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調査

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 大量の服を購入し満足しながら、アンジェラとアデルが待つ部屋へと通された。意外と仲良くなっている二人が微笑ましい。


「ママっ!」
「アンナ。もう買い物はおわったので?」


 アンジェラが、私の方へ駆けてくるので、抱き上げ、アデルの隣に腰掛けた。


「えぇ、終わりました。久しぶりにたくさんかったから、心も満たされた感じがするわ!」
「買い物をする、お金を使うという行為は、一説によると、体の中にある邪気のようなものを出す行為になるとか。気持ちがスッキリされたのであれば、効果てきめんですね?」
「ビルの懐?にもお金が入ったしね」
「入ったというより、領地へ還元されるお金ですから……」
「アンナにどれほどのものを買わせたのかは知らないけど、ビルさんの大店の店主という腕は衰えていないということだね。帰ってからが怖そうなんですけど」
「そう?アデルに1番たくさん服を買ったから、後で、感想を聞かせてね!」
「……はい。あの、」
「何?」
「お手柔らかにお願いします」


 クスクスと笑うと、アデルの様子を見て、ビルも笑い、つられるようにアンジェラも笑う。


「ジョーにまで笑われて……」


 しゅんとなっているアデルにアンジェラが手を伸ばし、頭を撫でていた。そこまでの仲になっていたようで、少し驚いた。


「ずいぶんと、ジョーと仲良くなったのね?」
「えっ?そう思いますか?」
「えぇ、思うわ。元々人見知りはしない子だけど……」
「待っている間に、ウィル様の近衛での話をしていたからですかね?すっかり、気に入られたようです」
「そう。それは、とても喜びそうなお話。私も聞きたいわ!」
「アンナは、本人に直接聞いてください。恐れ多すぎて、いません」
「ジョーには話したのに、私がダメって変な話ね?」
「それでもです。それより、ビルさんにお話を聞くのではなかったのですか?」

 そうだったと、ビルに向き直り、ここへ来たときと同じ質問をすることにした。拠点を領主の館から、街へうつしたことで、耳に入ってくる情報もあるだろう。


「それで、何か変わった話は出て来たかしら?」
「そうですね……アンバー領と違い、こちらには伝手が少ないのでなかなか。ただ、気になる話は耳にしています。もう少し、信憑性があるようになってからお伝えしようと想いますので、数日後に、お店に来ていただけるとありがたいです」
「その間に調べられるかしら?それとも、子猫たちを使う?」
「……子猫たちですか?人数が少ないと聞いています。館の警備の問題もありますから、こちらで情報収集はさせていただきます」
「くれぐれも、危ないことはしないでちょうだい?」
「アンナ様に言われても、説得力はありませんが、肝に銘じておきます」


 ニコリと笑うビルに、頷いた。


「商人の情報網ってどれくらいあるんだい?」
「アデル様よりかは知っているけど、アンナ様よりかは知らないという程度ですかね?商売柄、取り扱うものの話が多いですし、商売へ向かった先で少々雑談をしてさりげなく聞き出したりするくらいのものですからね。精度もまちまちですし、アンナ様のように正確な情報をたくさん仕入れることはできません。売りの時期を読むとかなら得意ですが、商売に特化していますね。それも」
「私は、ビルたちのそういう商売に特化した嗅覚って素晴らしいと思っているのよ?私にはないものだから」
「そういっていただけると、光栄ですね」


 満面の笑みで私に応える。確かに少しの情報から、金目の絡むことに関しての嗅覚は、私以上にあるのだから、褒めたたえるしかない。


「そういえば、今回は、ちゅんちゅんとさえずる小鳥はいないのですか?」
「えぇ、今は、長期出張中よ?どうして?」
「あの、聞きたいことが!」
「どうぞ。なんなりと」


 アデルが疑問に思っていたことがあるようで、私に質問したいそうだ。今、一緒にいるみんなは、私のすることに疑問を抱くことなく、ただ、そういうものだと割り切ってしまっているので、ほとんど、質問をされたことがなかった。


「その、ちゅんちゅんって……なんですか?」
「お父様が誕生日にくれた小鳥よ!いただいてから何年も経つから、きっと小鳥ではないのでしょうけど……私が望んだ情報をすぐに調べて与えてくれる存在ね。私が、情報戦で優位にたてるのは、この小鳥の存在が大きいわ」
「でも、今回は、長期出張ってことですよね?その場合、どうやって情報を得ているのですか?」
「どうやってって、アデルも毎日机に向かっているでしょ?」
「……机?」
「報告書よ?」
「報告書って言っても、それほど書く人物が多くないのではないですか?」
「アデルは、知らないのだったわね?私の執務室に来るのは、夕方がほとんどだから」
「……夕方だと、何か不都合が?」
「近衛から上がってくる報告書は夕方から夜だけど、各地から上がってくる報告書は朝なのよ。たくさんの人からもらっているの。領民の気になることを書いてもらったり、貴族社会のことだったり」
「たまに、昼に来ているのは、どんなものですか?」
「基本的に、朝の報告書は前日のもの。昼に来るのは朝出された報告書ね。よっぽど急ぎなものは昼夜問わず送られてくるのよ!」


 知らなかったと、俯くアデル。四六時中、私の元にいるわけではないので、知らなくて当然である。
 ちゅんちゅうの話自体が珍しいことではあるので、クスっと笑ってしまった。
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