められあえなく私の服は男に持ち上げられナイフが首筋に突きつけられる。私の物言いに非があったことは認めるが、あまりの乱暴さに少し咳(せ)き込んでしまった。
それでも…、私が『それ』に感じていたのに【恐怖】は見当たらなかった。どれだけ頭の中を探しても、男を怖(おそ)れている感情はない。
あぁ、…こんなものなんだ。そう思ってしまうのは、恐怖に麻痺(まひ)しているからだけじゃない。私が人の心を失くしてしまっているからだと気づくのに、そう時間は掛からなかったことは悲劇だろうか。
確かに彼らの瞳には仲間を害する敵を薙(な)ぎ倒す殺意が鮮明(せんめい)に見え透いている。他にも周りに待機している彼らからも彼らなりに本気なことは私にも分かる。
だけど、どうしてもそこに【恐怖】を感じることはできなかった。だってこんな生温(なまぬる)いものが『恐怖』だなんて私からしてみれば笑い過ぎて思わず、涙が出てしまう…。
しかしそれは私にとってとても都合が悪く、言うなれば彼らとの接点が露見(ろけん)になった時点で詰む。本当に、最悪の最悪で詰むのだ。
今もジリジリと私を捕獲(ほかく)したいと緊迫(きんぱく)めいた空気が物語っている。確かにこの状況だけ見れぼ『鴨(かも)が葱(ねぎ)を背負ってきた』ようなものだ。もちろんいきなり武力(ぶりょく)行使(こうし)で来るのなら躊躇(ちゅうちょ)することなく応戦するが、私が望むのはあくまで『対話』なのだ。
このままでは埒(らち)が明かないと思い両手を上げる。いわば警察に『動くな』と言われたときの姿勢である。此方に戦闘(せんとう)意思(いし)はない。それを伝えてもなお警戒が緩まないのは、まだ私を人質にする選択が残っているからだろうか。
「突然の来訪(らいほう)に無礼は承知の上、私が望むのは貴方達(あなたたち)との対話です。どうか、私の話だけでも聞いていただけませんか?」
「…油断を誘うための囮(おとり)ならやめておけ。どうせあのクソ騎士達の策略(さくりゃく)だろ」
「いえ。あの方達とはちゃんと話をつけてあります。それに例え彼らの策略に乗り囮となるよりも、私が単身で片付けた方がずっと早いのでその必要性がありません」
思っていたよりも冷たい声が出た。仮面で上半分の顔を隠していても、さっきまでの笑顔が消えて一切の表情筋が使われなくなったことで彼らも異様さを感じ取ったのかたじろく者も何人かいた。
「ハッ…、神殿で何にも知らず神の真似事なんかしてるガキが何の冗談だ。こっちはテメェらのそのお上品なクソ神官どもに踏みつけられて死んだ奴の集まりなんだよッ」
滅多に聞き慣れない罵声(ばせい)だったが、それを言われたとことで私の心は微塵(みじん)も動かなかった。だって私にはなにも関係ない。私は多くを救うために身を焦がしているのに、その途中で溢(こぼ)れ落ちていったものを一々(いちいち)数えられる余裕なんてないのだ。
「落ち着いてください。私が貴方達に提案するのは一つ。数年間【メシア教】の活動を潜めてください。そうすれば、その間(かん)必ず【アルティナ教】を廃するとお約束致します」
空気がビリビリと揺れる。警戒は最大に、それでも内側では激しく揺れているのがわかる。他でもないアルティナ教の第二最高権力者である私が発言したことだ。関係者の耳に入れば【魔女(まじょ)裁判(さいばん)】に掛けられてもおかしくない。
「…信じられねぇな。お前みたいなガキの甘言にはいそうですかって言うと思うか? 俺らをあまり見下げるんじゃねぇよ。こっちは命賭けて戦ってんだ」
…彼の発言は正しい。この世界は綺麗なだけじゃ到底生きられないことを私が一番知っているから、彼の考えることも分かる。だけど、今はそれがただひたすらに鬱陶(うっとう)しいと考えてしまうのはきっと嫌な人間に成り下がった証拠だ。
「この提案を退(しりぞ)けると言うのでしたら、此方もそれ相応の手段に出させていたたきます。多少の犠牲も致し方ありませ「あ゛??」」
私が言葉を言い終える前に、膨大(ぼうだい)な荒(あら)めいた波長の魔力が暴発する。ただ味方に一切の影響を与えてないということはコントロールに関しては問題ないのだろう。かくいう私もちゃっかり防御している。
「なぁ、お前今なんて言った? 多少の犠牲? なぁ、ふざけんなよおい。お前みたいな空腹も知らねぇ奴が踏みにじっていい命なんて此処にはねぇんだよ!!!」
神術で作った防御陣(ぼうぎょじん)には物質的な攻撃を阻害(そがい)する効果はない。あくまで魔法や神術といったものに限定されるのが物惜(ものお)しいところだ。
一瞬で距離を詰められあえなく私の服は男に持ち上げられナイフが首筋に突きつけられる。私の物言いに非があったことは認めるが、あまりの乱暴さに少し咳(せ)き込んでしまった。
それでも…、私が『それ』に感じていたのに【恐怖】は見当たらなかった。どれだけ頭の中を探しても、男を怖(おそ)れている感情はない。
あぁ、…こんなものなんだ。そう思ってしまうのは、恐怖に麻痺(まひ)しているからだけじゃない。私が人の心を失くしてしまっているからだと気づくのに、そう時間は掛からなかったことは悲劇だろうか。
確かに彼らの瞳には仲間を害する敵を薙(な)ぎ倒す殺意が鮮明(せんめい)に見え透いている。他にも周りに待機している彼らからも彼らなりに本気なことは私にも分かる。
だけど、どうしてもそこに【恐怖】を感じることはできなかった。だってこんな生温(なまぬる)いものが『恐怖』だなんて私からしてみれば笑い過ぎて思わず、涙が出てしまう…。
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