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一章

8話

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8話
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 冒険者カードを提示して門を出る。
 これ、スムーズで良いな。
 貴族だとこう単純には行かない。

 事前に書類を提出しなきゃいけないし。
 門番からもチェックが入る。
 だからってわけじゃないだろうけど、私はほぼ王都から出たことがない。

 まぁ、それだけ冒険者の価値が低く見積もられてるってことなんだろうけど……

 王都の外はしばらくは草原が広がっている。
 東側に湖があって、西側には森がある。
 門から真っ直ぐに伸びる街道を進めば別の街に着くはずだ。

 王都の外と言っても、ここは人の往来も多い。
 当然というべきか、魔物がそうポンポンいるわけじゃない。
 そんな状態じゃまともに街の行き来も出来ないしね。

 森の方に入れば違うのだろうけど。
 ゴブリン以外も出るだろうし、死角になる場所も多い。
 ソロの状態じゃあまり入りたいとは思えない。

 辺りを見回しがら王都の周りを散策する。
 魔物を探すんだし、最低でも街道からは離れた方がいいだろう。
 しかし、これは稼ぐの結構大変だな。

 正直ゴブリンを5匹討伐なんて余裕だと思ってた。
 魔物の討伐なんてやったことがある訳ではないが、的代わりにしたことは何度かある。
 まさか見つける方が大変だったとは。

 森、森ねぇ……

 多分あっちにはいるんだよね。
 死角が問題なら、森の中にさえ入らなければ大丈夫かな?
 そっと近づいてみる。

 外から様子を伺う。
 居た。
 いくら探しても見つからなかったゴブリン、しかも群れだ。

 多分、私と同じ様な思考回路の冒険者も多いんだろうな。
 低級の冒険者はあんまり森に入りたくない。
 森に入る様な冒険者は、わざわざゴブリンの相手をする様なレベルでもない。

 そうなると、向こうも多少は学習するのだろう。
 森からでなければ安全だ、と。
 だからこんな浅い場所でもゴブリンがいるんだ。

 森の外から狙いを定める。

 中級魔法なら詠唱無しでも発動できる。
 多少威力は落ちるが問題ない。
 と言うか、ゴブリンが相手なら杖も要らないか。

 こんな雑に魔法を使うのなんて久しぶり。
 魔力で水の槍を形成し、発射する。

「ギャッ!」

 汚い断末魔を上げて生き絶える。
 余裕だな。
 やっぱり、ゴブリン相手だと無詠唱の中級魔法でもオーバーキルらしい。

 他のゴブリン達も仲間の声で異変には気付いた様だが、どこから攻撃されたのかも分かっていないらしい。
 慌ててるだけ。
 これじゃただの的と変わらない。

 さっきの手応え的に初級魔法でも事足りそうか。

 幾つかの水球を空中に浮かべる。
 初級魔法とはいえ無詠唱での同時発動、初めてやった時はなかなかに苦戦した技術だ。
 全弾を一気に発射する。

 綺麗なヘットショット。
 今度は断末魔さえ上がらない。
 我ながら天才だな。

 群れとの戦闘だったが、ただの作業だったな。
 気づかれる事なく、森の外から全てのゴブリンを処理しきった。

 全部で5体はいる、か。
 これでゴブリンの討伐依頼は達成だな。
 見つかりさえすれば簡単だった。

 依頼書には5体~とあったし、何体も狩ってもいいんだろうけど。
 それは勿体無い。
 早めにランクを上げたいし。

 また受け直してから狩にこよう。
 森は穴場だ。
 中に入らなきゃ危険も少ないし。

 後は、確か討伐の証明のために耳を切り取らないといけないんだっか。
 この作業、なかなかにうざったいな。
 風魔法で一発なのだが、森の浅いところで使ったりして周りに同業者がいたらギルドへの虚偽申告がバレる。

 冒険者なんて犯罪者でもなれるぐらいガバガバだし、直ちに問題になるってことはないと思う。
 でも、なんで隠してたのって話になるだろうし。
 探られたら痛い腹を持つ私としては、出来るだけ避けたい展開だ。

 風の魔法使いって事にしとけばよかったかな?
 でも、冒険者として行動するなら水は普段使いする可能性が高いからなぁ。
 いざ使えないと不便なのだ。

 ゴブリンの死体を森の外まで運び出し、せっせと作業する。
 子供程度の大きさとはいえ、私には結構な負担だ。
 男手が欲しいけど、パーティー組むわけにも行かないしどうしたものか。

 手持ちの刃物は……
 これしかない。
 まぁ、どうせもう使わないしいっか。

 公爵家の紋章の入ったナイフでゴブリンの耳の剥ぎ取りとか、なかなかに侮辱的なことをしている気がする。
 まぁ、私を勘当した家だ。
 そうやって血に塗れてる姿がお似合いだ。

 しかし、ゴブリンの皮膚って結構硬いんだね。
 魔法ではこうスパッと簡単に切れた覚えがあったんだけど。
 ナイフの扱いは慣れてないからなぁ。

 力ずくでいって返り血とかも浴びたくないし。
 この服いくらしたと思ってるんだ。
 ゴブリン数体でダメにしてたら大損である。

 冒険の時は多少我慢してあの安い服でも着るか……

 いや、上からローブでも羽織れば十分か。
 なんか魔法使いっぽいし、いいかも知れない。
 ついでに顔も隠せる。

 まだ学園に通ってる年齢の公爵令嬢の顔を知るものなんて少ないが、冒険者は女というだけで結構目立つ。
 トラブルになってもいいことなんてないしね。

 あとは、何か入れ物も買わないと。
 汚れてもいいやつ。
 この耳、今日は仕方なく手で持って帰るけど流石に何か袋的な物が欲しい。

 金を稼ぐのにも金がかかる、か。
 世知辛いね。

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