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本編
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なぜこんなことになったのだろう。百合は診察室の椅子に座って呆然と思う。なぜも何も診察に来たのだからどこもおかしな状況ではないのに現実逃避を始めていた。
(今日が私の命日かもしれない)
ありえない死の覚悟を百合はしていた。
「お待たせしました。笹岡さん、担当させてもらいます。三嶌です」
「よ、よろしくお願いします。あの、ご無理を言って申し訳ありませんでした」
「いいえ?痛いのにそのまま帰らせるわけにはいかないですからね」
とりあえずまずは頭を下げた。今日はやはり午後から休診だったらしい。入口の扉に午後から休診します、と紙が掲示されていたのに全く視界に入っていなかった。百合は心底確認を怠ったことを後悔している。
奥から出てきたその人こそがこの病院、みしまデンタルクリニックの院長だった。旭、と呼ばれたヤブ医者(誤認)はこの病院の先生ではないらしい。受付で問診表を記入した後、その旭という先生が百合のレントゲンを撮ってくれた。その際に旭が世間話のようにそう教えてくれたのだ。
「CTできました。じゃあ先生、俺は今日はこれで」
「うん、ありがとう。あとは森乃院長の意見で決めたらいいと思うよ」
「そうします、ありがとうございました。じゃまた」
CTというのは口腔内全体が撮れたレントゲン写真のことだ。百合の座る位置からも見えやすい斜め前に設置された液晶画面に自分の歯が並んだ横長のパノラマ写真が映し出される。
(うわぁ……気持ち悪い)
自分の体の見えない部分を見せられて百合はゾッとした。歯がズラッと並んだレントゲン写真を見ていると、あぁこれからここで治療を始めるのだなとしたくない覚悟を決めはじめた。この病院に、この医師に知られなくてもいい至極プライベートな部分を見せているのだと思うと泣きたくなってくる。
「右下の痛みと腫れ…あとかぶせが取れちゃったんですね。何か固いものでも噛みました?」
「はい、えっと、チョコレートを……」
「そう、取れたものも結構古いですね。そこから虫歯になりがちだから新しく作り直す方がいいかなと思います。一度お口の中見せてもらってもいいですか?」
三嶌の声はとても穏やかで優しい声だった。変な圧力もなくソフトでどこか甘い声で、百合はその声に無意識に聞き惚れていた。
(はっ!いやいや騙されるな、そう言って自費治療を勧めてくるかもしれない!)
百合の警戒心はそんな簡単には取れるはずがなかった。座っている椅子がガッと動き出すと百合の体は正直に跳ね上がった。
(今日が私の命日かもしれない)
ありえない死の覚悟を百合はしていた。
「お待たせしました。笹岡さん、担当させてもらいます。三嶌です」
「よ、よろしくお願いします。あの、ご無理を言って申し訳ありませんでした」
「いいえ?痛いのにそのまま帰らせるわけにはいかないですからね」
とりあえずまずは頭を下げた。今日はやはり午後から休診だったらしい。入口の扉に午後から休診します、と紙が掲示されていたのに全く視界に入っていなかった。百合は心底確認を怠ったことを後悔している。
奥から出てきたその人こそがこの病院、みしまデンタルクリニックの院長だった。旭、と呼ばれたヤブ医者(誤認)はこの病院の先生ではないらしい。受付で問診表を記入した後、その旭という先生が百合のレントゲンを撮ってくれた。その際に旭が世間話のようにそう教えてくれたのだ。
「CTできました。じゃあ先生、俺は今日はこれで」
「うん、ありがとう。あとは森乃院長の意見で決めたらいいと思うよ」
「そうします、ありがとうございました。じゃまた」
CTというのは口腔内全体が撮れたレントゲン写真のことだ。百合の座る位置からも見えやすい斜め前に設置された液晶画面に自分の歯が並んだ横長のパノラマ写真が映し出される。
(うわぁ……気持ち悪い)
自分の体の見えない部分を見せられて百合はゾッとした。歯がズラッと並んだレントゲン写真を見ていると、あぁこれからここで治療を始めるのだなとしたくない覚悟を決めはじめた。この病院に、この医師に知られなくてもいい至極プライベートな部分を見せているのだと思うと泣きたくなってくる。
「右下の痛みと腫れ…あとかぶせが取れちゃったんですね。何か固いものでも噛みました?」
「はい、えっと、チョコレートを……」
「そう、取れたものも結構古いですね。そこから虫歯になりがちだから新しく作り直す方がいいかなと思います。一度お口の中見せてもらってもいいですか?」
三嶌の声はとても穏やかで優しい声だった。変な圧力もなくソフトでどこか甘い声で、百合はその声に無意識に聞き惚れていた。
(はっ!いやいや騙されるな、そう言って自費治療を勧めてくるかもしれない!)
百合の警戒心はそんな簡単には取れるはずがなかった。座っている椅子がガッと動き出すと百合の体は正直に跳ね上がった。
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