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その教師、クソ野郎につき

「家族が来てくれはる」

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 十年程前。
 魔王を討った四人の英雄がいた。
 【大戦士】ヴィクトウィル・ゼリービーンズ。
 【大神官】アレクシス・シュークリーム。
 【大盗賊】チャター・プリン。
 そして、その三人の中心にいた【大魔法使い】シャルルルカ・シュガー。
 暫くの間、消息を経っていたシャルルルカだったが、今はドロップ魔法学園の教師をしている──。

 □

「授業参観?」

 四年D組の教室にて。
 授業と授業の合間の休み時間。
 レイとマジョアンヌは今週末にある授業参観の話をしていた。

「はい。授業参観日には、皆さんのご家族が教室を訪れ、授業を拝見しに来てくれるんですわぁ」
「家族ですか……」

 レイは苦笑いをした。
──あたしに家族はいないからなあ……。

「レイちゃんは誰か見に来る方はいらっしゃいますかぁ?」
「あたしは……いません」
「あらぁ、そうですのぉ? 実はマジョ子もなんですのぉ!」
「え? マジョ子ちゃんも?」

──家族がいないんですか?
 レイがそう言う前に、マジョアンヌは次の言葉を発した。

「お父様もお母様もお仕事が忙しくて来られないらしいんですのぉ。仲間がいて良かったですわぁ」
「あ。そ、そうなんですね」

──そっか。来られない人もいるよね。
 レイは失言しなくて済んで良かったと、胸を撫で下ろした。

「わしんところも来おへんと思う」

 聞き耳を立てていたエイダンが口を挟んできた。

「落ちこぼれのわしより、優秀な兄貴の方に行くやろしなあ」
「ご兄弟がいるとどうしてもダブルブッキングしてしまいますからねぇ。キョーマくんはどうですのぉ?」

 マジョアンヌは隣に座っていたキョーマに問いかける。
 キョーマは困ったように眉尻を下げた。

「昨日、来るって手紙が来た……。家、遠いから来なくて良いってのによ」
「とか言うて、ホンマは嬉しいんやろ?」
「う、嬉しくねえよ! 久々に顔見れるのはそうだけど……」
「嬉しいんやん。素直やないねえ」

 がはは、とエイダンは豪快に笑った。

「家族が来てくれはるの羨ましいわあ。かっこええとこ見せなな?」

 エイダンとマジョアンヌがキョーマを微笑ましく思う中、レイは顔を真っ青にさせていた。

「ちょ、ちょっと待って下さい。みんなの家族がいる前で、シャルルルカ先生が授業する……? それはヤバい。ヤバいですよ」
「流石のシャルル先生でも分別ぐらい……」
「全校生徒の前で魔物の幻影見せた人ですよ!? 大勢の前で何もしないとお思いですか!?」
「それは……言い切れへんけど……」
「でしょう!?」

 ぐううううう。
 突如、唸り声のような音が教室に響く。

「へっ? 何の音?」
「僕のお腹の音だよ。恥ずかしいな」

 ぽっちゃりのクラスメイトが照れ臭そうに笑った。

「君はデイヴくん。……でしたよね?」
「おや、記憶に残して頂けてるなんて、光栄だよ、レディ」

 デイヴはキラリと光る歯を見せつけた。

「れ、れでぃ……」

 レイは呼ばれ慣れない呼び方に困惑する。

「僕の名はデイヴ・クレームブリュレ。よろしく」

 デイヴはレイの手を取り、手の甲にキスをした。

「て、てめえ、何してんだ!?」

 キョーマが声を荒げる。

「手の甲に、ちゅっ、ちゅーなんて……!」
「紳士の挨拶さ。君はしないのかい?」
「しねえよ! 普通そういうのは、好きな人にするんもんだ!」
「じゃあ、良いじゃないか。僕はレイさんのことが好きだからね」
「なっ……!」

 キョーマは顔を真っ赤にさせた。

「まあまあ」

 エイダンがキョーマの肩を掴んだ。

「キョーマ、ちと落ち着きや。デイヴは誰に対してもこうなんよ」
「はあ!? 誰彼構わずちゅーすんのかよ!?」
「女性限定や。わしら男にはせえへん」

 デイヴはうんうん、と頷いた。

「女性には優しく! ママに口酸っぱく言われてるからね!」

 それにしても、とデイヴは話題を戻す。

「お腹が鳴ってしまうのは困ったな。授業参観のときは、お腹が鳴らないようにしないと」
「わしも寝ぇへんように気ぃつけなな。みんなが見てる前で居眠りなんて恥ずかしいわ」
「そ、そっか。色んな人が見に来るんですもんね。シャルル先生だけじゃなく、あたしも気をつけないと」

 レイは「あれ?」と首を傾げる。

「でも最近、エイダンくんの居眠りの頻度が減った気が。プッツンもしてないような?」
「ホンマか!? シャルル先生に教えてもろた、ネムレナソウのおかげやろか」

 エイダンは嬉しそうに言う。

「先生が? 相談したら、僕のお腹の虫もどうにかしてくれるかな?」
「どうでしょうね……。先生は気紛れですから。お腹が減ってるのなら、中休み中に食べておくとかどうです?」
「それでも減ってしまうんだよ。授業中に食べれたら良いんだけど、流石にそれをする訳にはいかないからね……」

 デイヴは苦笑した。

「次の授業を始めるぞ」

 シャルルルカが乱暴に教室の扉を開けた。
 彼は手に紙袋を持っている。
 その紙袋から香ばしい匂いが漂ってきていた。

「その美味しそうなの、どうしたんですか?」
「街で買ってきた。私のおやつだ」
「まさか授業中に食べる気ですか!?」
「出来立ての方が美味いからな」

 そう言いながら、シャルルルカは袋から取り出したドーナツを頬張る。

「お前らも飲み食いして良いんだぞ。私が許す」
「あんたが食いたいだけでしょ……」

 レイは呆れた。
 シャルルルカは帽子の内側からティーセットを取り出して、教卓に広げた。
 シャルルルカの自由さに、デイヴ達はポカンと口を開けている。
 ドーナツとハーブティーの良い香りの中、授業が始まった。
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