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Past4(ローランド)
episode56
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城内の広場で腰のサーベルを抜いた二人の男に歓声が上がる。
「ローランド様ー!!」
「シーヴァ様!!やってやれー!」
ワーワーと盛り上がる観衆とは裏腹に、冷めきった表情を浮かべる金髪の青年は眉間にきつくシワを作り真っ直ぐに自身の向かいに視線を向けている。
「・・・なんのつもりだ」
「なんのつもり?それは僕のセリフだよ、ローランド兄上。何を考えてる?僕にも教えてよ」
引きつった笑みを浮かべた銀髪の青年が、サーベルの切っ先を狙いを定めるように金髪の青年に向けた。
劣勢に見える銀髪の青年の切り傷から血が滲む。
「クソっ!」
剣の擦れる音が数分間続き、次の瞬間片方のサーベルが吹き飛ばされ、地面に尻もちを着いた青年が憎々しげに低く唸ると歓声があがった。
「勝者、ローランド様!!!」
❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋
「あの方が・・・ローランド様なの?」
「ええ!お嬢様。肖像画のお姿以上に実際のローランド様も素敵な方ですね」
勝負は終わったとサーベルを放り投げたローランドが陽の光に照らされた金髪を掻きあげるのを、たくさんの観衆の中二人の少女が見守っていた。
不思議そうに首を傾げているのがクラリサで、熱い視線を向けるのが同行を許されたメイドのララだ。
普段着られることの無い煌びやかなドレスに身を包み嬉しそうにはしゃぐララにとは裏腹に、クラリサは念願のローランドを目の前にして浮かない表情を浮かべている。
「?お嬢様、ローランド様にお声をおかけしないのですか?」
「・・・ねぇ、ララ。私あの方があんなに冷たい方だなんて思ってもみなかったわ。私なら、あんなに冷たい赤い瞳で見つめられたら凍ってしまうもの」
事実、ローランドの容姿は絵画を凌ぐほどの立派な美しい青年だったが、クラリサが想い続けたあの絵画の中の青年とは似て非なる別人だった。
悔しげにローランドを見上げる義弟をその赤い瞳で一瞥するだけで、助け起こすことも無く興味を失ったようにその場を去ってしまったのだ。
「・・・暖かい家族、とは行かなさそうね」
ローランドが去って行った方向を睨み続ける銀髪の青年を悲しく見つめ、クラリサが小さく呟いた。
絵画の中の青年に心を捧げてから約一年間、彼の事だけを想い続け辛い花嫁修業にも耐えて来た。
両親に頼み込み、旅行だと理由を付けて遥々未来の夫の姿を見に来たのに。
「・・・まるで心のないお人形さんね」
一瞬、建物に消えていくローランドの赤い瞳と目が合った気がして、一人で勝手に相手を評価していた気まずさから慌てて顔を下げた。
「まぁお嬢様!今彼とお嬢様と目が合いましたよ!素敵!一体どんなお声なんでしょうね」
舞い上がるララの声は聞こえなかった。
水上都市であるローゼンは国土は小さくとも強国で、隷属国を沢山従える新興国だ。
それに比べてクラリサの両親が所有する領地は大国に属するが、だだっ広い領地の八割が深い森という田舎貴族だ。
遠縁だと言うローゼン国王の妃、オリヴィアの推薦がなければまず名の上がることの無い田舎貴族の娘に、この縁談が舞い込んできただけ奇跡に近しいのだ。
「・・・お嬢様?」
突然駄々を捏ねていた自分が恥ずかしくなって顔が熱くなる。
「・・・お父様の言う通りね。私の結婚が一族の今後に関わるんですもの。しっかりしなくちゃ」
「?」
「・・・ララ。やっぱり私、ローランド様にご挨拶しに行くわ。それに、お庭のバラも綺麗に咲いていたから見てから帰らなくちゃね」
このままガッカリして国に帰っても、どの道数年後にはこの国に嫁ぐのだ。
