異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第七十二話 ご招待

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第七十二話 ご招待


「ブフッ!なんだって!?」

夜、皆が帰って来た。
夕食を食べながら「魔王が来た」と話したら、ジローが飲んでいたお茶を噴き出した。

「大丈夫だったのか!?」
「怪我は!?」
「ないない。大丈夫だって」

私がそう言うと、何故か信じられないと言う顔で皆がエストを見た。

「本当に大丈夫だ。ヒナがぶん投げたからな」

ねぇ、私も大丈夫って言ったんですけど?

「ぶん投げたって・・・」
「魔王を?」

皆の反応を見ると、やはり魔王というのは恐れられているようだ。
畑の雑草は取るし、稲刈りもしたけど。

「今日は稲刈りを一緒にやった」
「「「魔王が稲刈り・・・」」」

ジロー、クレス、キャロルが、信じられない物見る目で私を見た。失礼な!

「本人がやりたいって言ったんだもん」
「だからって、本当にやらせるかよ」
「まぁ、ヒナだしな」
「そうね、ヒナちゃんだもの」
「ヒナだしねぇ」
「ヒナだからなぁ」
「ちょ、酷くない!?」

皆が揃ってため息を吐いた。

「そうか、そうか。そんなにプリンはいらないか」

食後のデザートに用意しておいたんだけど、皆さんいらないか。

「「「「食べる!」」」」

まったく・・・こんなにも普通の猫なのに。
まぁ、普通は言い過ぎた。
ちょっと変わった猫なのに。

片付けを追えて食堂でまったりしていると、リシュナから通信が入った。

「はいはい」

彼女とは偶に連絡を取っている。
最近は忙しいらしく、会ってはいない。
いつも少し世間話をして、クロに代わって、また少し話して終わる。

『ヒナ、明日そちらに行く』
「扉繋げる?」

リシュナにはまだ転移石を渡せていないから、来るなら飛ぶか扉かになる。

『そうだな。お願いしよう』

と言う事で、次の日、リシュナからの連絡で扉を繋げた。

「ようこそ」
「キュ!」
「今日はゆっくりしていけるの?」
「いや、そうでも」

リシュナがそう言いかけて、固まった。

「ヒナ、あれは・・・」

彼女の目線の先には、せっせと雑草を取る魔王が。
連日来ては畑仕事をして、お昼ご飯を食べて帰る魔王。
段々慣れて来た。

「いやぁ、なんか・・・魔王?」

私がそう言うと、リシュナはつかつかと魔王の側へ行き、魔王の頭を叩いた!

「貴様、ここで何をしている」

リシュナのドスの聞いた声、久しぶりに聞いた!

「その声は、リシュナか。見てわからぬのか?草を取っておる」
「そんな事は見ればわかる!何故魔王たる貴様がここにおるのかと、聞いておるのだ」
「古龍の女帝こそ、何故ここにいる」

なんか、不穏な空気が・・・。
知り合いだったのも驚いたが、仲が悪そうだな。

「クロは私の子で、ヒナは我の友人だからだ」

おお、友人と言われた。ちょっと照れる。

「ぐっ・・・」

何故か悔しそうな顔をする魔王。

「わ、我とて、友となる・・・予定だ」
「予定、ねぇ。大方、ヒナの作る食事につられて入り浸っておるだけであろう」
「うっ・・・」

え、マジで?

「フッ」

リシュナさん、何故勝ち誇った様な顔を?

「キュ」
「おお、クロ」

クロが来てくれたおかげで、リシュナの機嫌が良くなった!
やれやれ。





リシュナを食堂へと案内してお茶の用意をしていると、エストがやって来た。
エストは恭しくリシュナの前に片膝をつくと、右手を胸に当てて頭を下げた。

「古龍の女王陛下。ご尊顔拝謁賜り、恐悦至極」
「ほぉ、ヒナが言っておったエストとやらか」
「はっ」

畑仕事用の恰好をしているのに、まるで騎士に見える!
まぁ、元騎士の隊長さんだしね。

「そう畏まらなくても良い。ここでの我は、ヒナの友人じゃ」
「有難き幸せ」

エストはスッと立ち上がると、厨房の中へとやって来た。

「ヒナ、茶菓子は?」
「こっちにあるよ」
「皿はこれで良いか?」
「うん」

いつも手伝ってくれるから、手際が良い。

「お主達、そうしておるとまるで夫婦のようじゃの」
「はい?いやいやいや、それはエストが可哀そうだよぉ」

何を言い出すやら。
二メートル超えの猫ですよ?恋愛対象にはならないでしょうよ。

「じゃが、お主ら・・・このまま島に籠っていては、伴侶を見つけるのは難しいのではないのか?」

盲点だった!
そうだよね。
このままじゃ、エストがお嫁さんを見つけられないじゃん!

