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「結局のところ、全て私の勘違いだった訳だ。神殿に身を置いて、それがよく分かった」
言動の端々に後悔を滲ませるトラヴィス殿下は、『私の心が弱かったばかりに……』と嘆く。
なるほど。全ての始まりは、トラヴィスの疑心暗鬼からくる暴走だったのね。
やっていることが極端すぎるけど、気持ちは分かるわ。
『神殿が力をつけすぎると、厄介だものね』と理解を示す中、トラヴィス殿下は自身の手を見下ろす。
「他人を信頼出来ず、周囲を振り回すような私に人を導くことは出来ない。だから、聖騎士となり、神殿を守る人生も悪くないと思ったんだ」
『また同じ過ちを繰り返すかもしれない』と不安になっているのか、トラヴィス殿下は随分と弱気だった。
すっかり自信を失った様子の彼に、私はやれやれと肩を竦める。
別にこのまま放置してもいいが、辛気臭いのは苦手なので少しばかり心を砕くことにした。
「自分の実力不足を嘆くのは、早いと思うわ。だって、人は成長する生き物なのだから────まあ、それでも貴方が『聖騎士になりたい』と言うのなら、構わないけど」
『消去法ではなく、自分の意志で歩むべき道を決めなさい』と言い、私は手すりから離れる。
この期に及んで建前を大事にする彼の習性に半ば呆れつつ、目的地へ足を向けた。
「貴方の人生なんだから、好きにするといいわ」
責任のある立場から外され、良くも悪くも自由になった彼に、私は選択の余地を与える。
『もっと悩んでもいいのよ』というメッセージを添えて。
どうも、彼は生き急いでいるようにしか見えないから。
『焦って決断してもいいことはないのに』と肩を竦め、私は再び歩き出す。
すると、後ろから────
「あ、ありがとう……!もっと、よく考えてみるよ!」
────どこか弾んだ声で、トラヴィス殿下が返事した。
それに片手を挙げて応じ、私は目的地へ向かう。
『そろそろ、約束の時間ね』と思いながら早足に廊下を進み、何とか聖女専用の祈祷室に辿り着いた。
相変わらず殺風景な空間を一瞥し、扉を閉める。
毎日のお勤めとしてまず室内を浄化し、綺麗にすると、石像へ近づいた。
一ヶ月ほど前にヴァルテンが降臨してから微妙に立ち位置の違うソレを、私はじっと見つめる。
そして、おもむろに膝をついた。
いつものように両手を組み、お祈りを捧げる。
すると、直ぐに────あちら側へ繋がった。
『オリアナー。聞こえるー?』
聴覚ではなく、脳に直接語り掛けてくる形でヴァルテンの声が響く。
というのも、互いの意識を紐のように結びつけている状態だから。
またあの時のようにヴァルテンを地上へ降臨させても良かったが、こちらは供物を必要としないためお手軽だった。
ちなみに神聖力をチャージする際も、この方法を用いている。
『ええ、聞こえるわ。待たせてしまって、ごめんなさいね』
心の中で呟くようにして、約束の時間ギリギリになってしまったことを詫びた。
普段はもう少し早く意識を繋げられているから。
『約束の時間には間に合っているんだし、気にしないでー。色んな人に呼び止められていたのも、知っているからー』
『あら、ずっと見ていたの?それじゃあ、今日報告することはなさそうね』
開始早々お開きの雰囲気を漂わせる私に、ヴァルテンは不満の声を上げる。
『えー。もうちょっと話そうよー。この時間が唯一の癒しなのにー』
『そう言われても……話すことがないじゃない』
毎日お祈り……という名の対話を繰り広げているため、話題がなかった。
『過去の思い出話も、ほぼ話し尽くしたし』と思案する中、ヴァルテンは小さく唸る。
そして暫し沈黙すると、何かを閃いたかのように『あっ!』と声を上げた。
