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一章

10話

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10話
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 稼ぎが足りない。
 しかし、だ。
 昨日まで学生をやっていた様な私が多少考えたところで稼げる方法など思いつくはずもなく。

 どうしたものか……

 まだ、手持ちのお金に多少の余裕はある。
 とはいえ、何かを始めるとなったら軍資金も必要だろうし。
 すっからかんになってからでは遅いのだ。

 今、お金のある内に始めなければ。
 商売始めるでもいいし、芸事をしてみるでもいいし。
 取り敢えず何かしないとダメだ。

 そうは思っているのだが、結局思いつかない。
 そこに帰着する。

 どこかに儲け話が転がってたりしないかな。
 誰かが私にそんな話を持ちかけて来てくれたり、とか。
 乗っかるだけで儲かるようなそんな話。

 ……

 そんな都合のいい話、ある訳ないか。
 仮にあったとしても、貴族だった頃ならともかく今の私にそんな話が回ってくるはずもない。
 相手方になんのメリットもないし。

 どうせなら勉強しておけばよかった。
 当時の私は興味なかったけど、学園には確か経営だとかの授業もあったはずだ。
 基本的には次男や三男などの貴族位を継がない者向けのものだったけど。

 まぁ、今更後悔しても遅いか。
 そもそも、当時は家を勘当されるとか想像もしてないわけで。
 将来役に立つはずもない授業に割いてる時間はなかった。

「ねぇ、おじさん。何か儲け話とか知らない?」

「何だ急に」

「お金欲しいなーって」

「知らねーよ。そんなのあるんなら俺だって知りたいわ」

 ダメ元で聞いてみたけど、さっぱりだった。

 屋台のおじさんである。
 冒険者として一仕事終え、考え事をしながら特に行く当てもなくぶらぶらと彷徨っていて。
 気がついたらここにいた。

 体がトードーを求めていたのだろう。
 自然と足が向いたのだ。

「しかし、昨日食べたのにまた来たのか」

「悪い?」

「いや、お得意様が増えて嬉しい限りだ」

「そっか」

 安くて美味い。
 食べ物に求める条件として、これ以上のものはない。
 完璧な食材だと思う。

 あとは見た目さえ良ければ文句ないんだけどね。

「そんなに金が欲しいって、何に使うんだよ」

「うーんと、生活費?」

「……、そういや昨日宿がどうたらって言ってたな。親はどうした」

「いなーい」

 勘当されたのだ。
 もはや居ないと言っても差し支えないだろう。
 どのみち頼れないんだし。

 しかし親、か……
 魔法使えるし、どこかの貴族にパパって泣きついてみるとか?
 名付けて、パパ活!

 いや、ダメだな。
 庶民相手ならともかく、貴族なら私の顔ぐらい知ってるだろう。
 元公爵令嬢だし、王子の元婚約者だし。

「今は何やってるんだ?」

「一応、冒険者?」

「結構長いのか」

「全然、今日なったばっかりだから。ほら、私のカード」

「今日? それDランクの冒険者カードだろ」

「私、魔法使えるからね。ここからスタート。凄いでしょ」

「そりゃ、優秀だ」

「そ、そう……?」

 こんな風に褒められたの、いつ以来だろうか。
 幼い頃は何か出来るようになるたびに、両親にもメイドにもいっぱい褒めてもらえていた気がする。
 私も褒めてもらいたくていっぱい頑張った。

 それがいつからかだろう、出来て当たり前になったのは。
 逆に出来ないと怒られる。
 売女に負けた時なんて、人格否定並の罵倒だったし。

 最後には私の人生は全て否定されて、家からも勘当された。

「そうだ!」

「何?」

「Dランクってなら、トードーの肉取って来てくれよ。もう受けられるだろ?」

「それは嫌」

「何でさ」

「見た目が気持ち悪い、何より触りたくない」

「さっきまで美味そうに食ってたくせに、ひどい言いようだ」

 まぁ、堅実に稼ぐなら冒険者続けていくのが一番なんだろうけど。
 手持ちの資金を食い潰す前に支出を収入が上回れるかどうか。
 一番デカいであろう宿をどのレベルで妥協できるかと、冒険者としての昇格スピード次第だな。

 一件一件の報酬は安くても大量に依頼をこなせれば良いんだけど。
 中級魔法使いとして登録してる以上、数をこなしてカバーするって訳にも行かない。
 そんな事したら明らかに不自然だし、中級魔法使いで登録した意味がない。

 いっその事、魔法剣士という設定にするのもありか。
 いや、私は剣なんて使えないんだけど。
 言い訳として、魔物のほとんどは剣で倒しましたよってのもありかも知れないと思って。

 使いもしない剣を買うのもどうかと思うが、まぁ安物ならゴブリン数体で元取れるだろうし。
 案外、悪くないのか?
 仮に魔法を使ってるところを見られても、魔法剣士だからそりゃ魔法も使うよねっていくらでも言い逃れできる。

 でも、それで稼げたとしても結局銀貨数枚の世界なんだよね。
 高いとこ泊まってたら全部宿代に消えていく訳で。
 仮に冒険者のランクが上がったとしても、今度は危険度まであがっていっちゃうし。

 うーん……

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