勿論、人目を忍んでの旅なので名前は名乗れないだろうが、一貴族の娘としてお目にかかることが出来れば会話をしてみたいと思った。
「ローランド様ー!!」
「シーヴァ様!!やってやれー!」
ワーワーと盛り上がる観衆とは裏腹に、冷めきった表情を浮かべる金髪の青年は眉間にきつくシワを作り真っ直ぐに自身の向かいに視線を向けている。
「・・・なんのつもりだ」
「なんのつもり?それは僕のセリフだよ、ローランド兄上。何を考えてる?僕にも教えてよ」
引きつった笑みを浮かべた銀髪の青年が、サーベルの切っ先を狙いを定めるように金髪の青年に向けた。
劣勢に見える銀髪の青年の切り傷から血が滲む。
「クソっ!」
剣の擦れる音が数分間続き、次の瞬間片方のサーベルが吹き飛ばされ、地面に尻もちを着いた青年が憎々しげに低く唸ると歓声があがった。
「勝者、ローランド様!!!」
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「あの方が・・・ローランド様なの?」
「ええ!お嬢様。肖像画のお姿以上に実際のローランド様も素敵な方ですね」
勝負は終わったとサーベルを放り投げたローランドが陽の光に照らされた金髪を掻きあげるのを、たくさんの観衆の中二人の少女が見守っていた。
不思議そうに首を傾げているのがクラリサで、熱い視線を向けるのが同行を許されたメイドのララだ。
普段着られることの無い煌びやかなドレスに身を包み嬉しそうにはしゃぐララにとは裏腹に、クラリサは念願のローランドを目の前にして浮かない表情を浮かべている。
「?お嬢様、ローランド様にお声をおかけしないのですか?」
「・・・ねぇ、ララ。私あの方があんなに冷たい方だなんて思ってもみなかったわ。私なら、あんなに冷たい赤い瞳で見つめられたら凍ってしまうもの」
事実、ローランドの容姿は絵画を凌ぐほどの立派な美しい青年だったが、クラリサが想い続けたあの絵画の中の青年とは似て非なる別人だった。
悔しげにローランドを見上げる義弟をその赤い瞳で一瞥するだけで、助け起こすことも無く興味を失ったようにその場を去ってしまったのだ。
「・・・暖かい家族、とは行かなさそうね」
ローランドが去って行った方向を睨み続ける銀髪の青年を悲しく見つめ、クラリサが小さく呟いた。
絵画の中の青年に心を捧げてから約一年間、彼の事だけを想い続け辛い花嫁修業にも耐えて来た。
両親に頼み込み、旅行だと理由を付けて遥々未来の夫の姿を見に来たのに。
「・・・まるで心のないお人形さんね」
一瞬、建物に消えていくローランドの赤い瞳と目が合った気がして、一人で勝手に相手を評価していた気まずさから慌てて顔を下げた。
「まぁお嬢様!今彼とお嬢様と目が合いましたよ!素敵!一体どんなお声なんでしょうね」
舞い上がるララの声は聞こえなかった。
水上都市であるローゼンは国土は小さくとも強国で、隷属国を沢山従える新興国だ。
それに比べてクラリサの両親が所有する領地は大国に属するが、だだっ広い領地の八割が深い森という田舎貴族だ。
遠縁だと言うローゼン国王の妃、オリヴィアの推薦がなければまず名の上がることの無い田舎貴族の娘に、この縁談が舞い込んできただけ奇跡に近しいのだ。
「・・・お嬢様?」
突然駄々を捏ねていた自分が恥ずかしくなって顔が熱くなる。
「・・・お父様の言う通りね。私の結婚が一族の今後に関わるんですもの。しっかりしなくちゃ」
「?」
「・・・ララ。やっぱり私、ローランド様にご挨拶しに行くわ。それに、お庭のバラも綺麗に咲いていたから見てから帰らなくちゃね」
このままガッカリして国に帰っても、どの道数年後にはこの国に嫁ぐのだ。
勿論、人目を忍んでの旅なので名前は名乗れないだろうが、一貴族の娘としてお目にかかることが出来れば会話をしてみたいと思った。
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