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思惑(しわく)は交わる

目の保養【悪役令嬢視点】

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 当の本人とロノイア公爵は屈託(くったく)のない顔で笑っているがロシアル様は顔面蒼白(がんめんそうはく)モノである。

 たぶん私への無礼…、というよりはお父様を気にしてそうだ。まぁお父様貴族のマナーには殊(こと)の外(ほか)厳しいからね。

 「ロイア! 申し訳ありませんエディス嬢っ。次に御会いするときまでは必ず叱って参りますので」

 「いえ、大丈夫ですよ。ロシアル様もそのようにお堅くならず、お話になってください。私はあまりこういう場に顔を出さず顔見知りが少ないので、仲良くしてくだされば幸(さいわい)いなのですが…」

 「宜(よろ)しいのですか?」

 一応事実なので嘘は言っていない。それにあまりロシアル様に気を張っていただくのも申し訳ないのだ。うら若い青年には一度休息を取る場所が必要である。そう、決して二匹の怪獣の後始末(あとしまつ)に追われる毎日ではなく!

 「はい。勿論です」

 「それでは、よろしく。エディス嬢」
 「よろしくお願いします。ロシアル様」

 意外と砕けた口調で笑うとロノイア様にそっくりで、このギャップに惚れ込む女性は数多そうだ。まぁ私はそんな対象には見えないから案外良い交友相手にはなりそうだ。何より話しが通じるという点で多いに好感度UPである。

 「兄さん! 俺もエディスと話したい!」

 「お前はまだマナーがなってない。友達になりたいならせめてこのような場だけでもちゃんと挨拶できるようにしろ」

 「う゛ぅぅ…、兄ちゃんのケチ」

 「アグレイブ公爵家の面々は相変わらず面白いですね」

 兄弟の押し問答の中、間に割って入ったのは中性的な顔立ちをした美形。お父様達の気兼ねない反応を見れば自(おのず)とその人物の正体が分かる。

 「お初に御目にかかります。クラネス公爵様」

 「おや、私を知っていたのかい? 小さな姫君」

 『小さな姫君』なんて歯が浮つくような言葉をいとも容易く口に出来る辺り女性の扱いがとても上手いのだろう。まぁあの顔に押されたらほとんどの女性が落ちそうだけどね。

 「お父様の反応からそうでないかと推察したのですが…、違いましたか?」

 そんなことを考えながらも表面上では子供らしく不安そうな表情を作る。大体こうしとけば変に疑われないしね。

 「いや、違わないよ。クラネス公爵家当主ベリア・ユナ・クラネス。私の名前だ」

 「それなら良かったです。もし間違っていたらと思うと少し怖かったですわ」

 「それにしては随分と堂々とした挨拶でとても可愛らしかったよ。此方は私の息子のシリアンだ。どうか仲良くしてやってくれ」

 朗らかに笑うベリア公爵が背を押し紹介した彼は、紛うことなき美少年だった。それはもう、美少年である。私と変わらない年頃だろうか。

 白く柔らかい肌、パチクリとした大きな瞳、公爵の美貌をぎゅっと煮詰めたような顔立ちにこれは夫人も相当美人だなと踏んだ。

 残念ながら体調を崩していて出席はしていないようだけど、今度ぜひ会ってみたいものである。美人は目の保養にとても良いのだ。

 「初めまして。クラネス家長男シリアル・ユナ・クラネスです。可愛らしいエディス嬢のお誕生日を心からお祝いします」

 うっ…! か、可愛いぃ‼! 

 これはもう殺傷能力すらも兼ね備える可愛さ! 少し照れくさそうに笑うのが更に可愛さを増している。

 うん。これはもう可愛さの頂点である。断じて、断じてショタではないが貢ぎたい衝動に駆られるというものである。

 「ありがとうございます。シリアル様。折角出席くださったのですから、今宵は存分に楽しんでくださいね」

 「はい。お父様、列も並んでいることですから一度席を外しましょう」

 「うん、そうだね。ほら、ロノイアも行くよ」

 「嫌だ。俺はエディスともっと喋りたいんだ」

 「はいはい」

 駄々をこねるロノイア公爵の首根っこを掴んでズルズルと引きずっていくベリア公爵。

 それをキラキラと尊敬する目で見つめるロシアル様にもう手遅れかもしれないと思ってしまったのは仕方ない。というかあの巨体をいとも簡単に引き摺(ず)れるベリア公爵も凄いや。

 とにかく色々騒がしい人たちを回収してくれたベリア公爵には感謝して、列に並ぶ貴族達に挨拶していく。

 形式通りの挨拶に加え少しドレスや料理のことも聞かれ、それに丁寧に答えていくと良い印象を与えられたのかほとんどの人が好印象を持ってくれたようで最初の滑り出しとしてはとても順調である。

 料理の品々は問題なく追加注文も入っているようだからあとはもう少しで運ばれてくるデザートだけだよね。

 これには結構時間を掛けて作り上げた試作品だから期待が募(つの)ね。無事成功してくれれば良いんだけど…。
 
 
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