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一芝居

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 15歳になった私は、今日からこの学園での生活が始まる。

 全寮制であるため学校側から侍女を一人つけてくれるので、とりあえず、仲良くしようとしてみたが、どうも私と仲良くするつもりはないらしい。


 殿下の指示通り行動開始だ。



「用事があるときだけ呼ぶわ。あとは一人にしてくれるかしら? 」



 私から名前も知らない侍女にそう告げると侍女は、無言で部屋を出ていった。
 彼女は、私より少し年上なのだろう。
 爵位を笠に着るわけではないが、侯爵令嬢として挨拶したのに、無反応。
 正直、全く信用できない……

 兄のところは、ちゃんとした侍女見習いだったと言っていたけど……何の差なのだろうか。
 私は、部屋の片づけだけを優先させて、兄を尋ねることにする。
 独りぼっちは、さすがに寂しいなと思うのは、家族に囲まれた生活をしてきたからだろう。



 お昼過ぎになりコンコンとノックされたため、私はどちら様? と扉越し尋ねる。



「ヘンリーだけど、アンナ、すぐ出てこれる? すごく居心地が悪い……」



 女子寮なのにハリーがいることに驚いたが、扉を開けるとそこには、本当にハリーが立っている。



「どうしたの? こんなところで。ここ、女子寮よ? 」



 そう尋ねると、事情がありそうだった。



「いや、殿下がね、アンナを呼んできてってアンナの侍女に頼んだのに一向に来ないから、
 お前がいけ! ! って言われて……
 寮監には、きちんと許可は取ってあるんだけど……居心地最悪……」



 私はなるほどねと納得顔で、情けないハリーの顔をみて笑ってしまう。



「伺うわ。少しだけ、ここで待っていてくれる?
 さすがに部屋に入るのはいくら許可があってもまずいでしょ? 」



 そうだね……といいながら、早くしてくれ……と泣き言も同時に言っている。
 いつも持ち歩くものとして、まとめて置いたものを小さなカバンに詰めて、部屋をでる。
 もちろん鍵もしっかりかけてだ。



「いきましょうか? ハリー、大丈夫? 」



 手で制しされ、ハリーは、無言で逃げるようにとっと歩いて行ってしまう。



「待ってよ……ハリーってば、もう! ! 」



 声をかけてもちっとも待ってくれないハリーに怒りながら、私も急いだ。



 寮の入り口のところで待っていてくれたハリーに一言文句言ってやろうか!と思ったが、やめておく。
 私の侍女見習いが、上位者、それも殿下に対して失礼を働いているのだ。
 それを補うためにハリーが私の元へ送られてきた。

 殿下とは、幼馴染であるが、王族なので私より上位に当たる。
 ハリーも、公爵家の嫡男であるのだから、私より上位のものだ。



「ハリー、ごめんね。寮まで迎えに来てくれて……」



 一言謝ると、ハリーは首を横に振っている。



「いいんだ。そんなことくらい。
 さすがに恥ずかしかったけど……それより、侍女はどうしたんだ? 
 部屋に1人つけられるだろう?」



 尋ねてもらっても、仲良くする気のない侍女にどうしようもないと思わず愚痴をこぼしてしまった。



「用事があれば呼ぶから来ないでって言っちゃったの。
 それで来ないとかだったら、私が悪いわ。本当にごめんなさい!」
「あぁ、いいんだ。何回も謝ることじゃないし、まず、仕事放棄している侍女も悪い。
 アンナより上位の殿下からの伝言だからな。
 まぁ、元々アンナ自体が、学園の実態調査をするための殿下の差し金でもあるし……
 それに、この状況は、学園側に抗議しないといけないことなんだよ」



 そういって諭される。

 デビュタントのパートナーだったハリーは、ここ2年で背も高くなり体格もずっと大人に近づいていっている。
 見た目も考え方も私とは大違いだ。



「ハリーは、ホントに頼りになるね。
 私のお兄様にもぜひ紹介したいわ。
 まだ、会ったことないでしょ? 」



 照れたように顔を背けられてしまったが、話は聞いていたようだ。



「そういえば、アンナのお兄さんには、会ったことないな。
 会わせてくれるのか? 
 まぁ、1つ上だから、そのうち会えそうだけど……」
「そうだね。殿下の話が終わったら呼び出そうか? 
 どうせ、部屋に籠って本読んでるだけだから。
 かわいい妹の言うことくらい聞いてくれるよ!」



 廊下を2人で話しながら歩いていると、執事見習いらしい男の子がかけてくる。



「ヘンリー様、殿下が……」



 とても、慌てている様子だ。
 何があったのだろうか? と思っていたが、ハリーには状況がわかったらしい。



「ほっといていいよ。今から、二人で伺うし。
 それより、伝言頼めるかなぁ? 
 サシャ・ニール・フロイゼンを呼んできてくれる? アンナの名前で」



 承りましたと執事見習いは、男子寮の方へかけていく。



「なんか、殿下が機嫌悪くなったようだね。
 急いでいった方がいいかもしれないなぁ……」



 のんきに急いだ方がと言っているが、ハリーは、とてもゆっくり歩き始める。



「言ってることとやってることが違うんだけど……?」
「殿下には、そういう癇癪も直してもらわないといけないからね。
 少々、待たせてあげるのも臣下の務めでしょ? 
 すべて「はい」で答える臣下なんて、殿下も面白くないだろうし」



 持論を展開始めたハリーを見てクスクス笑ってしまう。
 確かに、「はい」しか言わない臣下なんて、いらないわよね。
 ハリーも成長しているんだわ。
 私も、ちゃんと成長しなくちゃ! !
 決心、新たに通された客室の扉をノックする。



「ヘンリーとアンナリーゼが参りました。お目通りください」



 返事も待たずにドアノブに手をかけ、ハリーは入っていく。
 尋ねた意味、あるの? とちょっと考えている。
 きっと、殿下には、勝手に入ってきていいと言われているのだろう。
 部屋に入ると、よく来たねと殿下がこちらに目をやった。
 その足元には、学園長、執事長、私の侍女が座っている。



「どうか、されましたか? かなりご立腹のようですが……? 」



 わざとらしくハリーが殿下に声をかければ、ああそうなんだと返事が返ってくる。



「私は、アンナリーゼに客間に来るよう侍女伝えに伝言をしたはずなのだが、一向に来なくてね。
 何をしていたんだい? アンナリーゼ。
 君の侍女は、伝言したと言っているし、侍女を見つけたときはイリア嬢のところで
 菓子を食べていた。
 一体どうなっているのか説明してもらおう」



 えぇー私が説明するの?と思い、視線をハリーに向ける。
 でも、どこ吹く風で、ハリーは視線を合わせてくれなかった。
 私がのっかった作戦なのだから、自分で処理をしろということか……



「はい、殿下。お答えいたします。
 私は、ヘンリー様が呼びに来ていただくまで、本日部屋から一歩も出ておりません。
 侍女と顔を合わせたのは、午前入寮時のみでございます」



 正直に答えたのだが、これじゃ私も侍女も罰せられるなと思った。
 でも、こればっかりは、仕方ない。
 大根役者と言われても問題ないだろう。
 最近学園を取り巻くお金問題を暴くためのお芝居なのだから……
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