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第九章.これはハッピーエンドですか?

ss.ジョエル実家の場合

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 今日は、みんなでジョエルの実家に、結婚の報告に行く。
 自分の家に行く時は緊張したが、ジョエルの実家なら、まだ気が楽だ。自分の家じゃないから、どうでもいいとは言わない。こちらは、多夫多妻制の世の中なのだ。それだけで、なんでも大丈夫な気になった。

 暢気に構えていたら、そろそろ家に着くという時になって、重大任務が降ってきた。
「何を浮かれているのか知らんが、死ぬ気でナデシコを守れよ。お前が悪いんだからな」
「何が?」
 なんと、びっくり。ジョエルのお兄さん4人は、シャルルだった私を狙っていたらしい。私は、自分の身体に戻って安全かもしれないが、今度はナデシコが狙われるから、危険なんだって。弟の養女に手を出すのはギリギリセーフだとして、弟の嫁に手を出すとかあり得る? ないよね。いくらなんでも失礼すぎるだろう。何考えてんだ。心配性も大概にしやがれ。
 キーリーだけならいざ知らず、ジョエルもうなずいているとか、どういうことだ。おかしいだろ。
「おかえりなさい、ジョエル。いらっしゃいませ、皆様」
 ほらほら、いつもの美しいお母様だよ。普通だよ。
「ただいま、 母さん。わたしの新しい家族を連れてきたよ」 


 いつもの応接室に行くと、ジョエル父とジョエル兄ズが揃っていた。ジョエル兄は、単独なら害はない。一番上か二番目だったかは、とてもいい兄だった。だが、揃うとロクなことをしない。嫌な思い出がフラッシュバックして、一歩後ろに下がったら、誰かに押し戻された。
「事前に伝えてあると思うけれど、ここにいる大人5人で結婚した。タケルは、変わらず養い子だよ。黒い男は、シュバルツで、女性2人はシャルルだったんだけど、分裂して2人に増えた」
「「「「「ぶ、分裂?!」」」」」
「あらあら」
 びっくりしたわ。どういう説明なの? 異世界云々という話はしない方向で合意をしていたのだけど、そんな話は初耳だ。いくら何でも、適当すぎるだろ。
 それが、この世界のスタンダードだというなら、構わない。しかし、お父様とお兄さんズの反応を見る限りは、違うだろう。お母様は動じていないので、まさか? いやいや、ないない。
「小さい方の、見た目がシャルルっぽいのは、ナデシコ。中身は別人だから、以前の話をしても伝わらない。記憶喪失ではない。
 大きい方が、シャルル。以前のシャルルの記憶を持っている。とはいえ、記憶喪失以前の記憶は、変わらずあやふやみたいだけどね」
 シュバルツに記憶障害と言われるのは、少し慣れてきた。記憶力の良過ぎるシュバルツに比べれば、そう言われるのも仕方がないと、諦めた。だけど、ジョエルにまで記憶について言われるのは、ちょっと悲しくなった。
「素晴らしいわ、ジョエル。私に娘が2人もできるなんて」
「良かったね。セレスティア」


「いつまでも立ち話は失礼だよ。皆様、こちらへどうぞ」
 シャルルの方へお兄さんが2人近付いていく。キーリーとジョエルが止めに行った。過保護だ。だが、2人が行ったんだから、大丈夫だろう。
「やあ、シャルルちゃん。大魔王魔法の調子は、どうかな?」
 おお! 誰だかわからないが、一番好きなお兄さんがこちらに来たようだ。なんだよ、やっぱり弟の嫁の強奪とか嘘じゃん。ナデシコのとこに行かないじゃん。
「ええ、おかげさまで、モヤモヤが赤にも紫にも黒にも変わる様になりました」
「そうか。それは、良かったね」
「これは俺のシャルルだ。近付くな」
 後ろで、興味なさ気に突っ立っていたシュバルツが、急に割って入ってきた。
 ちょっと前までは、先生への態度の悪さしか気になっていなかったが、ひょっとしたらシュバルツは、社会性や協調性が、まったくないのではなかろうか。無人島では、そんなものを育てる機会もないだろうし、そんなものは何の役にも立たない。お前、ふざけんなよの前に、姉として躾をしないといけなかったのかもしれない。
「すみません。この子は、無人島から出てきたばかりで、社会性に欠けているのです。無視して下さい。
 シュバルツ、今日は挨拶に行くって言ったよね。ジョエルのお兄さんなの。仲良くするの。できるよね」
「できない。お母さんは、嫌いなんだ」
「ええっ、そうなの? そういうことは、もう少し早く言って欲しかったな」
 なんで、そんな大事なことを今頃言うんだよ。ご家族の前で言うとか、タイミングも最悪だ。わざとか。わざとかもしれないな。
「早く言ったら、どうなった? 俺だけと結婚したか?」
「ご挨拶に来るのに、村に置いてきた」
「そうか。それなら、やり直さない」
「みんなと仲良くするか、黙って大人しくしてるか、どっちがいい?」
「黙って大人しくしていよう」
 シュバルツは、私に抱きついてきて、ぴたりと動かなくなった。
 気持ち悪い。気持ち悪い。重たい。くそ邪魔だ!
「は、な、せ! 離して! いーやーだー」
 シャルルでなくなっても、サバイバル博士には力では敵わない。ムカつく!
「みんなに悪態をつくか、黙ってくっついているか、どっちがいい?」
「卑怯者! どっちも嫌だ」
「シャルルのためだ。仕方がない。悪態を振り撒く方を選ぶか」
 ようやくシュバルツから、解放された。以前と違って、体力的には問題ないが、心の底からゲンナリした。こんなに大きくなったのに躾がなっていないとか、どうしてくれよう。叱ったところで、鼻で笑ってくる弟とか、腹を立てずにいられるだろうか。
「あらあら、シャルルちゃんは、シュバルツ君と仲良しなのね」
「違います。今は、嫌がらせをされている最中です」
「、、、、、帰る」
 シュバルツは、魔法を使って、消えた。
「え? ちょっとシュバ? あーもう、すみません、自由な子で」
「ジョエルは、あの子に嫌われているのね」
 お兄さんだけでなく、お母様にまで聞かれていた。本当に、申し訳ありません!
「普段は、仲良くしてるんですよ。ただ、ちょっと難しい生まれなので、もしかしたらここに連れて来るのは、早かったのかもしれない、とは思いました」
「そうだったの。ごめんなさい」
「いいえ、私がもう少し気を遣わないと、いけなかったのです。表情の読めない子になってしまって、忘れていました。大変申し訳ないのですが、私も中座させていただきます。失礼致します」
「ええ、頑張ってきてね」
 折角、お母様に会えたのに、シュバルツの下に転移した。