「ごめん、エスト!そっちは全然考えて無かった!下にいた頃に恋人とか婚約者とか、大丈夫だった!?まさか・・・捨てて!?」
「落ち着け。俺にはそう言った相手はいなかった」
「いやいやいや!それだけの顔で、騎士団の隊長!家事も手伝ってくれる人に、いないわけないじゃん!ど、どうしよう!?今からでも間に合う!?住む所なら沢山あるから!家も建てるよ!?」
「お・ち・つ・け」

むぎゅっと、顔を手で挟まれた。

「お前は・・・魔王が来た時にはあんなに落ち着いていたくせに」
「ひょれほほれほは、へふ(それとこれとは、別)!」
「・・・柔らかいな」

ムニるのは良いけどさ、今はそれどころじゃないんですけど!

「まったく・・・古龍の女王よ。ヒナをあまりからかわないでください」
「へ?」
「この猫は、自分の事には無頓着で、向けられる好意には鈍感ですし、表現も不器用」

一個も褒めてないよね!?

「ですが、他人の事となると魔王だろうがドラゴンだろうが、平気で立ち向かう」

それは、まぁ、普通じゃない?
猫達は戦闘向きじゃない。クロはまだ子供だし、ポチは犬だし、セバスは執事だ。

「下手をすると、私の嫁とやらを探して世界中走り回りそうだ」
「うっ・・・」

流石にそこまでは・・・。
ただ、エストのいた町に行って探そうかなぁ・・・とか、エストが騎士団を辞めた頃に失恋して町を出た女の人がいないか、いたら何処へ行ったのかを探そうかと思っただけで。

「だから、いないと言っただろう」

何も言ってないのに!

「ふ、ははははは!これは、私が無粋だったな。友人が心配だったのだ、許せ」
「私こそ、失礼をいしました」
「詫びになるかはわからんが・・・これを」

リシュナがテーブルの上に、小さなプレートを二枚置いた。

「七日後に、トーナ王国で祭りが行われる。私も招待されていてな。そのプレートは、私の関係者だと示す物。祭りは一月通して行われるが、本祭と呼ばれる儀式はそのプレートを持っている者しか見る事ができぬ」

一か月もお祭り・・・凄いな。

「行ってみると良い」
「ありがとう!」

前に、トーナ王国のお祭りに行ってみたいと通信で話したのを覚えていてくれたんだ!
リシュナは本当に優しいなぁ。

「ふふ、詫びだと言ったであろう。さて、私はそろそろ行かねば。またな、クロ」
「キュ!」

リシュナが帰った後、クロは猫達の所へ行ってしまったので、エストと二人でお茶をする事にした。

「はい、エスト」
「良い香りだな。上に乗っている白い物は、クリームか」
「エストは甘い物好きだけど、甘すぎるのは苦手でしょ?それ、下の飲み物は少し苦いんだ」

エストに渡したのは、ウインナーコーヒー。
コーヒー豆の木はまだ小さいので、今回はインスタントだけど。

「へぇ~・・・ああ、美味いな」
「良かった」
「そっちも同じなのか?苦いの苦手だろ」
「こっちは、下も上も甘いんだ」

私の方は、ウインナーココア。
こっちもインスタントだけど、祖母直伝。
温めた牛乳にココアパウダーをドバッと入れて、バターを一欠けらポトッと入れて、シャカシャカでかき混ぜる。沸騰直前に火を止めると言う・・・かなり大雑把だけど美味しい。

注:そちらの世界にいる猫にチョコレート類は毒です。絶対に与えてはいけません。

「ふっ・・・」

エストが私の顔を見て、笑い出した。

「何?どうしたの?」
「クリームが付いてる」

なんてベタな事を!は、早く取らねば!

「違う。ここだ」

エストが親指で私の口元を拭い、それをペロリと舐めた。
ひぃやぁぁぁぁぁ!なんて、なんって事をぉ!

「うわっ、本当に甘いな」
「ハレンチ!」
「はれ?」

通じないのかい!

「・・・何でもないです」

くそぅ、イケオジめ!
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