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第一章.美女と熊と北の山

3.シャルルの秘密

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「ルルー、シャルルー」
 目が覚めたら、ジョエルの顔。心配をかけて申し訳ないと思うけど。 
「ジョエル、スポンサーに文句を言うのはどうかと思うけれど、女の子の部屋に勝手に入っちゃダメでしょう」
 そもそもここに運んでくれたのが、ジョエルなんだと思うし、その後、放ったらかしもしないで様子を見てくれてたんだろうな、っていう感謝の気持ちもあるけれど、ジョエルは、気軽に些細な用事でも、ノックもしないで普通に入ってくる。これでは、同室でも大して変わらない。三部屋取ってるのが、ただの無駄遣いだ。 
「大丈夫だよ。キーリーは絶対に入れないし、わたしはシャルルより美人顔だから」
 謎理論で返された! イケメンなら仕方ない、なんて私は言わないよ!
「ダメなの!」 
「姉なのに?」 
「姉じゃないからだ。男だろ!」
「そう。元気そうで良かった」 
 ニコニコ顔を崩すことはできなかった。ダメだ、この人。いや、諦めたら、そこで試合が終了してしまう。頑張れ、私。 
「お腹空いたでしょう? 食堂まで歩ける? それとも、部屋で食べる?」 
 言われて、お腹を押さえて、はたと気付く。
「今度は、何日過ぎた?」 
「くすくす。大丈夫、今回は、1日だけだよ」 
 また1日まるっと寝てた! 寝すぎじゃない? シャルルになって、まだ数日だけど、ちょっと寝すぎじゃない?  
「歩けるかもしれないけど、ごはん持ってくるよ。少し話そうか」
 ジョエルは、部屋から出て行った。


 自室じゃないし、宿の部屋だし、たいして違わないのに、私の部屋にキーリーを入れない謎ルールの下、ジョエルの部屋のベッドでトマトスープのパスタ粥を食べています。普通にイスで食べると主張したのだけど、却下されたのだ。ベッドにスープをこぼしたら、どうするの?  
 2人の食事はもう終わったらしく、ひたすら食べている間、1人で森に行ったことを怒られた。あの瞬間、ものすごく後悔したし、お説ごもっともと思うんだけど、喉元すぎれば、うるさいなぁ、わかってるよー、と思ってしまう。やっぱり私は、ダメなヤツだ。

「で、熊鍋は、美味しかったの?」 
「おう、村のみんなでパーティだ!」
「私も食べたかったなー」
「うぐっ」 
「よし。ちょっと待ってな。狩ってくるよ」
 食べたいは、嘘だ。感覚的には、さっき肉塊を見たばっかりで、正直よくお粥食べたな、って自分で思うくらいだ。目の前に調理済み料理を出されたら、意外と食べれるかもしれないが、お粥が出される身体は受け付けないと思う。あんな危険生物と戦って、無事な保証などないのだから、簡単に討伐に行かないで欲しい。慌ててジョエルを止めたよ。うちの母さん、過保護が過ぎる。うっかり冗談も言えないね。 

「熊鍋は、いらないんだね? じゃあ、食べ終わったようだし、話をしようか」
 延々と続いたお説教は、本題ではなかったらしい。はて、何か話などあったか? 
「ルルーは、覚えてることと覚えてないことがよくわからなかったし、人目のあるところで話すことじゃないから言わなかったんだけどさ。ルルーは、役に立たない子じゃないんだよ。むしろ役に立つ子だから、それ以外のことは、無理してまでやらなくていいのさ。キーリーが認めるレベルで」 
「キーリーが」 
「普段の戦闘じゃまったく役に立たないが、全滅レベルのモンスターをお前は1人で倒せるからな。うっかりすると、俺たちまで巻き込まれて殺されるのが玉にキズだが、実際、何度か救われてるから、命の恩人なんだよ。一発ぶっ放すと魔力切れで倒れるし、それを回収する俺たちは、お前の命の恩人だけどな」 
 そう言って、キーリーがにやりと笑った。 
 やたらと過保護な人たちだとは思っていたけれど、まさかそんな関係だったとは。
 私は、追い詰められると爆弾魔に豹変するのだろう。意識的には、そよ風しか起こせないが、いざとなると大爆発を起こして、周囲に無作為の被害を振り撒く。恐らく、あの熊が熊肉になったのが、それだ。切り刻まれていたが、風の力だろうか? 水の力だろうか? 思い出したら、気持ち悪くなってきた。 