 シュバルツは、自分の家で、ごはんを作っていた。何ごともなかったかのように、いつも通りに。
「シュバルツ、何か言いたいことがあるなら、聞こうか」
「もうすぐ飯ができる。ナデシコも来るだろうから、一緒に食べよう」
「何言ってるの? ごはんの話なんて聞いてないけど。ナデシコ? なんで?」
「今日は、赤魚の煮付けと肉豆腐と青菜の胡麻和えとひじきの五目煮と、、、そうだ、茶碗蒸しとプリンを蒸していた。持って来よう」
 今日は、囲炉裏端ではなく、ちゃぶ台にごはんが並べられていた。明らかに、今作り始めた量ではない。魔法を使ったにしてもおかしい。計画的犯行が伺えた。
「何それ、いつの間に豆腐とか開発してたんだよ」
「シャルルが好きだ、と聞いた」
「そんな理由で、作らなくていいよ。向こうで買ってくるよ」
「シャルルに必要な物は、全て俺が揃える。これは、俺のルールだ。邪魔をするな」
「いやいやいや、おかしいよね。私がしなくていい、って言ってるのに」
 いや、違う。問題は、豆腐の出所ではない。だが、見てしまうとツッコまずにはいられなかった。めちゃくちゃ美味しそうで、いろいろあったことをポイして、とりあえずごはんを食べるか、という気分が盛り上がってくる。ダメだ。しかし、温かいうちに食べた方が、絶対に美味しい。プリンすら、冷やす前に食べたい。
「あー、プリンだ。私の分もある?」
「ひっ!」
 何もない空間に、ナデシコが現れた。転移魔法は便利だが、心臓に悪い。
「勿論だ。いくらでも食えばいい」
「やったー」
「但し、飯を食った後だ。そうでないと、シャルルが悪鬼になるからな」
「大丈夫。いい子のお約束は、覚えたの」
「揃ったから、食うか」
 ナデシコとは、仲良くできてるな。女の子だからか? キーリー以上に女好きだからな。

「そんな目で見るな。ナデシコの好きなところは、顔だけだ。心配はいらない」
「そんな心配はしてないし」
 ごはんを食べながら、シュバルツの観察をしていたら、妙な誤解をされた。
「悪かったな」
「何が?」
 謝ってくれたからといって、安心してはいけない。悪いと思っている内容が、真っ当だった試しがないからだ。
「向こうにいれば、もっといい物を食わせてもらえただろう」
「その罪滅ぼしに、おかずの品数を増やしたの?」
「2人の好物を揃えたら、増えただけだ」
「そうなんだ。でも、食い物の恨みで怒ってるんじゃないからね」
 やっぱり誤解だった! 私は、どれだけ食いしん坊キャラなのだ。ジョエル実家での食事は、味を感じた試しがない。どうでもいい。
「だが、こうでもしないと、シャルルをこちらに戻せなかった。ナデシコとセットで、こちらに連れてくる必要があった。謝罪には、後日、一人で行ってくる。心配はいらない」
「悪いことをした自覚は、あるんだね?」
「非常識だとは知っているが、悪いとは思っていない。あれは、あちらの方がより性質が悪い。ナデシコはともかく、シャルルを置いておく訳にはいかなかった」
「なんでよ。お母様が、大好きなんだよ」
「ナデシコが狙われると聞いたから、まぁいいかとついて行ったら、2人とも狙われていた。1人で2人を守るのは、骨が折れる。せめて行くなら、1人ずつにしてくれ」
「シュバルツも過保護か。失礼すぎるわ。お兄さんズに謝って来い!」
「謝るだけで良ければ、いくらでも謝ってこよう」
「ナズネェ、あのね、私ね、『結婚しよう』って、お兄さんに言われたから」
「は?」
「あのままあの場にいたら、夫が4人増えそうだったけど、受け入れたい?」
「もうお腹いっぱいです。減らす方なら、検討できます」
「注意しても全く聞かないから、置いておく訳にはいかなかった。忘れているのかもしれないが、ナデシコでなくなっても、シャルルは黒髪だ。少々年増でも、あの兄のジジイっぷりの方が上だ。油断するな」
「折角の年増バリアが! って、誰が年増だ。嫌なら、別れろ」
 シャルルに言われるならわかるが、なんで年上に年増呼ばわりされなきゃいけないのか! 腹立つ。これは、マジで怒っていいヤツだよね?
「結婚の挨拶なんて、あの2人だけで充分だ。元々夫婦だったんだろう? しばらく俺は両手に花だ。シャルル、結界を張れ」
「何のために?」
「飯を食い終わる前に、お母さんが帰ってくる」
「え? ジョエルは、魔法使えないよね」
「足の速さが異常だ。勘もいい。だから、お母さんは嫌いなんだ」
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