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第236死 月の欠片

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 ジャジーな音楽はふたりの為。

 勝利を手にした雨脚強まるドーナツ傘の下。

 濡れゆくその街を汚した迷惑アートの跡も今は主役のふたりを飾る華やかなカオスに過ぎない。

 だが最後に残された生命捧げるアートにより狂気のイメージ舞い降りる死の心臓を得たのならば、ソレは平面に鼓動し動き始める。

 死人が現世に行き来する方法はない。だが何者かに急襲され支配されたスキル行使すバトルフィールドここ大阪堺市は今、研究と刻を積み重ねた革命の電世。ルール破りの可笑しな事は不自然のないバランスのとれた現世よりバグとしてよく起こる。

 ────雨に打たれて滲むインクに色濃くやがて聳え立ち生まれた。

 両肩に手を当てマエにうずくまるヒトが羽化するように──開いたボロ布のような羽、その表面に描かれた衝撃的な色合いが、羽ばたいていく。

 ドス黒いシルエットに鳥類のような鋭い黄色ノ眼光。巨躯は四本指をした両脚で地を蹴った──ソレが巻き起こした突風に、



「────今ナンカ……アカリさん……」

「────……うん……私も」



 突然の出来事にトバされないように必死にしがみついたふたり。もう敵はいなかったはず、だが気付けばそこにいた。ナニカ異様なモノが空へと飛んでいくのを目撃してしまった。

 猛烈な風の運んだ雨飛沫で服はびしょ濡れ、ドーナツ傘から恐る恐る慌てて這い出てきたふたりは灰色の天を見上げる。

「なんかわからないけどイヤな感じ……だってあれ、さっきの戦車より気持ち悪い」

「っすね……なんでしょ、見たこともないのに…………ッやばいだろ!!!」


 この魔境と化した堺市にいる誰もが予期していなかった招かれざる客はどこを目指していくのか…………そのボロついた羽で。やがて見えなくなったソレに────狩野千晶とアカリ・バックライは、勝利の余韻というものを味わうにはモヤモヤと薄気味の悪いそして鼻をツンと刺すドブ色のインクのイヤな臭いに変わっていった。



 其処にいては、その低き大地にへばりつく人の身の視点では気付きはしない。生命を削りながら描かれた巨大なアートを。死んで失われた自己ノ価値を後に生み出し残したモノが大きく凌駕する事がある、これを一種の勝利と呼ぶこともある。

 脈動するアート戦車が破裂しこの雨とコーヒー1970のキャンバスに足りていなかった最後の仕上げは成されアスファルトに巨大な死の心臓を得た悪魔的アートは完成していた。


 黒に浮かぶ描きかけの月は怒るようにあかく燃えている。見飽きた月の欠片を盗んだのは照らされた道をワラい並び歩く仲間内のひとり。

 決して手にかけてはいけない、そして手にしてはいけないモノ。

 邪を極めたヒトから伸びゆくカゲは色濃く悪魔的アート。

 それがブライギッドの盗賊団。






▼マリアレポートその❹④▼

【死】
死は現世へと行き来できない。
だが死界の果てが作った死のルールに縛られて現世の人々は死から逃れる事はできないと考えられている。
死んでしまった人々がどこへ還るかは定かではないが死電子が死界へと流れているのは既に観測されており確かである。
この世に循環する生電子と死電子の理を見つけ死の研究が進んだ電境世界ではイカれたバグが稀に予期せぬ禍々しい姿形をした化け物を生み出すこともある。
それを見聞ある者はブライギッドの盗賊団と言うだろう。
彼らは死を盗んだ大罪人であるとおとぎ話や様々に名前やカタチを変えた文献娯楽媒体でも言い伝えられてきている。

彼らをその目で見てしまった者にはそれはそれは恐ろしい逃れられない死が待っているだろう。



ん、何故そんな事をしっている…………このふざけた空想レポートを書いている私は何者かって……?

明智マリア。覚えておいてくれ、盗賊団より厄介な電境研究者さ。あっは!
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