8 / 41
任務はお手柔らかに7
しおりを挟む
「たった二日で終わってしまいましたね……」
優秀すぎるカザーレン様のお陰でなんと調査が二日で終わってしまった。行き帰りを入れて七日間、正味五日のはずが早く終わりすぎた。リッツイ姉さんが魔塔に調査を終えたと連絡をいれてくれて、もう帰るのだと思っていたら魔塔からまだ帰ってくるなとお達しがきた。
「どういうことですか?」
「簡単に言うとあんまり早く終わりすぎると他の魔術師がやさぐれて西の森の調査に行かなくなると言われたのよ。私もフローサノベルドも毎年来るのは面倒よ。魔塔長がきた時もわざと五日滞在して帰っていたんだって。湖も近いし時間をつぶして帰れと言われたわ」
「なるほど」
しかし、このメンバーで時間つぶしとか正気だろうか。
「私は湖のほとりで日光浴でもしようかしら」
「……では、お弁当と飲み物でも用意しましょうか?」
「あら、ジャニス、いいわね。フローサノベルドはどうする?」
「僕も行く」
そう決まると屋敷の管理人に話をした。管理人は心得えているようでお弁当を作ってくれた。湖まで行くとこの季節は避暑に来る人たちもいるようで簡易の長椅子とパラソルが貸し出されているようだ。本来なら湖は徒歩で行けるような距離ではないが、私たちは西の森を通過できるので少し歩けばすぐに湖に着いた。
「うわあ、綺麗ですね」
思っていたより美しく大きな湖が目の前に広がった。まだシーズンには早いからか、来てる人はいなかった。さっそくリッツイ姉さんはパラソルの一つに入って長椅子に座った。
「私はこれに決めた!」
「こんなに西の森が近くて大丈夫なんですかね?」
「一般人は森には近づけないし、魔獣だってこっちには興味が無いよ。でも、何かあったら危ないから、毎年調査がはいるんだ」
「なるほど」
「カザーレン様もそちらの長椅子に座りますか?」
「……。ジャニスはどうするの?」
「私はせっかくなので泳ごうかと」
「お、泳ぐ? ジャニス、正気なの? 初夏とはいえまだ水は冷たいわよ?」
会話が聞こえていたのかリッツィ姉さんが驚きの声をあげた。しかし、せっかく水があるのだからもちろん泳ごうかと。
「大した冷たさではないですし、水泳はバランスよく体を鍛えられます」
「……水着とか?」
「いえ、持ってきておりませんし、少し重くなるでしょうが運動着でかまいません。それに何かあったらすぐにこちらに戻りますから」
「あ、そうなの……」
二人は驚いていたが私が泳ぐことには反対しなかった。軽く準備運動をして、大切なタガーを岸辺に置いた。向こう岸までは五百メートルくらいだろうか。実は泳ぐのは大好きだ。
ドボン、と飛び込むとそのまま向こう岸を目指す。
実家暮らしの時のバカンスは祖父母の屋敷で、その裏に少し行けば海があった。兄たちと遠泳をするのが毎年の夏の過ごし方だった。
向こう岸について少し休んでからまた戻る。二往復して岸に上がるとちょうどお昼時間のようだった。
「……ジャニス、お昼にしましょう。てか、貴方の体力どうなってるの」
「はい。ご用意しますね。体力? 湖は体は浮きませんが塩水のようにべたつかなくていいですね」
笑顔でリッツイ姉さんと受け答えをしてから着替えを持つと湖横の小屋に向かった。さっと着替えて戻ると二人が私をじっと見つめていた。
「どうかしましたか? こちらのテーブルに並べますね。飲み物はどうされます?」
「ええと、私はワインを頂くわ」
「僕は水でいい。それよりジャニス、こっちにおいで」
カザーレン様に呼ばれて行くと、肩にかかっていたタオルを外された。彼が何かつぶやくとブワリ、と風が巻き起こった。
「うわ……すごい」
簡単にタオルで拭いていただけの髪が乾いていく。魔法ってすごいなあ、とつくづく感心した。
「これでいい。次はブラッシング……」
「ありがとうございます!」
続けて髪を取られそうになったのを感じ取って、サッとカザーレン様から離れるとちょっとムッとされる。ブラッシングってなんだ。やっぱり犬か。でもにっこり笑って、水を手渡すと口を尖らしながら受け取ってくれた。あ、ちょっと嬉しそう。
いくら私に愛犬を重ねて想っているとしても、許せることと許せないことがある。
それから食事するときもなんだかカザーレン様から視線を感じた。落ち着かない気分になるのでやめて欲しい。
「口の端にクリームがついてる」
デザートを食べた後にカザーレン様の指がこちらに向けられて私の口の端をぬぐう。私は何が起きているのか理解できずにそれをただ目で追っていた。
「ふふ、おいしかったかい」
ぬぐったクリームを口に運ぶカザーレン様に思考が固まる。なんだこれ。
「フ、フローサノベルド、いくらなんでもそれはやりすぎじゃない?」
「え、なにが?」
不思議そうに答えるカザーレン様とリッツイ姉さんの会話が遠くに聞こえるような気がした。
ぐるぐると思考が回る……。
それからは日が陰ってきたので荷物を持って屋敷の方へ戻った。
