36 / 48
後日談~ふたりのはじめての×××のお話~
episode-1
しおりを挟む
百合の治療は無事に終わった。
抜歯のあとは、穴があいた歯にも詰め物をして金属の被せを嵌めた。全体的なクリーニングも終了し、百合の口腔内は現状ノーストレスである。
「お疲れさまでしたぁ。それでは本日ですべての治療は完了しましたので、次回からは定期的な検診になりますね~。だいたい三ヶ月くらいを目安にご予約お取りしておりますが……もう取っちゃいます?」
「お願いします」
「はぁい~それではぁ……」
カチカチとマウスを操作しながら受付内のパソコン画面を見つめる桃瀬を横目に、受付カウンター上に置かれる可愛い卓上カレンダーを見つめる百合はぼんやり考える。
(三カ月後……その頃にはもう年末になってる。はやいなぁ)
一年が経つのはあっという間である。子供の頃にはそうは思わなかった毎日も歳を重ねるほどあっという間に過ぎていくから不思議だ。社会人になってからより思う。そして今年、自分の人生に起きるはずがないと思っていた事態が起きてしまったのだ。
「年末年始はお休みになりますので……年末前の少し早めで仮予約にしておきましょうか!」
「はい。お任せします」
「あくまで予定で結構ですので。もしご都合悪くなられたらいつでも変更連絡してくださいねって……もう心配ないか」
うふ、っと声がしそうなほどの含み笑いで首を傾げる受付嬢は笑顔が完璧である。百合も思わずつられて小首を傾げながら笑顔を返してしまう。
「これからイベントたくさんだし楽しみですねぇ♡うふふ♡もしよかったらどんなクリスマス過ごしたとか教えてくださいねぇ」
「……」
「笹岡様?あれ?笹岡さま~?」
「え、あ、は、はい!」
「やだぁ、いろいろ想像しました?しちゃいますよね?先生とのクリスマス!」
「は――っ!」
クリスマス?!
経験のない、無知で未知すぎる恋人のいるクリスマス。しかも相手はあの三嶌だという。想像だけで窒息しそうである。実際息の吐き方を忘れて固まってしまった。
「笹岡様?!ちょ、大丈夫ですか!!息して!吸ったら吐いて!」
受付で声を荒げる桃瀬の声かけになんとか百合は呼吸法を思い出して命を取り留めた。
まだ慣れないことが多い。
それこそお付き合いなるものを始めてひと月も経たないのだ。関係性はまだ医師と患者、その方が近い。それでもその関係に一端の区切りがついた。これから三嶌と会うのは治療がメインではないのか、そんなことを考えるだけでドキドキが止まらない百合である。
開業医として忙しくしている三嶌である。休みは基本日曜日しか合わないのだが、三嶌の仕事の都合で会う時間がなかった。会えたのは治療で通った数日のみである。やはり傍から見たら恋人より患者と言われてもおかしくない。次、三嶌と会うときは自分は患者ではなく、三嶌の恋人として会いに行けるのか。そのドキドキを胸に抱えつつも心の奥底でモヤッとした感情が湧いたがそれを振り払うように頭を振った。
受付の桃瀬に頭を下げて病院を去ろうとしていた時だった。
「百合」
甘い声が百合の足を止めた。
「桃瀬くん、悪いけど裏から通してくれる?」
「あ、わかりましたぁ~」
とても軽い口調で桃瀬が受付を立って奥に引っ込んだ。それを茫然と見つめる百合に三嶌がまた声をかける。
「一回出て回ってきてくれる?」
一回出ろ?病院を?それを目配せで問いかけると三嶌は当然読み取って笑顔で頷いた。百合は迷いながらも玄関扉を開けて横を振り向くと、桃瀬が少し離れた扉から顔だけ出してニコリと微笑んで手招きしてくる。
「笹岡さま~こっちですぅ~」
桃瀬が顔を出している扉はスタッフ専用の扉だった。
抜歯のあとは、穴があいた歯にも詰め物をして金属の被せを嵌めた。全体的なクリーニングも終了し、百合の口腔内は現状ノーストレスである。
「お疲れさまでしたぁ。それでは本日ですべての治療は完了しましたので、次回からは定期的な検診になりますね~。だいたい三ヶ月くらいを目安にご予約お取りしておりますが……もう取っちゃいます?」
「お願いします」
「はぁい~それではぁ……」
カチカチとマウスを操作しながら受付内のパソコン画面を見つめる桃瀬を横目に、受付カウンター上に置かれる可愛い卓上カレンダーを見つめる百合はぼんやり考える。
(三カ月後……その頃にはもう年末になってる。はやいなぁ)
一年が経つのはあっという間である。子供の頃にはそうは思わなかった毎日も歳を重ねるほどあっという間に過ぎていくから不思議だ。社会人になってからより思う。そして今年、自分の人生に起きるはずがないと思っていた事態が起きてしまったのだ。
「年末年始はお休みになりますので……年末前の少し早めで仮予約にしておきましょうか!」
「はい。お任せします」
「あくまで予定で結構ですので。もしご都合悪くなられたらいつでも変更連絡してくださいねって……もう心配ないか」
うふ、っと声がしそうなほどの含み笑いで首を傾げる受付嬢は笑顔が完璧である。百合も思わずつられて小首を傾げながら笑顔を返してしまう。
「これからイベントたくさんだし楽しみですねぇ♡うふふ♡もしよかったらどんなクリスマス過ごしたとか教えてくださいねぇ」
「……」
「笹岡様?あれ?笹岡さま~?」
「え、あ、は、はい!」
「やだぁ、いろいろ想像しました?しちゃいますよね?先生とのクリスマス!」
「は――っ!」
クリスマス?!
経験のない、無知で未知すぎる恋人のいるクリスマス。しかも相手はあの三嶌だという。想像だけで窒息しそうである。実際息の吐き方を忘れて固まってしまった。
「笹岡様?!ちょ、大丈夫ですか!!息して!吸ったら吐いて!」
受付で声を荒げる桃瀬の声かけになんとか百合は呼吸法を思い出して命を取り留めた。
まだ慣れないことが多い。
それこそお付き合いなるものを始めてひと月も経たないのだ。関係性はまだ医師と患者、その方が近い。それでもその関係に一端の区切りがついた。これから三嶌と会うのは治療がメインではないのか、そんなことを考えるだけでドキドキが止まらない百合である。
開業医として忙しくしている三嶌である。休みは基本日曜日しか合わないのだが、三嶌の仕事の都合で会う時間がなかった。会えたのは治療で通った数日のみである。やはり傍から見たら恋人より患者と言われてもおかしくない。次、三嶌と会うときは自分は患者ではなく、三嶌の恋人として会いに行けるのか。そのドキドキを胸に抱えつつも心の奥底でモヤッとした感情が湧いたがそれを振り払うように頭を振った。
受付の桃瀬に頭を下げて病院を去ろうとしていた時だった。
「百合」
甘い声が百合の足を止めた。
「桃瀬くん、悪いけど裏から通してくれる?」
「あ、わかりましたぁ~」
とても軽い口調で桃瀬が受付を立って奥に引っ込んだ。それを茫然と見つめる百合に三嶌がまた声をかける。
「一回出て回ってきてくれる?」
一回出ろ?病院を?それを目配せで問いかけると三嶌は当然読み取って笑顔で頷いた。百合は迷いながらも玄関扉を開けて横を振り向くと、桃瀬が少し離れた扉から顔だけ出してニコリと微笑んで手招きしてくる。
「笹岡さま~こっちですぅ~」
桃瀬が顔を出している扉はスタッフ専用の扉だった。
39
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる