【R18】体に刻む恋のspell

神楽冬呼

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supplementary tuition番外編

記憶の残影 03

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酷い頭痛に吐き気、脂汗が背中に滲む。
ふと、ひやりとした冷たい感触が額や頬に触れ、痛みが和らいだ気がした。
消灯された病室、静まり返った真夜中に溶け込む様な気配がすぐ側にある。
そっと起こさぬ様に冷たい布地が肌に当てがわれている。
母親なのか、看護師なのか。
目を開けると醒めてしまう夢のようにも思え、確かめずにいた。
痛みが遠退く一瞬で、深い眠りに落ちて行く。

眠りのそこで泣き声を聞いた。
霞かかる視界の先で声を抑えすすり泣く、女の声。
泣いている。どうにかしなければと身体が動くが、どうやっても辿り着けない。
誰が泣いていても、結局覚えてはいないのだ。
どうでもいいはずだ。
それなのに、必死に探す自分がいる。

 一体、なんなんだ…………

常にぐらつき崩れ落ちそうな地面の上を踠きながら歩いているようだ。



「 ──── くん、真崎くんっ」

グラグラと体が揺すぶられ、声を聞いた。
細い指が腕を掴んでいる。
急に開けた視界に、心配そうに眉を下げる夢月がいた。

「……………………夢月」
「大丈夫?何か、凄く険しい顔で寝てるから、嫌な夢でも見てるのかなって」

横に座り僅かに首を傾げる細い肩に髪がかかる。
こちらが現実で、自分が嫌な夢を見ていたのだと気付いた。
有都は深く長い息を吐くと半身を起こし、夢月の身体を抱き寄せる。
馴染んだ温もり、摺り寄せた肌の質感、鼻孔をくすぐるすっきりと甘いシャンプーの香り、背中に回される手の平の感触。
間違いなく、こちらが現実だと知らしめてくれる。

「怖い、夢だったの?」

気遣わしげに囁く声に、有都は悟った。

 …………そうか、怖いのか。

記憶喪失だった頃の自分が、その間の記憶が、不快なだけではない。覚えがないから怖いのだ。
あの時の自分は、きっと夢月を傷付けた。
それを夢月の口から聞くのが、怖いのだ。

「…………大丈夫?この前から少し変だよ」

今までは漠然とした不安感でしかなかった。
その不安を突き詰めようともしていなかった。
だけれど、それでは駄目なのだ。

「実はさ、……………………」

夢月の顔を見詰め、有都はその肩に手を置く。
自分の声を真摯に受け止めようと見詰め返してくる瞳に、言葉が詰まる。
濁りのない透き通ったガラスのように、邪心も虚飾もない信頼仕切った瞳だ。
きっと何を告げても受け入れてくれる。
自分自身を傷付けてでも相手を受け入れようとする。
『大丈夫。全然気にしてない』、そう言って微笑むのだ。

「…………あー、いや、今日は寝よ。妊婦に寝不足はマズいだろ」
「うん…………」

様子がおかしい事に気付きながら夢月は食い下がらずに頷いた。それを都合がいいと思ってしまう自分が嫌になる。
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