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二章

プロローグ

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プロローグ
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婚約を破棄され、家を勘当され、私はただの庶民になった。

ゲテモノ料理を食べたり、
冒険者になったり、
娼館に売られかけたり、

なんだかんだあって、今は犯罪組織で用心棒をやっている。

……どうしてこうなった?

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 王子に婚約破棄され、公爵家からも勘当されてしまった。
 当然、学園は退学だ。
 着の身着のままで家を飛び出した私は、ひとまず指輪を売って生活費を確保することに。

 庶民の街での暮らしは慣れないことばかり。
 安い服は生地が肌に合わないし、安宿はベットが固くて体が痛くなる。

 唯一良かったのは、食事ぐらいだろうか?
 トードーの串焼きなんていう、普段なら絶対手を出さないタイプのゲテモノ料理だったけど。
 味は十分に美味しかった。

 お金があれば全て解決なんだけど、私にお金を稼ぐあてはない。
 指輪の売却金額が全財産なのだ。
 そう簡単に生活レベルを上げるわけにもいかない。

 ひとまず、誰でもなれるが売りの冒険者になった。
 勘当されてしまった以上、私にはまともな身分も無いのだ。
 スラムの住人とそう差はない。

 私には幼い頃から鍛えさせられた魔法がある。
 これは冒険者になるにあたって大きなアドバンテージだ。
 ただ、初心者がそう簡単に稼げるものでも無い。

 この稼ぎでは最低限の生活を維持するので精一杯。
 つまり、肌に合わない服を着て、安宿に泊まって体を痛めて……
 結局貯金もほとんどできない生活で精一杯なのだ。

 私はその生活水準じゃ満足できない。
 貴族の頃並みとは言わない。
 でも、その1ランクか2ランク下の水準が欲しいのだ。

 そして、結局お金が足りないという問題に帰着する。
 なかなか難しい問題だ。

 でも、そんな生活も最悪と言う程でもない。
 少なくとも、日々何かに追われ続けていた公爵家で英才教育を受けさせられていた頃と比べれば。
 庶民のくせにやたら優秀な売女を相手に競わされた学園の生徒だった頃に比べれば。

 ただ、平和な日々は長くは続かなかった。

 ……

 本当に、全然続かなかった。
 具体的に言えば、勘当された次の日にはすでにトラブルが発生したのだ。
 つまり、丸一日平和だった日が存在しない。

 原因は私が売った指輪だった。
 店主が言うには、あれは偽物だったらしい。
 ちょっと信じ難い話だ。

 でも、同時にもしかしたらって心当たりもあった。
 あれは婚約者だった王子に貰った物だ。
 仮に本当に偽物だったとしても、私としては残念な事に納得感のある話だ。

 とことん迷惑な話ではある。
 そもそも、私が勘当されたのだって……いや、もちろん婚約者持ちの男にちょっかい出す売女のせいではあるんだけど。
 私という婚約者がいながら靡いた王子も大分悪い。

 要は王子が信用ならない人間だって話だ。
 そして、見る目もない。
 わざわざ婚約者に偽物を渡すなんてことはしないだろうが、商人に騙されて偽物を買う姿は簡単に想像ついてしまう。

 金を返せと言われたが、あの時の売却価格が私の全財産だ。
 当然もうとっくに手をつけてしまっていて今すぐ返すのは不可能だった。
 返済を待って欲しいと言ったのだが、信用出来ないと言われた。

 私が指輪を売った店のバックには犯罪組織がついていたらしい。
 スラムに連れて行かれる。
 おそらく犯罪組織の人間であろう、それっぽい見た目の男に今すぐ返せないなら体で返せと娼婦にされかけ……

 だから、殺した。

 人を殺したのは初めてだった。
 吐き気がした。
 でも、そんな風に傷心している暇は無い。

 ここはスラム街。
 しかも、犯罪組織の拠点の真ん前である。
 相手のテリトリーだ。

 この手の人間は舐められたら終わり。
 法的拘束力もなければ、権力の後ろ盾もなく、ただ力だけが全ての世界。
 仲間を殺されて黙ってるはずがない。

 わらわらと、まるで虫の様にあちこちから湧いてきた。
 それを全部殺していく。
 今思えば、ただの虐殺だ。

 仕方なかったのだ。
 だって、話が通じなかったし。
 そもそも、話し合うって雰囲気でも無かった。

 私に殺意を向けてくる相手に手加減する気にもなれなかった。
 そもそも、そういうのは危ない。
 殺せるなら殺してしまった方が安全だ。

 人間、誰もが自分のことが大切なのだ。
 他人の命と私の貞操。
 正直、天秤にかけるまでもない。

 一通り殺した後、ここの組織のボスと交渉の席につくことができた。
 部下が大量に殺されたのに案外冷静だ。
 ボスもきっと私と同じ、殺された部下と自分の命を天秤にかけて自分を優先したのだろう。

 初めは、ここの犯罪組織は丸々私の下に付くって話だった。
 でも、犯罪組織のトップとかいいことない。
 もし捜査線上に上がれば、上は執拗に狙われることになる。

 だから、私は用心棒ってことにしてもらった。
 別に組織の上層部でもなければ衛兵は執拗に追ったりしない。
 下っ端相手にまでそうやってたらキリが無い。

 リスクは最低限に。
 でも、甘い蜜だけはしっかり吸わせてもらう。

 別に悪いことじゃない。
 仮に、悪いことだったとしても犯罪組織が相手だしね。
 何やっても良いでしょ?

 それに、あくまでこれはwin-winの関係なのだ。
 私がこの提案をしなきゃ、あの組織はすぐにでも消滅してたと思うし。
 むしろ感謝してもらいたいぐらいだ。

 婚約破棄され、家を勘当された日。
 つまり、昨日だけど。
 私は自分の人生を好きに生きることを誓った。

 人生一度きり。
 好きな様に生きなきゃ損だよね、って。
 そう、決心した。

 ただ、振り返ってみて思う。
 ここまで自分勝手に生きるつもりはなかったんだけどなぁ……

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