痛くしないで!‐先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!‐

sae

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本編

Karte-8

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「お席倒しますね。頭楽にしててください」

(ひぇ!!)

 椅子が徐々に床と並行になるように倒れていく。頭を楽にしろと言われても余計に力が入った。久々の歯医者、久々に口の中を弄ばれる恐怖。白い天井を見つめながら百合の体は冷汗で滲んでいた。

「大丈夫ですか?」
 視界に三嶌が映り込む。覗きこまれるような形でさらに百合の体に力が入った。

「だだだ、大丈夫だと思われます」
「久しぶりですか?歯医者は」
「ははは、はい、数年ぶりになります」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
 ニコッと目が微笑んだが全く信用できない。

(どんな先生もそう言って、グリグリギュインギュインして水でガバガバしてくるくせにぃぃ!)

「まずはお口の中チェックさせてください。そのあと治療方法を相談しましょうね」
「は、はい」
 百合の震える声の返事に三嶌はまた優しく目元を緩ませた。その目を見て百合はまた変に体を硬直させた。

(きき、緊張する、いろんな意味でドキドキしかしないぞ、どうしよう)

 ドキドキの理由はなんとなく気づいているが知らないふりをした。それよりも緊張することが目の前に迫っているのでぶちゃけそれももうどうでもいい域になっている。

「目元は隠さない方がいいですか?」
 口を開けようと覚悟を決めかけていたのにいきなり聞かれて百合は面食らった。

「え、あ……このままでも……いいんですか?」
「笹岡さんが落ち着く方でいいですよ」
「せ、先生は?」
 百合の問いかけに三嶌は少し目を見開いた。

「先生は、どっちがいいですか?」
 先生がタオルをかけようとするのならこの病院のスタイルはそれが普通なのだろう。

 患者みんながタオルで目を塞いでいるのに自分はしたくないなど言ってもいいものなのかとか、先生的に患者に見られながら処置することに抵抗はないのだろうかなど考えてしまって咄嗟に聞き返してしまう。そんな百合の心情がどこまで伝わったのかはわからないが、三嶌がふふっとマスク越しで笑った。

「じゃあ今日は初めてだし、見つめ合いながらしましょうか」

(なー!なんか変にやらしい言い方だし、なに?見つめながらするって!)

 この瞬間、百合の中である気持ちが爆発した。

 恋愛経験のない百合は漫画や小説で無駄に妄想と知識だけを育てていた。百合は俗にいう腐女子である。現実世界のリア充を経験していないために二次元の世界でそれを楽しんでいた。年齢=処女に焦りがなくなってきているのもそれが原因かもしれない。そのせいで変なスイッチが入ると思考がすぐに二次元へ飛んでしまいがちだ。

「す、するって……なにをするんですか?」
 案の定、脳内はおかしな方向へ進みだしている。

「……診察です」
「な、なんの診察ですか?」

 もはや自分が今どこで何をしに来ているのか忘れてしまっているのだろう。すっとぼけた質問を三嶌にしていることさえ多分よくわかっていない。

「……まずは……」
 
 三嶌の続けられる言葉に百合は息を呑んだ。

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