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一安心ね?

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 私たちが、ダドリー男爵領へ来てから3日後。
 デリアに頼んであった公都の屋敷から、この屋敷に人をよこしてほしいという連絡により10人の侍女やメイド、下男がやってきた。
 私は、何より驚いてしまったのは、その人選である。
 彼彼女らを率いてここまで来たのは、アンバー公爵家筆頭執筆のディルであった。


「アンナリーゼ様の召喚により、参りました」


 私に向かって挨拶をしてくれるディルを見て、目をパチクリさせてしまう。
 公都の屋敷は、どうなっているのだろう……?
 ディルがいなくても大丈夫なのかと、至極真っ当なことを聞きたくなった。


「あの、ディル?」
「なんでございましょう?」
「えっと……」


 歯切れ悪く言うと、ディルの方が先に私の何か言いにくそうにしていた理由がわかったようで答えてれた。


「あぁ、公都の屋敷のことですね。
 ちょうど、お手紙をいただいたころにパルマから夏季休暇の予定の連絡が来ておりましたので、
 勝手に申し訳なかったのですが、呼び寄せました」
「パルマを?今年は、自国で勉学にと言っていたのだけど……」
「えぇ、そのようでしたね。本人も昨夜来てそう申しておりましたが、実際に城で働いてみたらどうか
 という提案の元、1日に朝からの数時間だけ城に上がることとなり、推薦状を携えて、今朝から行って
 おります。
 あくまで、夏季休暇の前日までとしておりますので、学園の勉学には特に差支えもありませんし、
 実際、目指すところを見ておくことは、今後優位になれると思いまして」
「あの、推薦状って誰のかしら?私は書いてないわよね?
 ジョージア様も書くとは思えないし……」
「セバスチャン様のですよ。公都を発つときに、もし、必要になったらパルマに渡してほしいと
 預かっていたのです」
「私にでなく、ディルに渡すあたり、セバスはちゃんと考えていたのね」


 用意周到に預けられていた城へのパルマの推薦状。
 私は、セバスに感心してしまった。
 何かしら、不測の事態が起こることを予想しての行動である。
 行き当たりばったりの私とは違い、さすがだ。


「セバスにお礼を言わないとね……」
「そうですね、そちらは、私からよりアンナリーゼ様からの方が喜ばれると思います」
「わかったわ!後で手紙を書いておくから送っておいてちょうだい!」


 かしこまりましたと返事をしてくれたところに、ノクトとニコライが帰ってきた。


「あれ?ディルさんがいる」
「これはこれは、ニコライ。久しぶりです」
「こちらこそ、お久しぶりです。こちらには……?」
「えぇ、アンナリーゼ様に呼んでいただきましたので、こちらの屋敷を整えるお手伝いをと思い
 まして……」
「公都のお屋敷はいいの?」
「えぇ、えぇ、大丈夫ですよ!パルマが来ていますし、私が一人いなくなったところでアンバーの屋敷が
 立ち行かないとなること、ございませんから!
 少々離れていたからと、依然のまま、いえ、それ以上の輝きがなければ、一掃もじさないと申し置き
 してきていますから、大丈夫でしょう」


 ディルさんって、怖いよね……なんて、ニコライの呟きが聞こえる。
 その横で、ノクトが、ニコライに囁く。
 アンナに毒されているのだろうから、仕方ないと。


「ノクト!私は、毒したりしていませんよ!
 ディルはとても優秀な筆頭執事なのですから、仕方がないのですよ。
 それに、屋敷にいる侍従たちもとっても優秀だから、ディルに言われなくてもきちんとできるわよ!」
「アンナリーゼ様が来られてから、みんなの働きもよくなりましたからね!
 ノクト様、屋敷のみながアンナリーゼ様の帰る場所を整えることに喜びを感じているのですから、
 毒されてなどいませんよ!」
「それは、すまん。
 確かに公都の屋敷は、居心地がいいな。以前は違ったというのが、不思議でならん」
「そうですね……前もとても良かったのです。しかし、アンバー公爵家自体が、アンナリーゼ様を得た
 ことで、以前より輝きを増した……と言わせていただきましょう。
 とても華のある屋敷となったのは事実ですし、お客様を迎えたとしても、皆様が喜んでいただける
 持成しができるようになったのもアンナリーゼ様の教育の賜物です」
「普段は、じゃじゃ馬一直線だが、こと社交会となったらアンナは人が変わるからな」
「屋敷でも、十分に発揮されておりますよ!それこそ、公爵家の女主人として、これ以上ない程の方に
 仕えられているとこの私自身が喜びを感じております」


 ディルに褒められすぎて、悶えそうだ。
 それ以上は、止めてほしい。両手を顔に当て覆う。恥ずかしすぎて顔をあげていられないのだ。


「ディルよ、その辺にしておこう、ほら!」
「あぁ、照れてらっしゃいますね。本当のことであっても、この方は無自覚ですからね?」


 ノクト、ニコライ、ディルは、わかり合っているのか笑っているようだ。
 私は指の間からチラッと見ると、三人と目が合った。
 訳知り顔で三人ともが笑ってくるので、決まりが悪い……


「こ……コホン……お話は、それくらいでいいかしら?」
「あぁ、いいぞ!で、ディルよ、俺は何をすればいいだろう?
 アンナに修復作業をするよう言われておるのだ」
「それならば、二名ほど下男を連れてきましたので、そちらの指揮をお願いできますでしょうか?」
「わかった。じゃあ、報告だけ終わったら、早速そっちにかかる。
 材料も揃えてきたから、すぐに終わるだろう」
「ありがとうございます、では、そちらをよろしくお願いします」
「おぉ!任せておけ!」
「ディルさん、私は何をすれば?足りない物資を集めてきているから、それを運べばいいかな?」
「えぇ、では、それでお願いします。あと、侍女やメイドは多めに連れてきたのですが……」
「男手の足りないところを助ければいいかな?」
「お願いします。私も向かいますので!」
「デリアたちは、もう、手始めに進めて行ってくれているわ!そのまま任せておいていいと思うの!」
「かしこまりました。では、私は……少々領地を回ってきてもよいでしょうか?」
「えぇ……いいわよ?でも、どうして?」
「こちらに、迎えたい人がいるのです。
 できれば、アンナリーゼ様に取り立てていただければと思っていまして……」
「それは……」
「会ってから判断で構いません」


 わかったわ!と返事をすると、早速ディルは御前をと退出していく。
 どんな人物を連れてくるのかはわからないが、ディルが迎えたいという人物に会えるのがとても楽しみだった。


「ディルが来てくれたら、この屋敷も一安心ね?」


 あぁとノクトが答える。
 部屋には、私とノクトとニコライが取り残された。
 さて、静かになった執務室で私は二人の報告を聞くことにしたのであった。
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