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第九章.これはハッピーエンドですか?
109.年貢の納め時
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進退極まった。他人ごとならどうにでも適当なことを言ってられたが、とうとう私も年貢の納め時がやってきてしまった。シャルルの気持ちが、今ならちょっとわかる。ニ龍になんてなったところで、私、ちっともスゴくないじゃん。1人じゃなんにもできないじゃん!!
参考書片手に勉強するのは、簡単だった。私が解いていた問題は、全て答えが用意されていた。小論文だって、結局、無難な解答例があったのだ。いくつか丸暗記して、自分向けにカスタマイズしたら終了だった。私は、自分で何かを1から作り出すことは、なかったのかもしれない。
宝石質の鉱石を、非常識なサイズでゴロゴロと作成しながら、机に頭を打ちつけた。無理だ。死ぬ。恥ずかしすぎる。このまま現状維持でいいんじゃないかな、という気持ちと、このまま放っておいたらやってくる未来を受け入れたくない気持ちで揺れる。
無理だ。無理だ。無理だ。だが、こうなったのは、私の所為だ。
シュバルツ宅の寺子屋になっている部屋を覗いた。畳敷にイス席がある部屋だ。建てる前から、寺子屋をする予定だったのだろう。計画性のあるシュバルツに勝てる訳がなかったのだ。 さっきまで授業をやっていたので、生徒さんも大半残っている。
「シュバルツ、授業終わった?」
「ああ」
「じゃあ、ちょっと付き合って」
シュバルツを掴んだら、空間転移だ! と思ったのに、魔法が起動しなかった。なんで?
「用があるなら、ここで聞こう」
シュバルツは、ニヤニヤしている。龍の魔法を防ぐって、どういうこと? シュバルツの誘拐をトチってしまうなんて、この後、どうしたらいいのよ!
「な、んで?」
「お兄ちゃんは、無敵だからだろ」
それは、私がなりたいヤツだ。やられる予定はなかった。
「限度があるよね?」
「用がないなら、俺は出かけるが?」
「うう、申し訳ありませんでした。出直させていただきます」
「本当に、根性なしのヘタレだな」
「魔法を防がれた時点で、もう無理だよ。龍になった上で魔法で勝てないって、もう何しても勝てないじゃん」
やっぱり他力本願から抜け出せず、場の雰囲気で押しきれないかと考えていた。それなのに、計画とも呼べない計画の初手を崩されたのだ。もうガラスのハートは砕け散った。
「泣くな。どう考えても、ここが一番都合が良いだろう」
「都合が良いとかじゃないんだよ。自分ん時は、何したよ」
「俺は、一夜漬けはしないからな」
「申し訳御座いません。準備期間をもう少し下さい」
一時撤退をして、再起を図ろうにも、シュバルツに捕まえられて、逃げられなくなった。やっぱり勝てなかった。一か八かの勝負なんて、仕掛けるんじゃなかった。
「お父さん、元シャルル、話がある。こっちへ来い」
「元シャルルて。ちょ、どこまでバレてるの?」
「お兄ちゃんに、秘密は作れない。悪あがきをしても、無駄だ」
シュバルツのお姉ちゃんになるのに失敗したばかりか、単純なお姉ちゃん力も大敗だ。シュバ衛門め!
「なんだ」
キーリーの顔が怖い。怖すぎる。殺し屋よりは柔和なのに、殺し屋より怖い。こんな機嫌の悪い時に話すとか、ハードル高すぎだ。
「やっぱり無理だよ。そもそもこんなの私の国じゃ、あり得ないんだよ。高度すぎるんだよ」
「言いたいことは、自分で言え」
「くぅ。、、、私、叶えたい夢があるの。あっちで大学卒業して、あっちで就職して働きたいの。弟妹のイベントは絶対抑えたいし、できたらカテキョもしたいし、あっちにいっぱい行きたいの。だけど、それ以外はこっちで過ごすし、骨も埋める覚悟をしたので、ご協力いただけないでしょうか」
もっと素敵な感じで、みんなを巻き込みたかったのだけど、私の希望を押し付けたいだけなのだ。無理だ。キーリーは怒っているし、シュバルツは無表情だし、シャルルははてなマークを浮かべてる。無理だ。
「それで?」
「私と結婚して頂きたいのデス」
「誰が?」
「キーリーとシュバルツとシャルルと私」
「結婚は、ただ一人を選んでするものだったな?」
「できたらその方が良かったけど、それじゃあ私の夢が実現しないから。みんなのご意見も参考にしつつ、一部無視しつつ、考えた結果なの。意味わかんないよね。ごめんね」
初恋もしたかどうかな私に、多夫多妻のプロポーズとか、荷が重過ぎる。どれだけ考えたって、格好良い言葉とか思いつかなかったし、キーリーやシュバルツに言ったところで、失笑されるだけだろう。やっぱり無理だ!
