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②リスケ

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廊下から足音が聞こえた。
武蔵だろう、気にして来てくれたのか。

『清くん、今日のデート…僕は延期でも気にしないからね?』
ドアの向こうからの武蔵の声が
意地らしくて、聴いてるコッチが
切なくなる。

武蔵もきっと、楽しみにしててくれたんだよな?
俺はもう、ただ脱力してる。
『入ってもイイかな?』
「あぁ、良いよ。」

ベッドに身を投げて、天井を見てる。
やるべき事はこれでは無い。
武蔵が俺のベッドに腰掛けて
『清くんは、ホントに仕事真面目でさ、僕の自慢だよ。一緒には居られるから…サポートくらいしか出来ないけど、応援させて。』
やんわりと、俺の手を握って来た。

あー、好きだ。くそ、何だこんなに
可愛いんだよ。
本当に同性か?

「ありがとう…ゴメンな?せっかく有給まで遣ってくれたのに。映画、キャンセルになっちまうな。」
『んん、気にしないで。俺はね、清くんの近くにいられたらそれで良い。』

柔らかみのある手のひら、情の篤さを
感じさせる。
「よし、早めに仕上げる。…から、武蔵ちょっとお願いが『…良いよ。ふふっ』」

武蔵は、俺に覆い被さって幼なげな
フレンチキスをした。

焦ったかったけど、これ以上すると
仕事を始められなくなると
困るから。
『飲み物とか食事は任せてね。』
「助かる…」

それから、武蔵にサポートされながら
昼間から始めた制作は
何とか夕方過ぎには完成できた。

短時間で仕事に集中している姿を、あまり
武蔵は見た事が無かったらしく
いたく感心された。

まぁ、武蔵から見た俺はただの
ヲタク腐男子で引きこもりニート
あたりに見えてたんだろう。

『清くん、お疲れ様…っ、大変だったね。ゆっくり休んでね。』
武蔵は俺の部屋を片してから、夕食を
作るため部屋を出て行った。

あまり意識はしなかったが、武蔵は
俺の仕事をする様子を静かに見守っていた。

ベッドに腰掛けて、時々チラッとこちらを
見たりしていたんだろう。
考えるだけでも、心が沸き立つ。

たった今日一日でさえも、武蔵とのデートは
叶わなかったが。
「また、計画立て直さなきゃな。」

しばらくして、武蔵が俺を呼びに来た。
夕食の準備が出来たのだろう。
俺はドアを開けて、向かい立つ武蔵を
見下ろす。

『……っ…、』

愛おしい動作を見てしまった。
と同時に塞がれる唇。

武蔵からの背伸びをしてキス。

まさかのご褒美に俺はすっかり
頭から理性が消えて行くのを感じた。
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