『じゃあ、オリアナの人生設計でも話してよー』
言動の端々に後悔を滲ませるトラヴィス殿下は、『私の心が弱かったばかりに……』と嘆く。
なるほど。全ての始まりは、トラヴィスの疑心暗鬼からくる暴走だったのね。
やっていることが極端すぎるけど、気持ちは分かるわ。
『神殿が力をつけすぎると、厄介だものね』と理解を示す中、トラヴィス殿下は自身の手を見下ろす。
「他人を信頼出来ず、周囲を振り回すような私に人を導くことは出来ない。だから、聖騎士となり、神殿を守る人生も悪くないと思ったんだ」
『また同じ過ちを繰り返すかもしれない』と不安になっているのか、トラヴィス殿下は随分と弱気だった。
すっかり自信を失った様子の彼に、私はやれやれと肩を竦める。
別にこのまま放置してもいいが、辛気臭いのは苦手なので少しばかり心を砕くことにした。
「自分の実力不足を嘆くのは、早いと思うわ。だって、人は成長する生き物なのだから────まあ、それでも貴方が『聖騎士になりたい』と言うのなら、構わないけど」
『消去法ではなく、自分の意志で歩むべき道を決めなさい』と言い、私は手すりから離れる。
この期に及んで建前を大事にする彼の習性に半ば呆れつつ、目的地へ足を向けた。
「貴方の人生なんだから、好きにするといいわ」
責任のある立場から外され、良くも悪くも自由になった彼に、私は選択の余地を与える。
『もっと悩んでもいいのよ』というメッセージを添えて。
どうも、彼は生き急いでいるようにしか見えないから。
『焦って決断してもいいことはないのに』と肩を竦め、私は再び歩き出す。
すると、後ろから────
「あ、ありがとう……!もっと、よく考えてみるよ!」
────どこか弾んだ声で、トラヴィス殿下が返事した。
それに片手を挙げて応じ、私は目的地へ向かう。
『そろそろ、約束の時間ね』と思いながら早足に廊下を進み、何とか聖女専用の祈祷室に辿り着いた。
相変わらず殺風景な空間を一瞥し、扉を閉める。
毎日のお勤めとしてまず室内を浄化し、綺麗にすると、石像へ近づいた。
一ヶ月ほど前にヴァルテンが降臨してから微妙に立ち位置の違うソレを、私はじっと見つめる。
そして、おもむろに膝をついた。
いつものように両手を組み、お祈りを捧げる。
すると、直ぐに────あちら側へ繋がった。
『オリアナー。聞こえるー?』
聴覚ではなく、脳に直接語り掛けてくる形でヴァルテンの声が響く。
というのも、互いの意識を紐のように結びつけている状態だから。
またあの時のようにヴァルテンを地上へ降臨させても良かったが、こちらは供物を必要としないためお手軽だった。
ちなみに神聖力をチャージする際も、この方法を用いている。
『ええ、聞こえるわ。待たせてしまって、ごめんなさいね』
心の中で呟くようにして、約束の時間ギリギリになってしまったことを詫びた。
普段はもう少し早く意識を繋げられているから。
『約束の時間には間に合っているんだし、気にしないでー。色んな人に呼び止められていたのも、知っているからー』
『あら、ずっと見ていたの?それじゃあ、今日報告することはなさそうね』
開始早々お開きの雰囲気を漂わせる私に、ヴァルテンは不満の声を上げる。
『えー。もうちょっと話そうよー。この時間が唯一の癒しなのにー』
『そう言われても……話すことがないじゃない』
毎日お祈り……という名の対話を繰り広げているため、話題がなかった。
『過去の思い出話も、ほぼ話し尽くしたし』と思案する中、ヴァルテンは小さく唸る。
そして暫し沈黙すると、何かを閃いたかのように『あっ!』と声を上げた。
『じゃあ、オリアナの人生設計でも話してよー』
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