もう言いたいことも言い終わったし、完全撤退したいのに、シュバルツが離してくれない。
「ナズネェ、私は結婚に同意する。だけど、条件を付けていい?」
「条件?」
まさかのシャルルが一発OKだった。一番無理だと思ってた。シュバルツとキーリーを両方巻き込んだからか。やった!
「ジョエルも仲間に入れて」
「え? ジョエルと結婚するのは、嫌なんじゃなかったの?」
「仲間ハズレは、可哀想」
「仲間ハズレ? そんなつもりは、なかったけど。そういうもの? 友達関係じゃないんだよ? 本人がいいよ、って言うなら、私はどっちでもいいけど」
「仲間に入る。入れて欲しい」
ジョエルが、こっちに近付いてきた。
生徒さんたち、みんなこっち見てるし、公開プロポーズとか、最悪だ。囃し立ててくるほど、子どもでも年寄りでもないのが、最悪だ。
「マジで? こないだの相談は、なんだったの? 結婚って、そんなノリなの? 本当に? 後悔したら、速攻で離婚できるから、軽いのかな」
「絶対に後悔しない。入れて欲しい」
「わかった。じゃあ、5人で」
「元シャルルの意見が採用されるなら、俺も要望を出そう。俺が結婚に同意する条件は、シャルルが子どもを作らないことだ」
「なんでだ! 何のための結婚だよ。意味わかんないだろ」
ああああ。弁では勝てないシュバルツとキーリーが争い出した。やめてやめて、仲良くして!
「妊娠出産に伴って、シャルルが失われるのを防ぐためだ。子が欲しいなら、他の女と作ればいい。それなら、俺は干渉しない」
結婚しようと言う話をしている最中なのに、浮気のススメを口にするのが、流石、シュバルツだ。私的には、浮気してくれる方がいいかもしれないと思うものの、シャルルもいる。どう決着をつけたらいいやら、困る話題だ。
「えーと、出産って、そんなに大変なの?」
「ああ、3割は死ぬ。俺が介入しても、どうにもならなかった」
それって、同窓生が1クラスにつき4人は出産で死ぬよねー、みたいな確率? 全然、無事でいられる気がしないね。怖すぎる。
「あー、それなら出産は向こうでした方がいいかもね。あっちなら、そんなに死亡率は高くないよ。正確な数値は知らないけど、身近に死んだ人はいないよ」
「資料と学術書の提出を求める。シャルルが子作りを希望するとは思わなかった」
「は? え? 子作り?! いや、希望してないよ? しないよ!」
「俺が丸め込んでやろうとしたのに。もう知らないぞ」
なんということだ。シュバルツの女癖の悪さに気を取られていたが、私への助け船だったとは!
「助けて! そ、そうだ。大学卒業まではダメだよ。大学通えなくなるじゃん!!」
「自分からプロポーズしておいて、この体たらくだ。気に入らないならば、同意しないことを勧める」
「ちっ、しゃーねぇ。同意する。ヘタレなのは知ってた」
「シャルルは、押せば何でも言うことをきく。あまり追い詰めるなよ」
え? 何ソレ、怖い。
「シュバルツは?」
「俺は、シャルルが誰を選ぼうと、一緒にいると決めている。あちらの男でなければ、誰でも良かった。愚問だな」
「え? じゃあ、早まった?」
15歳までに嫁に行く世界で、現在20歳の私は、完全に行き遅れだ。時間が経てば経つほど、傷口を広げてしまうと焦っていたんだよ!
「俺は大学復帰と、大魔王魔法の相談しか受けていないからな」
プロポーズの相談を本人にしちゃいけないと思っていたのだが、もうシュバ衛門に関しては、そういう気遣いをやめた方がいいかもしれないと思った。
「転移を許可する」
シュバルツが、見たことのない爽やかな笑顔を見せた。ヤバい。これは、絶対弟にしたい!
