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※外伝1以降、現在推敲中

外伝1

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外伝1 服屋の店員
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 私は昔から服が好きだった。
 それが講じてなのか。
 いろいろときっかけがあって、ついに服やをオープンすることになった。

 初めはそれなりに順調だった。
 でも、だんだんお客さんが減っている気がする。
 潰れるってほどでもないが、いつかそれを覚悟させるぐらいには。

 そんなある日、少女が店にやってきた。
 間違えて入って来ちゃったのかな。
 それが第一印象だった。

 派手な格好をしている訳ではないが、明らかに高級そうな服を身に纏っていた。
 こんな店になんの様だろうか。
 ただ単に、それが不思議だった。

 店内を見回して、
 陳列されてる商品に手を触れて、
 難しい顔をして、

 もしかして、本当に買い物に来たのだろうか。
 珍しいお客さんだなって思った。
 ただ、彼女の様な人のお眼鏡に適う商品を取り扱ってる自信はない。

「ねぇ、これいくら?」

「そちらですと、銅貨39枚ですね」

「これは?」

「銅貨21枚です」

「こっちは?」

「それは、銅貨46枚です」

 値段を聞かれるたびに少女と服が同時に視界に入る。
 自分で見比べてわかる。
 明らかにこの娘に釣り合う服じゃない。

 ……情けない。

 いつからだろう、こんな風になったのは。
 昔はもっとキラキラした、貴族のご令嬢や貴婦人が来るような店を夢見ていた気がする。
 それが、こんな大衆を対象にした実用性重視の服ばかり置く店に。

 と言っても、現実問題お金がないのだ。
 仕方がないのだけれど。

「これ、試着してみてもいい?」

「どうぞ」

 え、着るんだ。
 ますますこの女の子の事が分からなくなった。
 多分どこか良いとこの娘だと思うんだけど。

 わざわざこんな店に来るぐらいだし、貴族というよりは成功した商人の娘だろうか。

「もうちょっと着心地いいのないの?」

 やっぱりか。
 まぁ、そんな高級そうな服を着てる時点で合う訳ないとは思っていた。
 何を思ってこんな店に来たのだろうか。

 あ、そう言えば、

「でしたら……」

 店の奥から持ってくる。
 昔仕入れたものだ。
 売れるわけもなく、と言うか店頭に置けるはずもなく、ただ肥やしになっていた。

 私としてはそのままでも構わなかったのだが。
 これも何かのきっかけだろう。
 それに、店の資金繰りも悪化していたし。

「これはいくか?」

「そちらですと、銀貨53枚と銅貨75枚ですね」

 自分で言ってても明らかに高いなと思う。
 別にぼったくっている訳ではない。
 ただ、この店の品揃えと合っていないってだけで。

 この娘が来なければ一生売れなかっただろうな。

「じゃあ、それで」

「え、全てお買い上げですか?」

「そうね」

 すごい。
 やっぱりお金持ってる人は持っているんだな。

 合計で金貨1枚と銀貨90枚。
 とんでもない大金だ。
 開店してから今までで一番稼いだ日だ。

 そして、初めて大衆向け以外の服を売った日。

「ありがとうございました~」

 頭を下げる。
 めいいっぱい。

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「あ、いらっしゃいませ。いかがいたしましたか?」

 次の日、あの女の子が来店した。
 昨日売った服を着ていた。
 なんか、感動してしまった。

 今までは私が売った服を誰かが着ていてもなんとも思っていなかったのに。
 そっか。
 こんな風になるんだ。

 あの服は私がそれなりに悩んだ末に身を切って仕入れた服だ。
 思い入れの差、なのだろうか。

「ローブを探してるんだけど」

「少々お待ちください」

 ローブか。
 この女の子は本当に何者なんだろうか。

 そういえば噂で貴族の娘が勘当されたって。
 まさか。
 いや、深く考えるのはやめよう。

 私にとってこの娘は良いお客さま。
 それ以上でもそれ以下でもない。

「こちらでよろしいでしょうか」

 昨日売った服とは違う。
 店頭に置いてある大衆向けのものだ。

「これ、いくら?」

「銅貨95枚です」

「じゃあ、これで」

 でも、彼女は買ってくれた。
 昨日とは違い私の店のレベルを理解した上で、それでも買いに来てくれたのだろう。
 今までの商売も誰かの役には立ってたはずだ。

「ありがとうございました」

 今はまだ無理だ。
 それに、この商売も別に嫌いじゃない。
 ただ、いつか夢を叶えてみようかな。

 その為には、もっと頑張らないと。
 潰れそうとかそんな弱音吐いてる場合じゃ無いよね。

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