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七氏と巫女の出会い

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「おえぇぇぇぇぇぇええええええ…………」

「おうおう、吐け吐け」

 山に囲まれている道、我がたくしーに乗り少し経ってから気分が悪くなり、素直に父上に言ったところ、どこか停車できる場所を探し止まってくれた。

 どんなに濁っていても、車内の空気より外の空気の方が気分が良くなるはずと、道の端で蹲り胃からせり上げてくるものを父上が準備してくれていたであろう袋に………まぁ、うん。出していた。

「ぎぼじわるいでず、父上…………」

「これは完璧乗り物酔いだな。さすがに体が持たなかったか」

 乗り物酔い、そのようなものがあるのだな。
 我、馬車に乗っても特に気分は害さなかったのですが、何故たくしーだとここまで気分が悪くなるのか。

 眩暈と吐き気、頭痛が酷い。

「これは一度戻った方がよさそうだな。これ以上現代にいると七氏の身体がもたん」

「確かにそうですね。私が運転しますか? まだそこまで離れておりませんので、すぐにつきます」

「いや、これ以上七氏をタクシーに乗せておくと、もっと悪化するだろう、ワシが連れて帰る。百目はまた神社まで運転してもらっても良いか?」

「わかりました。七氏様、こちらを少しでもお飲みください。今よりは気分が良くなるかと」

 百目に渡されたのは、透明な入れ物に入っている水? 
 上の方に白く丸い物が付いておる。これは、どのように飲めばいいんだ? 

「あ、これはペットボトルと呼ばれている、飲み物などを運べる容器です。上のキャップと呼ばれるところを回すと開ける事が出来ます」

「おぉ、良かったのぉ七氏。礼を言うぞ、百目」

 百目が白いきゃっぷと呼ばれているところを取って我に渡してくれた。
 中を覗くと、透明な水がタプタプと揺れている。

 ゴクッ ゴクッ

「むっ、これは我が屋敷で飲んでいる水と同じ味がするぞ」

「はい、あやかしの世界から持ってきた物なので。現代の水は、少々私とは合わず飲めないのですよ」

 困った様に眉を下げている。

 百目は現代で仕事をして長いと聞いていたが、それでも苦手なものはあるみたいだな。

 それほどまでに、我が住んでいた世界と現代は異なるという事か。これは、骨が折れそうだぞ……。
 慣れんと父上のようになれんから頑張るがな。

「では、七氏も落ち着いてきたようだから、送っていくぞ。戻ったら氷璃ひょうりが氷枕や水を用意して待っているはずだ。素直に言う事を聞くんだぞ? 変に見栄を張るんじゃないぞ、良いな?」

「はい」

 そこまで言われなくても大丈夫ですよ、さすがにここまで気分が悪ければ、見栄を張る余裕もない。

「では、百目、またあとでな」

「はい」

 父上が我を抱きかかえ上に跳んだかと思うと、一瞬で神社に戻ってきた。

「おえ…………」

「大丈夫か? もう一回吐いても良いぞ?」

「いえ、まだ我慢できます…………」

 おえぇぇえ、頭がぐわんぐわんする。
 父上が我を運んでくれている振動までも、頭に響き痛い。水を飲んで少しは落ち着いたが、これはまずい。

「うえ……ん?」

 あ、人がおる。おそらく、さっき本殿から出てきた人なのだろう。箒を持って掃除をしているみたいだな。

 目を細めよく見てみると、その人が巫女の姿をしていることがわかった。
 黒髪を後ろで乱雑にまとめ、顔を俯かせている。

 健康的とは言えない見た目、雰囲気。
 あの子がこの神社を整備している子供。本殿に住んでおるのか……。

 考えていると父上が森の中に入ってしまったため、巫女姿の子供を見る事が出来なくなった。

 そのまま神木を通り、屋敷で待っていた母上と合流。
 父上は最後に我の頭を撫で、現代に戻ってしまった。

 母上の肩を借り部屋に戻ると、看病用の物が一式そろっていた。これはこれで複雑なんだが……。

「では、着替えましょう。大人しくしていなさいね」

「いや、着換えるくらいなら自分でできますので大丈夫でっ――」

「なにか?」

「ナンデモアリマセン」

 今一瞬、辺りが凍り付いたように寒くなったぞ、母上……。
 やはり、我の両親二人とも、怒らせてはならん。

 恥ずかしながら、母上に着換えを手伝ってもらい寝間着に。
 布団の中に入り、おでこには白いタオルを乗せて横になる。隣には母上が心配そうに我を見下ろし………うん。

 ────気が散って寝れん。

「母上、あの」

「はい、どうしたの?」

「寝れないです」

「まぁ、眠れないほどに気分が悪いという事ね。どうしましょう、何かしてほしい事はあるかしら。遠慮なく言ってごらんなさい?」

「…………一人にして頂きたいです。人の気配があると、少々落ち着かないため」

 何とか言葉を選んだのだが、母上は目を開き驚いた後、落ち込んでしまった。
 心苦しいけれど、さすがにこれでは眠れん。

 心配していただけるのは嬉しいが、眠る時は一人にしてほしいものだ。

「わ、わかりました…………」

 あぁ、トボトボと歩き出してしまった。
 母上、すいません……。

 襖を開け、外に出た母上を見て、我は寝返り部屋の奥の方を向く。

 まだ頭が気持ち悪い、頭痛がする。
 吐き気などはだいぶ落ち着いたが、これは日を跨ぎそうだ。

「…………我にはまだ、早かったのだろうか」

 あのような場所でも、父上は変わらぬ態度だった。
 我は少しも持たんかったのに。

 父上が凄いのは知っていたが、ここまでの差があるとはな。

 我も同じようになれるのだろうか。
 我も、父上に近付くことが出来るのだろうか。

 こんな、現代に行っただけでここまで気分が悪くなる我が……。
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