優秀すぎるカザーレン様のお陰でなんと調査が二日で終わってしまった。行き帰りを入れて七日間、正味五日のはずが早く終わりすぎた。リッツイ姉さんが魔塔に調査を終えたと連絡をいれてくれて、もう帰るのだと思っていたら魔塔からまだ帰ってくるなとお達しがきた。
「どういうことですか?」
「簡単に言うとあんまり早く終わりすぎると他の魔術師がやさぐれて西の森の調査に行かなくなると言われたのよ。私もフローサノベルドも毎年来るのは面倒よ。魔塔長がきた時もわざと五日滞在して帰っていたんだって。湖も近いし時間をつぶして帰れと言われたわ」
「なるほど」
しかし、このメンバーで時間つぶしとか正気だろうか。
「私は湖のほとりで日光浴でもしようかしら」
「……では、お弁当と飲み物でも用意しましょうか?」
「あら、ジャニス、いいわね。フローサノベルドはどうする?」
「僕も行く」
そう決まると屋敷の管理人に話をした。管理人は心得えているようでお弁当を作ってくれた。湖まで行くとこの季節は避暑に来る人たちもいるようで簡易の長椅子とパラソルが貸し出されているようだ。本来なら湖は徒歩で行けるような距離ではないが、私たちは西の森を通過できるので少し歩けばすぐに湖に着いた。
「うわあ、綺麗ですね」
思っていたより美しく大きな湖が目の前に広がった。まだシーズンには早いからか、来てる人はいなかった。さっそくリッツイ姉さんはパラソルの一つに入って長椅子に座った。
「私はこれに決めた!」
「こんなに西の森が近くて大丈夫なんですかね?」
「一般人は森には近づけないし、魔獣だってこっちには興味が無いよ。でも、何かあったら危ないから、毎年調査がはいるんだ」
「なるほど」
「カザーレン様もそちらの長椅子に座りますか?」
「……。ジャニスはどうするの?」
「私はせっかくなので泳ごうかと」
「お、泳ぐ? ジャニス、正気なの? 初夏とはいえまだ水は冷たいわよ?」
会話が聞こえていたのかリッツィ姉さんが驚きの声をあげた。しかし、せっかく水があるのだからもちろん泳ごうかと。
「大した冷たさではないですし、水泳はバランスよく体を鍛えられます」
「……水着とか?」
「いえ、持ってきておりませんし、少し重くなるでしょうが運動着でかまいません。それに何かあったらすぐにこちらに戻りますから」
「あ、そうなの……」
二人は驚いていたが私が泳ぐことには反対しなかった。軽く準備運動をして、大切なタガーを岸辺に置いた。向こう岸までは五百メートルくらいだろうか。実は泳ぐのは大好きだ。
ドボン、と飛び込むとそのまま向こう岸を目指す。
実家暮らしの時のバカンスは祖父母の屋敷で、その裏に少し行けば海があった。兄たちと遠泳をするのが毎年の夏の過ごし方だった。
向こう岸について少し休んでからまた戻る。二往復して岸に上がるとちょうどお昼時間のようだった。
「……ジャニス、お昼にしましょう。てか、貴方の体力どうなってるの」
「はい。ご用意しますね。体力? 湖は体は浮きませんが塩水のようにべたつかなくていいですね」
笑顔でリッツイ姉さんと受け答えをしてから着替えを持つと湖横の小屋に向かった。さっと着替えて戻ると二人が私をじっと見つめていた。
「どうかしましたか? こちらのテーブルに並べますね。飲み物はどうされます?」
「ええと、私はワインを頂くわ」
「僕は水でいい。それよりジャニス、こっちにおいで」
カザーレン様に呼ばれて行くと、肩にかかっていたタオルを外された。彼が何かつぶやくとブワリ、と風が巻き起こった。
「うわ……すごい」
簡単にタオルで拭いていただけの髪が乾いていく。魔法ってすごいなあ、とつくづく感心した。
「これでいい。次はブラッシング……」
「ありがとうございます!」
続けて髪を取られそうになったのを感じ取って、サッとカザーレン様から離れるとちょっとムッとされる。ブラッシングってなんだ。やっぱり犬か。でもにっこり笑って、水を手渡すと口を尖らしながら受け取ってくれた。あ、ちょっと嬉しそう。
いくら私に愛犬を重ねて想っているとしても、許せることと許せないことがある。
それから食事するときもなんだかカザーレン様から視線を感じた。落ち着かない気分になるのでやめて欲しい。
「口の端にクリームがついてる」
デザートを食べた後にカザーレン様の指がこちらに向けられて私の口の端をぬぐう。私は何が起きているのか理解できずにそれをただ目で追っていた。
「ふふ、おいしかったかい」
ぬぐったクリームを口に運ぶカザーレン様に思考が固まる。なんだこれ。
「フ、フローサノベルド、いくらなんでもそれはやりすぎじゃない?」
「え、なにが?」
不思議そうに答えるカザーレン様とリッツイ姉さんの会話が遠くに聞こえるような気がした。
ぐるぐると思考が回る……。
それからは日が陰ってきたので荷物を持って屋敷の方へ戻った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
68
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる