悪役令嬢のafter story〜王子に婚約破棄されて公爵家からも勘当された少女は好きに生きていく事にしました〜

一章

16話

16話
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　いや、急いだほうがいいのは分かってるんだけどね。
　ちょっと、風上の方からいい香りがして……
　色々大変だったし、自分へのご褒美ぐらいいいよね？

　匂いに釣られるまま、例の屋台に来た。
　もうここにくるのも3回目。
　土地勘がないとは言っても、周りの街並みも段々と見慣れてきた。

　スラムと見比べると、やはりこの辺りは随分と綺麗な街並みをしている。
　冒険者ギルドの周りと比べてもそうだ。
　多分ここ、貴族街を除けば王国で一番いい一等地なのかもしれない。

「トードー、１つちょうだい」

「はいよ、一個銅貨3枚ね」

　注文する。
　さっきまで雑談してた時とは違う声色、仕事モードだ。
　ちょっと面白い。

　そう言えば、最初声をかけられた時もこんな感じだった気がする。
　なんか、途中から変に優しげな雰囲気を醸し出す様になったんだよね。
　理由は分からないけど。

　今、顔隠してるからね。
　私だとは分かるまい。

　いや、別に隠す必要ないんだけど。
　ついさっき食べたのに、またすぐ食べに来たのバレるとなんか恥ずかしいじゃん。
　だから、ローブのフードを深く被ったままだ。

　うん、いい匂い。
　スラムの匂いやら人の血の匂いで汚された鼻が浄化される。
　やっぱり、これだよね。

「……ん？　なんだ、嬢ちゃんか」

「え、よくわかったね」

「そりゃ、可愛い声してるからな」

　しっかり顔は隠してたのに。
　まさかバレるとは思わなかった。
　このおじさん、なかなかやるな。

　それに、可愛いなんて。
　こう正面から言われると照れる。

「驚かせようと思ったのに、失敗しちゃった」

「俺を騙そうなんて10年は早いな」

「そんなこと言って、昨日初めて会ったばっかりじゃん」

「そりゃ、お得意様は忘れんよ」

　お得意様、ね。
　嬉しいような、小っ恥ずかしいような。
　声色の変化もそれが理由なのかな？

「真面目ぶっちゃって」

「おうよ、俺は商売には真剣だからな」

　どうだか。

　いや、この屋台のトードーは美味しいし。
　商売に真面目ってのは本当なのかな？
　見た目と口調が全然そうは見えないけど。

　それに、真面目じゃないとこんないい場所で屋台は出来ないか。
　多分今の私よりは稼いでるはずだ。
　屋台のおじさんの癖に、生意気である。

　いいもん。
　私はアイツらからお金搾り取るんだから。
　これで私の勝ちだ。

「ついさっきも来てたけどそんなに気に入ってくれたのか？」

　う、やっぱそうなるよね。
　まぁ、気に入ったのは事実だけど。
　誤魔化してもしゃーない。

「うん、まぁね」

「嬉しいこと言ってくれるな」

　得意げな顔がなんか腹たつ。
　別におじさんに会いに来たわけじゃ無いからね。
　トードー食べに来ただけだから。

　おじさんのとこ以外でトードーを食べる勇気はないけど。
　やっぱ、カエルだし……

「と言うか、ローブなんて被ってどうしたんだ？」

「これ魔法使いっぽくない？」

「まぁ、確かにそれぽいな」

「でしょ！」

　くるりと回ってみせる。
　自分でもなかなか気に入っている。

　この素材ゴワゴワとしいて着心地は悪いが、ローブの場合別に直接肌に当たる訳でもないし。
　それに、こう言う材質の方がそれっぽい。
　あんまり小綺麗なローブだと強そうに見えないって言うか。

「……もしかして、それだけ？」

「悪い？」

「いや、嬢ちゃんも子供っぽいとこあったんだなって」

「何それ、悪口？」

　子供っぽいって、そうかな？
　別に小さい子達と違って、英雄譚に憧れて格好を真似してる訳じゃないんだけど。
　私は本物の魔法使いな訳だし。

　……

　ん？
　でも、それっぽいって思ってるって事は自分の中で何かモデルはあるのか？
　分からん。

「いや、そんなんじゃねぇよ。子供は子どもらしくいた方がいいからな」

「子どもらしく、ね」

　そもそも、私の場合魔法使いっぽってのはおまけだし。
　メインの理由は顔を隠すためだ。
　でも、顔隠すって言っても引かれるだけだしな。

　その理由を話すとか、正体を明かすなんて論外だ。
　私はここがお気に入りなのだ。
　来れなくなる様なことはしたくない。

　せっかくお得意様認定も貰ってる事だし。
　いつまでもそうありたい。

　子供扱いに文句はあるが、渋々受け入れよう。
　まぁ、屋台のおじさんより年下であることは間違い無いからね。
　なんたって、見た目からしておじさんって感じだし。

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