ドS変態若社長に調教溺愛されそうなので全力で回避したいけど無理かもしれない

酉埜空音

文字の大きさ
24 / 46

:若社長、項垂れる:

しおりを挟む
 一つ屋根の下、人間を回避するというのは思いの外難しいものだった。
 しかもなぜか、辰之進は本社ではなくお屋敷で仕事をしているのである。鉢合わせないように気をつけていても、近くを通ったり声がしたり、その度に彩葉は動揺してしまう。
 大御殿とはいえ、各部屋入り口が都合よく複数あるわけでもない。
 例えば、大広間なら右のドアから辰之進が入ってくるのを視界に捉えるなり左のドアから走って退室すればいいけれども、辰之進も彩葉もよく使う図書室やオーディオルーム、小会議室は入り口が一つしかない上、外から中の様子が見えにくい。だから鉢合わせる可能性が高い。

 今も、辰之進が少し前に自室へ向かって歩いたのを確認してから図書室の掃除に来たのに、すぐに辰之進とナカゾノのバカ御曹司がやってきてしまった。
「しまった!」
 咄嗟に箒を抱えて棚の影に隠れて息を潜める。

ーーはやく立ち去ってよー……

 辰之進は探している本があるのだろう、彩葉に気付くことなく目的の場所へと向かい、再び戻ってくる。
 ナカゾノの馬鹿は英文の雑誌を手に戻ってきた。
「辰之進、この博士の著書あるかい?」
「あ、あるぞ。確か姉上が購入したと言っていたから……」
 お姉さんがいたのね、と、彩葉は目を丸くする。今まで誰もそんな話しはしなかったし、このお屋敷にそんな気配もない。話してくれないには事情があるのだろうが、少し寂しい。
「これだ」
「……ありがとう。辰之進、余計なお世話だとは思うけど彩葉ちゃんとご両親に、その……」
「……そろそろ、言わなきゃならないな」
「大丈夫、あの子なら」
「うむ」
 お姉さんの話題はそこで終わり、本の話題へと移行する。そっと本棚から顔を出して覗けば、その横顔がキリリとしていて思わず見惚れてしまう。
 黙っていれば辰之進は美形ーーというか忘れがちだが、ハイブランドのモデルでもある完璧な容姿の男なのだ。

ーーあの隣に立つの? ちんちくりんのあたしが?

 うむー、と考え込んでしまったため、少し隙ができてしまった。

「わー! 女王様じゃないか! さあぼくを蹴ってくれたまえ」
 と大声で言いながら背後から抱きついてきて、両手で胸をぎゅっと掴んだ者があった。
 ちなみに今日は赤いスーツでやたら光沢のある素材だった。
 出たな馬鹿変態御曹司! と叫びそうになるのをぐっとこらえる。
「や、やめなさい!」
「悪い下僕にお仕置きしたいでしょ? ほらほら、はやくしないとエスカレートするよ? それにしても、またサイズが大きくなったね。辰之進とぼくが揉みまくるからだね」
 もにゅもにゅ、と揉まれ、先端をくりくりと刺激される。
「や、やだ、やめて……」
「明るいところで綺麗な体を見たいから……露出させちゃおうかな! ほら、脱いで」
 どこから取り出したのか、ハサミがその手にある。
「ほら見て! おっぱいがすぐに揉めるよう胸元をセクシーに穴あけしてみたよ」
 は、と彩葉の目が点になった。なぜ胸元に大穴があき、ほらね、と、変態が嬉しそうに手を突っ込んでいるのか。
 減点、いや、そもそもこの男に持ち点はない。幻滅するほどの何かも抱いてはいない。
「あのね!」
 救いようのない馬鹿ですか、と叫ぶが
「え? ダメ?」
 と無邪気な顔だ。
 ダメに決まってるでしょう、と力が抜けてしまう。こんな倫理観が欠落した男が時期社長でナカゾノ工業は大丈夫なのだろうか。
「ね、女王様、動いて見せてよ。エロメイド、辰之進も喜ぶと思うけどな」
「どいつもこいつも! まともじゃない制服で働けるわけないでしょ!」
「ふへへ……女王様、辰之進なんかやめてぼくのとこに嫁に来ない?」
「お断りよっ!」
 彩葉の怒号と華麗なる投げ技の気配に、辰之進がすっ飛んできた。
「あっ……」
 視線がばっちり合ってしまい、顔が赤くなってしまう。
「彩葉大丈夫か! あ、胸を丸出しにしてーーまさか、誘ってくれているのか?」
 はっとして慌てて胸元を隠す。
 赤いスーツの変態を投げた時に、穴から胸がこぼれ出てしまった。
「や、やだっ!」
 こんな格好で辰之進と二人きりになったら、なし崩しで抱かれてしまう。好きかどうか気持ちを確認するまでは、絶対に抱かれてはいけない。

ーーよし、逃げる!

 くるりと回れ右をして、図書室から駆け出す。
「彩葉、待て!」
「いやです」
 毛足の長い、ふかふかの絨毯が敷き詰められた廊下を全力で走る。最初は走りにくいと思った廊下だが、今ではすっかり慣れた。
「止まれ、彩葉!」
 絶対止まらない! と心の中でのみ返事をしてスピードを上げる。
 辰之進が螺旋階段を使うから彩葉は使用人用の階段を使う。それを承知の辰之進もそっちへと走る。
「くそっ、ちょこまかと!」
「捕まるわけにはいかないの!」
「止まれ、逃げるな!」
「お断りよ!」
 屋敷の中を、右へ左へ、上へ下へ。もはや、九条さんも執事も、誰も彩葉には何も言わない。
「九条さん、ぼっちゃまはタフになられましたな。あんなに一生懸命に走って……」
「ええ、諦めのよすぎる点が気にかかっていましたけど、思い通りにならない女性というのも宜しいようで……」
 二人の目の前を、成人男女が追いかけっこして通り過ぎる。

「彩葉、ま、まてーっ!」

ーーぴしゃん、ガチャリ。

 辰之進の目の前で彩葉の部屋の扉が閉まり、鍵までかかった。
「……彩葉、なんでこんなことを……」
 辰之進は扉の前で項垂れた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...