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第二章

難航《ルカ side》②

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「悪いな、公爵様────アンタの過去はもらっていくぜ」

 この魔法の効果は一言で言うと、記憶の抽出。
今の今まで積み上げてきた全ての思い出を奪う、というもの。
なので、本人は自分が誰なのかもそのうち分からなくなる。

 過去の記憶を……娘を忘れれば争う理由も意味もなくなると思って、このような手段を講じたんだ。
ぶっちゃけ邪道だが、今の俺達ではこういう手しか使えない。

 『格が違い過ぎるからな……』と嘆息し、俺は奥歯を噛み締めた。
己の無力さを呪う俺の前で、魔法陣は発動を終える。
これで光の公爵様は全てを忘れ去る────筈だった。

「あれ……?公爵様の記憶が流れ込んでこない?」

 魔法の効果はあくまで、記憶を吸い取ること。
なので、頭に一切情報が入ってこないのはおかしかった。

「まさか、失敗した……?魔法陣を書き間違えたのか?」

 ゆらゆらと瞳を揺らして狼狽える俺に対し、タビアは小さく首を横に振る。

「いや、魔法陣は完璧だった。発動だって、スムーズに行った筈だ」

「ルカに落ち度はないと思うよ。恐らく、失敗した原因は────公爵にある」

 僅かに表情を強ばらせつつ、グランツは銀髪の美丈夫を見据えた。
かと思えば、どこか呆れたように溜め息を零す。

「多分、最愛の妻や娘のことを忘れたくなくて……その想いが強すぎて、魔法を打ち破ったんだ。通常なら有り得ないことだけど、魔法で作った竜巻や炎の中に居てもピンピンしている公爵なら有り得る」

「はぁ……体のみならず、心まで強靭って訳か。マジで規格外だな」

 『超人すぎる……』と項垂れ、俺は目頭を押さえた。
先程まで神妙にしていたのが、なんだか馬鹿らしくなり……苦笑を漏らす。
でも、大切な思い出を奪わずに済んで少しホッとしている自分が居た。

「何はともあれ、一旦仕切り直しだ。撤退するぞ」

 ────というタビアの号令により、俺達は一時退却。
もう一度作戦を練り直し、光の公爵様に戦いを挑んだ。
が、見事に敗北。
その後も幾度となく公爵様の無力化を目論んだが、全く歯が立たなかった。

「なあ……そろそろ、別の方法を考えた方がよくね?さすがにあの規格外をどうこうするのは、無理があるって」

 皇城の一室で弱音を吐き、俺はソファに寝転ぶ。
一向に解決の糸口が見つからず辟易し、大きく息を吐いた。
『いつまでこんなことを続ければいいのか?』と。

「てか、公爵様の要求を叶えることは出来ないのか?」
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