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第八章.みんな可愛い私の弟妹

102.転職

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 私は、シャルルを連れて、モヤモヤと岩のいる洞窟に戻った。
 どこに耳や口があるのかは不明だが、会話が可能だったので、シャルルと一緒にフルボッコにした。精霊に離反されて、ようやくシャルルの大変さに思い至ったらしい。まだまだ全然わかっていないと思うが、私の恨みくらいは果たせただろう。あとは、シャルルに償えばいい。今度は、2人一緒にシャルルと暮らすと言い出したので、邪魔臭いので、置き去りにした。謎の生命体に、村に居座られても困る。

 次に、シュバルツとレクシーとタケルを回収に行く。転移魔法は、本当に便利だ。
 3人とも、あの時のままの部屋にいたので、事務手続きだけ済ませて、そのまま村に転移だ。


 私は、新しい事業を起こした。
 次の仕事は、宝飾品も取り扱う石屋さんだ。大地魔法を使えば、どんな金属もどんな鉱石も生成できる。形も思うがままだ。これ以上、向いている仕事もないだろう。
 村の中ではまったく売れないが、レア鉱石を作れば、いくらでもお金を出してくれる人はいるものだ。いなかったとしても、行商のおじさんにお願いして、探してもらうだけだ。
 こちらでの主力商品は、岩絵具。龍なら、砕くのだってお手のものだ。市場価格を崩落させない程度に売り捌いている。
 金銀と鉱石については、日本でもいい売れ行きだ。やはりあちらにはない鉱石があったようで、オーナーさんが、宝石商との密売契約をまとめてくれたのだ。1週間とかからず、1人目の学費が集まった。最初が1番売れるので、継続販売ができるかが問題なのだが。

「シャルル、ビスマス結晶ができたぞ」
 今は、シュバルツと、ミョウバンや硫酸銅、人工サファイアやエメラルドを生成して、遊んでいるところだ。合成鉱物を使って、瓶詰めを作ったり、スノードームを作ったりして、部屋に並べている。どんどん怪しい錬金術師の部屋に様変わりしていくのが、面白い。
 鉱物を作るだけなら、龍の力を使った方が早いのだが、私は一生龍でいるつもりはない。いろんな手段を作っておくのは、悪いことではないよね。
「俺は便利だろう? 俺と結婚した方がいいぞ」
「ナズナは、兄に興味はねぇよ。大きくなったら、お父さんと結婚するのが夢なんだ。一昨日来やがれ」
 みんなは私をシャルルと呼んでいるが、シャルルとキーリーは、ナズナと呼ぶようになった。私もシャルルをシャルルと呼んでいる。わかりにくいが、どうしようもない。
「え?」
「お父さんが、初恋なんだろ?」
「数に含まれないんだよね?」
「俺は実父じゃないから、数に含めていいぞ」
「そうなの?」
「騙されてるぞ」
「だよね」
 正直、話のつながりがまったくわからない。どうでも良すぎて、真面目に考える気にもならない。キーリーもシュバルツも、よくもそんなどうでもいい雑談を覚えているよね、と感心するだけだ。
 キーリーとシュバルツなら、バカ話に花を咲かせても刃物が飛び出てきたりしないから、話半分に流しておけばいい。そんなことより、お金を作る算段を考える方が、有意義だ。
「俺は既に、お前の弟妹の義兄になっている。弟妹を泣かす気か?」
「本当に、こんな卑怯な男で後悔しないのか?」
「ここまでキーリーを追い詰めた、反省はしているよ。私が那砂に戻って、弟妹のところに戻っても付いてくる覚悟が本気なら、諦めるよ。結婚する保証はできないけど、最悪、死ぬまで養ってあげるよ。どうせ結婚できないなら、謎の男が側にいたって問題ないし、いれば結婚しない言い訳になるかもしれないよ」
 一緒に歩いているだけで、勝手に誤解されていればいい。籍を入れろと言ってくる親戚など、私にはいない。
「そうだな。俺は、そこまではついて行かない。ついて行っても、役に立てる気がしない。ここに残ってくれることを期待する」
 シュバルツの瞳が、寂しそうに見えたのが、少し気になった。
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