参考書片手に勉強するのは、簡単だった。私が解いていた問題は、全て答えが用意されていた。小論文だって、結局、無難な解答例があったのだ。いくつか丸暗記して、自分向けにカスタマイズしたら終了だった。私は、自分で何かを1から作り出すことは、なかったのかもしれない。
宝石質の鉱石を、非常識なサイズでゴロゴロと作成しながら、机に頭を打ちつけた。無理だ。死ぬ。恥ずかしすぎる。このまま現状維持でいいんじゃないかな、という気持ちと、このまま放っておいたらやってくる未来を受け入れたくない気持ちで揺れる。
無理だ。無理だ。無理だ。だが、こうなったのは、私の所為だ。
シュバルツ宅の寺子屋になっている部屋を覗いた。畳敷にイス席がある部屋だ。建てる前から、寺子屋をする予定だったのだろう。計画性のあるシュバルツに勝てる訳がなかったのだ。 さっきまで授業をやっていたので、生徒さんも大半残っている。
「シュバルツ、授業終わった?」
「ああ」
「じゃあ、ちょっと付き合って」
シュバルツを掴んだら、空間転移だ! と思ったのに、魔法が起動しなかった。なんで?
「用があるなら、ここで聞こう」
シュバルツは、ニヤニヤしている。龍の魔法を防ぐって、どういうこと? シュバルツの誘拐をトチってしまうなんて、この後、どうしたらいいのよ!
「な、んで?」
「お兄ちゃんは、無敵だからだろ」
それは、私がなりたいヤツだ。やられる予定はなかった。
「限度があるよね?」
「用がないなら、俺は出かけるが?」
「うう、申し訳ありませんでした。出直させていただきます」
「本当に、根性なしのヘタレだな」
「魔法を防がれた時点で、もう無理だよ。龍になった上で魔法で勝てないって、もう何しても勝てないじゃん」
やっぱり他力本願から抜け出せず、場の雰囲気で押しきれないかと考えていた。それなのに、計画とも呼べない計画の初手を崩されたのだ。もうガラスのハートは砕け散った。
「泣くな。どう考えても、ここが一番都合が良いだろう」
「都合が良いとかじゃないんだよ。自分ん時は、何したよ」
「俺は、一夜漬けはしないからな」
「申し訳御座いません。準備期間をもう少し下さい」
一時撤退をして、再起を図ろうにも、シュバルツに捕まえられて、逃げられなくなった。やっぱり勝てなかった。一か八かの勝負なんて、仕掛けるんじゃなかった。
「お父さん、元シャルル、話がある。こっちへ来い」
「元シャルルて。ちょ、どこまでバレてるの?」
「お兄ちゃんに、秘密は作れない。悪あがきをしても、無駄だ」
シュバルツのお姉ちゃんになるのに失敗したばかりか、単純なお姉ちゃん力も大敗だ。シュバ衛門め!
「なんだ」
キーリーの顔が怖い。怖すぎる。殺し屋よりは柔和なのに、殺し屋より怖い。こんな機嫌の悪い時に話すとか、ハードル高すぎだ。
「やっぱり無理だよ。そもそもこんなの私の国じゃ、あり得ないんだよ。高度すぎるんだよ」
「言いたいことは、自分で言え」
「くぅ。、、、私、叶えたい夢があるの。あっちで大学卒業して、あっちで就職して働きたいの。弟妹のイベントは絶対抑えたいし、できたらカテキョもしたいし、あっちにいっぱい行きたいの。だけど、それ以外はこっちで過ごすし、骨も埋める覚悟をしたので、ご協力いただけないでしょうか」
もっと素敵な感じで、みんなを巻き込みたかったのだけど、私の希望を押し付けたいだけなのだ。無理だ。キーリーは怒っているし、シュバルツは無表情だし、シャルルははてなマークを浮かべてる。無理だ。
「それで?」
「私と結婚して頂きたいのデス」
「誰が?」
「キーリーとシュバルツとシャルルと私」
「結婚は、ただ一人を選んでするものだったな?」
「できたらその方が良かったけど、それじゃあ私の夢が実現しないから。みんなのご意見も参考にしつつ、一部無視しつつ、考えた結果なの。意味わかんないよね。ごめんね」
初恋もしたかどうかな私に、多夫多妻のプロポーズとか、荷が重過ぎる。どれだけ考えたって、格好良い言葉とか思いつかなかったし、キーリーやシュバルツに言ったところで、失笑されるだけだろう。やっぱり無理だ!
