痛くしないで!‐先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!‐

sae

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本編

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 17時の定時上がりをして駅前のビルを見上げて百合は立ちすくんでいた。

(どうしてチョコレートをあの時半分に噛んで食べようとしちゃったんだろう)

 百合の後悔する部分はそこではない気がするが、大きなキッカケになったのはあながち間違いでもない。

「ここね、先生優しいしおすすめ。しかもめっちゃかっこいいよ」
 医者にかっこいいはまったく必要ないと百合は思っている。

(そんなことよりも大事なのは患者に寄りそう気持ちだと思う)

 経験上、医者の中でも歯医者にいい出会いがあったことがない。幼少期はおじいちゃんみたいな頑固で怖い先生で、中学の時は我慢しようねと押さえつけるきつい女医だった。最後に通った先生は若い先生だったけど、百合の気持ちをことごとく裏切る医者だった。

(痛いって言っても聞いてくれなかったし、すぐに抜こうって言って怖すぎたし、最後は自費治療を勧めてくる金の亡者みたいな先生だった!!)

 男でも女でも歳がいってても若くても医者に期待ができない、百合は勝手に医者に絶望していた。

 銀歯が取れたのと奥歯の痛みがさすがに我慢できないのと、憧れる冴子が推す病院だからなんとかここまでやってきたがなかなかビルの中まで入る勇気が出ない。
 診察受付時間は18時までとある。まだ時間はあるがあまり帰宅が遅くなるのも困る。予約もしていないし歯医者は無駄に待たせるではないか。あまりここで時間を使うのは得策ではない、そうは思ってはいるが百合の足取りは重い。

(どうしよう、がんとか言われて緊急オペになって出血多量で死んだら……)

 また百合の妄想が始まった。


(歯医者でも血が止まらなくて救急車で運ばれたって話聞いたことある。ここから大きな病院ってどこになるっけ。この病院か運ばれた先で死ぬのかな。あぁどうしよう、こんなにドキドキしたら無駄に血圧も上がって血が止まりにくいとかにならない?どうしよう、歯医者で出血多量で死ぬとかどんだけ血が出るって話じゃん)

 妄想が暴走化してくる。

 ここに立ちすくんでもう15分ほど経過した。そろそろ覚悟を決めねばならない。百合は何度か深呼吸をした。

(い、行く)

 駅ビルは四階建てになる。商業ビルで一階はデパ地下風のおしゃれな総菜やオーガニック食材が入っているスーパー、二階は駅と直結していてドラッグストアやパン屋、ファーストフード店などが入っている。百合の向かう目的の歯科医院は三階だった。

(みしまデンタルクリニック……あぁ、いやだ)

 名前を読むだけで百合は嫌悪感を抱きつつ、その場に立ち尽くしたのであった。

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