「それに、今回は、二色草を増産したろう? 植物成長促進スキルがあるから、実のなる木を見つけたら出先で無料の食べ物調達ができるのも、いい」
「無尽蔵に荷物運びできるのは、覚えてるか? 手ぶら旅はすっげぇ楽だし、お宝を見つけて、持ちきれない分も持ち帰れるのは、でかい」
「何それ」
「どうやってるのかは知らないが、物を身体の中に入れてたね」 
「服の中に隠すの?」
「そんなんなら、俺たちだってできるし。なんかこう、手のひらから、すうっと身体の中に入れるんだよ。身体が膨れたり、重くなったりしないから、なんだかわからんが。ほれ、これでやってみ」 
 セットで持ってきたものの、使わなかったフォークを渡されたので、手のひらの上に立ててみる。フォークが手のひらに吸い込まれるイメージをしてみたけど、なんか痛そうだね。そんなことを思ってたら、少しずつ手に沈んでいって、フォークが消えた。手の甲に突き抜けたりは、しなかった。
「気持ち悪っ! 何コレ。フォークなくなったら、困るでしょ」 
「必要になったら、またシャルルが手から出すんだよ。持ち運びも楽だし、盗難できないし、便利だろ?」 
「いやいやいや。まだ出せるか確定じゃないし、私が死んだらどうなるのよ。なくなっちゃったら、困るでしょ。便利か紙一重じゃない?」
「ルルーが死ぬなんて、そんなことがあったら、荷物どころじゃないよ。最早、荷物なんて、どうでもいいよ」
「そうだなー。死んだら荷物が全部出てくりゃ問題ねぇけど、試す訳にもいかんしなー。でも、財布は預けてねぇし、なくなってもどうにかなるんじゃね?」 
「何を言ってるんだ、お前は!」 
「大丈夫だって、ジョエルが死ぬ気で守るから、お前より先にシャルルが死ぬことはないって」 
「それは、当然だが!」 
「そのついでに俺も巻き込まれるんだから、シャルルの死後の心配なんてする機会ないだろ」 
 なんか勝手に話が進んでいる。優しい人たちなんだろうけど、家族でもないんだし、お人好しすぎやしないだろうか。 
「ちょっと待って。命懸けで守る必要なんてないから」
 いや、この身体はシャルルさんの物だし、守ってもらわないとダメだろうか? よくわからないね。 
「うるせぇな。お前がいないと行けない場所があるんだよ。お前のためじゃねーし、諦めて守られてろ。好きな人ができました、抜けますも許さねぇからな。変な男にうつつを抜かさないために、うちのイケメンがいるんだからな? お前を逃がさないために、俺たち必死だからな? 最低限、ジョエルを超えるイケメンを連れて来いよ?」 
「うちのイケメンも、相当変な男だと思うけど」
「男かどうかすら、わからねぇからな」 
 キーリーは、ニシシと笑った。 
「冗談は、そこまで。本当に、あんまりすごすぎて、知れたら誘拐が怖いから、外でうかつに話すのも禁止だよ。村の人には知ってる人もいるけど、知らない人もいるからね。今だって、建物の人払いと窓の外の監視を頼んでるから」
「厳重! あ、フォーク出てきた」
「お! 旅に出るの、何の支障もねぇな」
「あるよ。記憶はないし、痩せたよ。あと30kg太るまでは、外出禁止だよ」
「太らせる余裕ないだろ」 
「ルルー可愛いから、少しでも太らせて、モテなくするんだよ」 
「アリだな」 
「ナシだよ。どこまで必死だよ! 大丈夫だよ。私、お母さんだけは裏切らないから」 
「お母さんは、覚えてるのか」 
「ジョエルだよ」 
「な゛っ!」「ぷっ」 
「姉さんだろう!」
「キーリーは、お父さんだから」
「「絶対にヤメロ」」

 何の話だかわからない罵り合いをした後、自分の部屋に戻って寝た。朝起きたら、家に戻っているといいけれど。 
 ごはんをしょっちゅう抜いて、倒れて寝てばっかりいたら、そりゃあ農家のお手伝いする筋力なんていつまで経っても身につかないね、って思いました。
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