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Past4(ローランド)
episode55
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[十三年前]
「ローゼン?」
「ええ、お嬢様。私は訪れた事はございませんが、小さいけれど強国で、水が豊かな国だそうです」
「へぇ。そんなに凄いの?」
「凄いなんてものじゃありませんわ、クラリサお嬢様!そこら辺のお貴族様ではなく一国の王子様!それに時期国王様のお妃第一候補だなんて、まるでおとぎ話のようだわ!」
豊かなブロンドの巻き毛の少女が読んでいた絵本から顔を上げると、メイドの言葉に気の抜けた相槌をした。
クラリサが五歳の誕生日を迎えたある日、自分が顔も知らぬ男の婚約相手に選ばれた事を知った。
両親は大変喜んで、仲良しのメイド達もまるで自分の事のように頬を赤らめ想像に花を咲かせていた。
「どんな方でしょうね、お嬢様!きっとお似合いだわ!」
「・・・顔も声も知らないのに、結婚相手と言われても困ってしまうわ」
唯一浮かない顔をしていたのはクラリサ本人だった。
まだ五歳の少女にとって、異国の王子との婚約はただ嬉しいことばかりではなかった。
美しく可憐にダンスを踊る仕草、テーブルマナーに異国の言葉の習得、流行や社会情勢についてなど、様々な花嫁修業を、幼い頃から顔も知らない未来の夫の為にこなさなければならなかったからだ。
それから十年が経ち、クラリサが十五歳の誕生パーティーでの事だった。
「私の遠縁にローゼンのお妃、オリヴィア様がいらっしゃるの。クラリサ、貴方はそのご子息で時期国王のローランド様ときっと夫婦になるのよ」
「お前の容姿は既に先方に肖像画を送って、オリヴィア様も気に入っておられる。このまま事が運べば、時期国王の正妻はお前だ、クラリサ」
「・・・正妻。ローゼンは一夫多妻なのね」
「正妻だぞ?!中流貴族である私たちから一国の王の妃が出るなんて名誉な事だ!」
小さくため息をついたクラリサのむくれた頬に、優しい父の手が慰めるように触れる。
「そうそう!ローゼンからもローランド様の肖像が届いたのよ」
きゃあきゃあと色めきたつメイド達にふと興味が湧き、下げていた視線を母親が持つ額縁に向ける。
「・・・っ、綺麗な方ね」
あまりの感動にほうっとため息が漏れる。
額に入れられた大きな絵画には、机に向かい椅子に座り頬ずえをついて読書をする金髪の青年が描かれていた。
その絵画にはまるで今すぐにでも立ち上がり、こちらに微笑みかけてくれるようなリアルさがあった。
一点に注がれた真剣なそれでいて優しい赤い瞳は吸い込まれるようで、クラリサの心をぎゅっと鷲掴んだ。
その薄く開かれた唇も、柔らかそうな金髪も、十五歳の少女には全部が完璧だった。
「クラリサ、お前はこの方と結婚するんだよ。了承してくれるね?」
「ええ!勿論よお父様!私この方の為に何だって頑張るわ!」
「ローゼン?」
「ええ、お嬢様。私は訪れた事はございませんが、小さいけれど強国で、水が豊かな国だそうです」
「へぇ。そんなに凄いの?」
「凄いなんてものじゃありませんわ、クラリサお嬢様!そこら辺のお貴族様ではなく一国の王子様!それに時期国王様のお妃第一候補だなんて、まるでおとぎ話のようだわ!」
豊かなブロンドの巻き毛の少女が読んでいた絵本から顔を上げると、メイドの言葉に気の抜けた相槌をした。
クラリサが五歳の誕生日を迎えたある日、自分が顔も知らぬ男の婚約相手に選ばれた事を知った。
両親は大変喜んで、仲良しのメイド達もまるで自分の事のように頬を赤らめ想像に花を咲かせていた。
「どんな方でしょうね、お嬢様!きっとお似合いだわ!」
「・・・顔も声も知らないのに、結婚相手と言われても困ってしまうわ」
唯一浮かない顔をしていたのはクラリサ本人だった。
まだ五歳の少女にとって、異国の王子との婚約はただ嬉しいことばかりではなかった。
美しく可憐にダンスを踊る仕草、テーブルマナーに異国の言葉の習得、流行や社会情勢についてなど、様々な花嫁修業を、幼い頃から顔も知らない未来の夫の為にこなさなければならなかったからだ。
それから十年が経ち、クラリサが十五歳の誕生パーティーでの事だった。
「私の遠縁にローゼンのお妃、オリヴィア様がいらっしゃるの。クラリサ、貴方はそのご子息で時期国王のローランド様ときっと夫婦になるのよ」
「お前の容姿は既に先方に肖像画を送って、オリヴィア様も気に入っておられる。このまま事が運べば、時期国王の正妻はお前だ、クラリサ」
「・・・正妻。ローゼンは一夫多妻なのね」
「正妻だぞ?!中流貴族である私たちから一国の王の妃が出るなんて名誉な事だ!」
小さくため息をついたクラリサのむくれた頬に、優しい父の手が慰めるように触れる。
「そうそう!ローゼンからもローランド様の肖像が届いたのよ」
きゃあきゃあと色めきたつメイド達にふと興味が湧き、下げていた視線を母親が持つ額縁に向ける。
「・・・っ、綺麗な方ね」
あまりの感動にほうっとため息が漏れる。
額に入れられた大きな絵画には、机に向かい椅子に座り頬ずえをついて読書をする金髪の青年が描かれていた。
その絵画にはまるで今すぐにでも立ち上がり、こちらに微笑みかけてくれるようなリアルさがあった。
一点に注がれた真剣なそれでいて優しい赤い瞳は吸い込まれるようで、クラリサの心をぎゅっと鷲掴んだ。
その薄く開かれた唇も、柔らかそうな金髪も、十五歳の少女には全部が完璧だった。
「クラリサ、お前はこの方と結婚するんだよ。了承してくれるね?」
「ええ!勿論よお父様!私この方の為に何だって頑張るわ!」
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