もう言いたいことも言い終わったし、完全撤退したいのに、シュバルツが離してくれない。
「ナズネェ、私は結婚に同意する。だけど、条件を付けていい?」
「条件?」
まさかのシャルルが一発OKだった。一番無理だと思ってた。シュバルツとキーリーを両方巻き込んだからか。やった!
「ジョエルも仲間に入れて」
「え? ジョエルと結婚するのは、嫌なんじゃなかったの?」
「仲間ハズレは、可哀想」
「仲間ハズレ? そんなつもりは、なかったけど。そういうもの? 友達関係じゃないんだよ? 本人がいいよ、って言うなら、私はどっちでもいいけど」
「仲間に入る。入れて欲しい」
ジョエルが、こっちに近付いてきた。
生徒さんたち、みんなこっち見てるし、公開プロポーズとか、最悪だ。囃し立ててくるほど、子どもでも年寄りでもないのが、最悪だ。
「マジで? こないだの相談は、なんだったの? 結婚って、そんなノリなの? 本当に? 後悔したら、速攻で離婚できるから、軽いのかな」
「絶対に後悔しない。入れて欲しい」
「わかった。じゃあ、5人で」
「元シャルルの意見が採用されるなら、俺も要望を出そう。俺が結婚に同意する条件は、シャルルが子どもを作らないことだ」
「なんでだ! 何のための結婚だよ。意味わかんないだろ」
ああああ。弁では勝てないシュバルツとキーリーが争い出した。やめてやめて、仲良くして!
「妊娠出産に伴って、シャルルが失われるのを防ぐためだ。子が欲しいなら、他の女と作ればいい。それなら、俺は干渉しない」
結婚しようと言う話をしている最中なのに、浮気のススメを口にするのが、流石、シュバルツだ。私的には、浮気してくれる方がいいかもしれないと思うものの、シャルルもいる。どう決着をつけたらいいやら、困る話題だ。
「えーと、出産って、そんなに大変なの?」
「ああ、3割は死ぬ。俺が介入しても、どうにもならなかった」
それって、同窓生が1クラスにつき4人は出産で死ぬよねー、みたいな確率? 全然、無事でいられる気がしないね。怖すぎる。
「あー、それなら出産は向こうでした方がいいかもね。あっちなら、そんなに死亡率は高くないよ。正確な数値は知らないけど、身近に死んだ人はいないよ」
「資料と学術書の提出を求める。シャルルが子作りを希望するとは思わなかった」
「は? え? 子作り?! いや、希望してないよ? しないよ!」
「俺が丸め込んでやろうとしたのに。もう知らないぞ」
なんということだ。シュバルツの女癖の悪さに気を取られていたが、私への助け船だったとは!
「助けて! そ、そうだ。大学卒業まではダメだよ。大学通えなくなるじゃん!!」
「自分からプロポーズしておいて、この体たらくだ。気に入らないならば、同意しないことを勧める」
「ちっ、しゃーねぇ。同意する。ヘタレなのは知ってた」
「シャルルは、押せば何でも言うことをきく。あまり追い詰めるなよ」
え? 何ソレ、怖い。
「シュバルツは?」
「俺は、シャルルが誰を選ぼうと、一緒にいると決めている。あちらの男でなければ、誰でも良かった。愚問だな」
「え? じゃあ、早まった?」
15歳までに嫁に行く世界で、現在20歳の私は、完全に行き遅れだ。時間が経てば経つほど、傷口を広げてしまうと焦っていたんだよ!
「俺は大学復帰と、大魔王魔法の相談しか受けていないからな」
プロポーズの相談を本人にしちゃいけないと思っていたのだが、もうシュバ衛門に関しては、そういう気遣いをやめた方がいいかもしれないと思った。
「転移を許可する」
シュバルツが、見たことのない爽やかな笑顔を見せた。ヤバい。これは、絶対弟にしたい!
応援ありがとうございます!
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