痛くしないで!‐先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!‐

sae

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本編

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「笹岡さん」
 名前を呼ばれて意識を取り戻す。レントゲンが映された液晶パネルをグイッと引っ張って三嶌がペンで印をつけ始める。

「ここ、以前つけていたかぶせが取れた場所です。穴が開いてる状態がそのままはまずいのとかぶせもかなり古いのでもう一度型を取って新たに作り直すのがいいかな。問題はこの歯の奥、ここ」
 赤色で丸く囲われた奥歯が痛みの原因だという。

「歯茎の腫れもここからきてる。少し虫歯にもなっているんだけど……この親知らずはもう抜いたほうがいいかなと思います」
「え!!」
「置いておいても問題はないけど……虫歯がこれ以上進行しないためと将来的に歯周病の原因にもなりかねない。現に歯茎の腫れもあるからこの腫れが落ち着いたところでまた悩まされると思います。何度もそれを繰り返すなら抜く選択をお勧めします」

(ショック……)

 その気持ちに嘘はない。けれど百合が受けたショックは歯を抜くことではなく、三嶌が歯を抜けと勧めたことだった。

(やっぱり、歯医者は嫌いだ……すぐ歯を抜きたがる。甘い声に騙されるところだった)

「どうして抜いたほうがいいかっていうとね?」
 落ち込んだ百合を見かねてか、三嶌が優しい声で話しかける。

「これみて?笹岡さんのこの親知らず、斜めに生えて一部が埋まってる。歯肉が半分隠れた状態だと歯ブラシもしにくいし、汚れがたまりやすくて歯肉が炎症しやすくなる。それに、嚙み合わせもうまくいってない」
 レントゲンを静かに見つめる百合の視線は暗い。理解しようとする気持ちは見えるけれど全然納得をしていないのだろうと、三嶌はそれをしっかりと感じ取った。

「笹岡さんはまだ二十代前半で若いし、年齢がいくほど歯も硬くなる。抜くならタイミングは大事です。同じ抜くなら回復力も高い若いうちがいい。この親知らずの今の状態と今後のリスクを考えたら放置よりは抜くメリットの方が高いと僕は判断します。でも――」
 そこまで言ったらようやく百合が視線を三嶌に向けた。

「歯を抜きます、わかりましたなんてすぐに納得しなくていいですよ。笹岡さんは歯医者も久しぶりっていうし、だいぶ怖がってたもんね」

(え)

「大丈夫だよ」
 三嶌がニコッと微笑む。

「いきなり抜こうなんて言われたら嫌だよね。怖い思いさせてごめんね。まずは先にかぶせを作るところから進めていきましょうか」
 ニコッと微笑んだ笑顔と三嶌の放つ優しい言葉に百合はその瞬間泣きたくなるような気持になった。

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