精霊の愛し子が濡れ衣を着せられ、婚約破棄された結果

あーもんど

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本編

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 ────ノア様から婚約解消を持ち掛けられた数日後。
 真っ赤なドレスに身を包んだ私はパーティー行きの馬車に揺られていた。

 今日は王立アカデミーの卒業パーティー当日。
言うならば、学生時代最後の晴れ舞台という訳だ。
 このパーティーには主役である卒業生に加え、生徒のご家族も参加なさる。
しかも、今年の卒業生にはノア様がいらっしゃるため、陛下もパーティーに参加する予定だ。
 今年の卒業パーティーは最早、ただのパーティーではない。
親達は主役の学生達を置き去りにして、己の利益のために動くだろう。

「今年の卒業パーティーは良くも悪くも盛り上がりそうですね······」

◆◇◆◇

 パーティー会場に無事到着した私はエントランスホールで婚約者の到着を今か今かと待ち侘びていた。

 婚約解消の申し出があったとは言え、私達はまだ婚約関係にある。
公的な場でのエスコートは婚約者であるノア様にやってもらうのが定跡じょうせきだろう。

 まあ、一流の紳士は現地集合なんてしないけれど·······。
令嬢の家まで迎えに行くのが普通だ。
 まあ、自己中なノア様が私の家まで迎えに来てくれたことなど一度もないけど·····。

 零れそうになる溜め息を何とか噛み殺し、チラッと掛け時計に目をやる。
時計の針は7時半を差していた。

 パーティーの開始時刻は8時ちょうど。
王族や上級貴族はさておき、家格の低い者達はもうそろそろ会場の中に入らないといけない。
 伯爵位を賜わるベネット家はそれなりに影響力のある家だが、家格だけで言えば上の下だ。
会場入りをこれ以上、先延ばしにする訳にはいかないだろう。

 私はなかなか姿を現さない婚約者に内心腹を立てながらも、エントランスホールを抜け、パーティー会場へと向かう。
コツコツと鳴る一人分の足音がどこまでも虚しく感じた。

「王立アカデミー卒業生のアリス・ベネットです」

 扉の両脇に控える衛兵に声をかける。
パーティー会場へと繋がるこの扉は厳重に警備されているようで、配置された兵士は全員魔力持ちだった。

「アリス・ベネット伯爵令嬢様ですね。この度はご卒業おめでとうございます。学生最後の夜をどうぞお楽しみ下さい」

 恭しくこうべを垂れる衛兵たちはドアノブに素早く手を伸ばす。
武力だけでなく、礼儀作法まで完璧な彼らは観音開きの扉をゆっくりと開いた。
 刹那、会場内から人の笑い声や話し声が一気に溢れ出す。

「────アリス・ベネット伯爵令嬢のご入場です!」

 衛兵の一人が声を張り上げて、そう叫べば────賑やかだった会場内が一瞬にして静まり返った。
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