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一章

11話

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11話
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 腹ごなしも済んだ事だし、移動するか。
 おじさんと話してるのは楽しいが、いつまでも雑談してる訳にもいかない。
 私には現在進行形で資金難と言う切実な問題があるのだ。

 取り敢えず、思いついたことから試していくとしよう。
 まず剣を買いに行く所から。
 多分、冒険者ギルドの方だよね。

 値段を見て高ければ、その時はまた改めて考えよう。

「やっと見つけた!」

「??」

 突然、後ろから声をかけられた。
 走って来たのだろう。
 振り返ると、男の人が膝に手を付き肩で息をしていた。

 明らかに私に話しかけて来てる、よね?
 この男の人、誰だっけ。
 何処か見覚えがある気はするんだけど……

 あ、思い出した!
 昨日、私の指輪を売った装飾品店の店員だ。
 現在の資産の大元である。

 でも、何の用だろうか。
 私のこと探してたみたいだけど。
 特に心当たりがない。

「えっと、何か私に用?」

「この後に及んで、白を切るつもりか!」

「え?」

突然、何?
この店員、何でこんな怒ってるの?
意味わからないんだけど。

「ミスリルの指輪、あれ偽物じゃないか!」

 ……は?

 偽物?
 あの買い取って貰った指輪が?
 いや、それはない。

 だって、王子に貰った物だし。
 王族ともあろう者が偽物をプレゼントするなんて、ありえないでしょ。
 しかも、自分の婚約者相手に。

 最終的には破棄された婚約関係だったけど、あの指輪を貰った当時はまだ私達の関係は良好だったはず。
 そもそも、学園に売女が来る前の話だし。
 仮に関係が悪化してたとしても、王子が公爵家の令嬢相手に偽物は渡さない。

 ……

 いや、婚約者が居ながら売女に騙されてコロッといっちゃうぐらいの人だからなぁ。
 意図して偽物を渡すつもりは無かったとしても、詐欺に遭って偽物掴まされるなんて事があってもおかしくはないか。
 性格の根本的な部分なんてそう変わる物じゃないし、指輪を貰ったのが売女と出会う前でも後でも関係ない。

 とことん私の人生の邪魔になる男だ。
 せめて資金現にぐらいなってくれてもいいのに。
 それすら偽物って……

 貧乏神とかその類なんじゃなかろうか。
 そう疑ってしまうレベルだ。

「金返せ!!」

 店主が怒るのも分かる。
 ミスリルなんて高級品、多少無理して金を出したんだろうし。
 それが偽物となれば損失は膨大だ。

 ただ……

 私の手持ちは、金貨11枚と銀貨銅貨が何枚かずつ。
 当然買い取って貰った金額には足りない。

「……金貨10枚でいい?」

「は!? そっくりそのまま返しやがれ!」

「無理、もう一部は使っちゃったし」

 ま、だよね。
 でも、無理なものは無理だ。
 無いのは本当だし。

「そんなの通るか!」

「偽物だって気づかずに買い取っちゃった訳だし、そっち側の責任もあるでしょ?」

「脅して無理やり買い取らせたんだろうが! 何としてでも返して貰うからな!」

 あ、そう言えばそうだった。
 しかし、困ったな。
 店主側が正しいのは理解できるが、無いものは無いのだ。

 杖を売れば足りる、か?
 いや、それを売ってしまったらおしまいだ。
 魔法は今の私に残された唯一の強みだ。

 私の服、いくらで売れるだろうか。
 金貨2枚……
 とてもじゃないがそんな高値が付く気がしない。

 何としてでも返して貰うと言われても。
 稼いでこの金額返せるのなら、さっきまでの私は困っていなかった訳で。

「……そう言えばあの短剣、お前例の勘当された貴族の令嬢か」

 あ、バレた。
 そりゃ、気づくよね。
 どうしよう。

 衛兵を呼ばれるのだけは避けないと。

 勘当された身で以前の身分を名乗る。
 こんなの、身分詐称どころの騒ぎじゃない。
 その上で偽物を売りつけたとか。

 本当に殺されてしまう。
 それだけは何とか避けなければ。

 最悪杖を売ってでも、か。

「元貴族か、それなら……」

「もしかして、許してくれたり?」

「いいや、稼いで返してもらう」

 だから、それが出来たら苦労しないんだって。
 でも、待ってくれるならまぁ。
 今の稼ぎじゃいつになるかわからないけど、殺されるよりはマシか。

 もうこの際怪しまれても仕方ないとして。
 ゴブリン1匹40銅貨。
 金貨2枚を稼ぐのに500匹か……

 殺すだけなら簡単だが、見つけるのはそう簡単にはいかないだろうな。

「えっと、とりあえず金貨10枚は今直ぐ返します。後は、ちょっと待って貰うって形で……」

「いや、信用出来ない」

「そう言われても」

「良い儲け話知ってる。そこで稼いで来てもらう」

「え?」

「こっちだ。ついて来い」

 儲け話。
 こんなのあからさまに怪しい。
 少なくとも良い話じゃ無い。

 でも……行くしかない、よね。

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