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一章

15話

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15話
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 取り敢えず、あの惨状を適当に誤魔化すように指示だけ出してその場から離れて来た。
 一刻も早くスラムを出たかったし。
 それ以上に、自分でも混乱してるのが分かっていたから。

 どうしたものか。
 つい勢いで、「組織ごと私の下につくか、今ここで殺されるか」なんて言っちゃったけど。
 あの場は、ああでもしないと収まらないと思ったからそう言っただけ。

 別に好んで犯罪行為に加担するつもりはないし。
 あんな大規模な犯罪組織を従えたところで、私にどうしろって話だ。

 人殺し?

 あれは正当防衛だ。
 誤魔化す様に言って来たし。
 バレなきゃ問題ない。

 ……犯罪に手を染めちゃいけない理由って何だろうか。

 いや、いくらでもある。
 あるんだけど。
 それこそ法律違反だとか、困る人が出てくるとか。

 私としてはこの国なんてどうなってもいいし、なんならボロボロになってくれた方が嬉しいまである。
 国は国民あってこそなんて言葉もあるが、ならいくら被害者が出ても気にはしない。
 1番の問題は、犯罪を繰り返してればいつか衛兵やら騎士団に捕まるだろうって事ぐらいか。
 
 それに……今よりずっと稼げる、はず。
 稼げるだろうなぁ。
 なんたって、あの規模の犯罪組織を維持してたんだし。

 もう人を殺してしまった。
 私としては正当防衛でも、そうは思われないだろう。
 既に立派な犯罪者なのだ。

 デメリットがメリットを上回る、か。
 金の心配をしなくていい。
 着心地の良い服を着れるし、柔らかいベットで寝れる。

 ただ、死にたくはない。
 いくらこれまで上手くやって来たと言っても、いつ国に目をつけられるかわかったもんじゃない。
 その時、一緒に殺されるのはごめんだ。

 関わるにしても、深く関わるべきじゃない。
 金を納めさせるだけ。
 それならまぁ、悪くはないか。

 配下にするとか言っちゃったけど、トップの地位に居るのはやめよう。
 用心棒として雇われる、それでいいんじゃないか?
 この手の組織が目をつけられた時、上は執拗に追われても末端はそうでもない。

 これならお互いウィンウィンだ。
 あそこまであからさまに負けたらボスの権威も失墜するだろうし。
 でも、そこをうまくまとめて取り込んだとなればカリスマだ。

 組織が大きくなれば搾り取れる金も増えるだろうし。
 これでいいや。
 そう言う形で金をもらおう。

 ……

 いや、今だけだ。
 冒険者として稼げる様になれば、清く足を洗う。
 そのつもりだ。

 多分……

 まぁ、犯罪者なんて信用できたもんじゃない。
 ボスにそのつもりはなくても、ね。
 どこから情報が漏れるかも分からないから、いくら美味しくても長居をするものじゃないと思う。

 スラムを抜けた。
 けど、まだあの匂いがする。
 嗅ぎたくもない匂いだ。

 もしかしたら、服に染み付いちゃってるかもしれない。
 それ程長時間いた訳でもないけど。
 血の匂いも相待ってか、匂いが強烈だったから。

 あーあ、この服高かったのに。
 まぁ、返り血を浴びた訳でもないしこれぐらいならすぐ落ちるか。
 ギルドで使ったのと同じだ。

 水魔法で服を綺麗にする。
 外だと蒸発させなくてもいいし、便利だ。
 ただ、使うたびに繊維が痛むからあまりやりたくない。

 でも、すっきりした。
 死臭がまとわりついてる気がして気持ち悪かったのだ。

 今の話をしに一旦スラムに戻らなきゃいけないんだけど、その前にローブを買いに行くべきだろう。
 今日学んだ。
 顔は隠しておいた方がいい。

 初日に行った服屋に来た。

「あ、いらっしゃいませ。いかがいたしました?」

 私のことを覚えていたらしい。
 まぁ、金貨単位で使ったしな。
 この店でそこまで大金使う人間も珍しいだろう。

「ローブを探してるんだけど」

「少々お待ちください」

 店内に大量に並べられた同じようなデザインの服。
 違いといえばカラーぐらい。
 昨日来たばかりなのに、なんか懐かしさすら感じるレベルだ。

 家を勘当されてから毎日の密度がやけに高くないだろうか。
 イベントの連続である。

 退屈はしないが、もう少しゆっくりしたいと言うのが本音だ。

「こちらでよろしいでしょうか」

 色とりどりのローブが並べられる。
 デザインは似たり寄ったり。
 まぁ、この店に買いに来た時点でそれは初めからわかってたけど。

 やっぱりゴワゴワとした手触り。
 服の上から着るだけだし、問題ないだろう。

 目的としても、フードはあった方がいい。
 汚れる物だし、色は黒かな。
 森の中だから緑の方が目立たないって説もあるが……

「これ、いくら?」

「銅貨95枚です」

 黒いローブを指差し聞いてみた。
 95枚か。
 他の服よりは高いけど、全然安いな。

「じゃあ、これで」

 羽織ってみる。
 うん、いい感じだ。

 さて、向こうに話つけに行くか。
 まぁ、あっちとしても歓迎するだろ。
 形だけでもボスに戻れるんだし。

 断るなら、また実力行使か。
 流石にそんなバカな真似はしないだろうけどね。

 またスラムに戻るのか。
 あまり気は進まないけど、早くしないと話が拗れるだろうし。
 善は急げだ。

 ……いや、その前にちょっとだけ英気を養ってから行こう。

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