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supplementary tuition番外編
記憶の残影 05
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nostalgiaと言う造語がある。
ノスタルジーと言うセンチメンタルな感情は、過去の良き思い出に浸る自分を受け入れながら、孤独や喪失に向き合うのだろう。
自分にとっての幸せな思い出があれば、辛い経験を乗り越える術を持てるのだと、彼女は教えてくれた。
そして乗り越えた経験の分、強さも得られると…………
「初日はどうだった?」
玄関で有都の帰宅を迎えた夢月は待ち兼ねたように尋ねてきた。
「佐竹の話だとそれなりに客は来たらしーけど」
「写真、写真ないの?執事の」
自室の扉に手をかけても側を離れずに期待を込めた眼差しを向けてくる夢月に、有都は失笑する。
有都が自室で着替えるので、いつもなら夢月は出迎えて直ぐにリビングへ戻って行くのだ。
「オレは執事コスプレしてねーよ」
「えええ………………楽しみにしてたのに」
残念そうに肩を下げる夢月の顎を指先で捕まえる。
顎を持ち上げると反射的に夢月の頬が色付いた。
「夢月だけにしてやろーか?執事プレイ」
「 ──── っ!…………プ、プレイじゃなくて、執事姿見たいだけで」
「夢月はオレが執事姿で他の女に傅いてるの見たいワケ?」
「ち、違うのっ」
ふるふると首を振る夢月が愛らしく、有都は腰を抱き寄せていた。
夢月の姿がないだけで物足りない学院祭となったが、参加したくても出来ず家で待つだけだった夢月としては、それ以上に寂しく切ないものだったのだろう。
堂々と周囲に公表できる関係であれば、参加も出来たのだ。
だけれど結婚も妊娠も、知られる訳にはいかない。
それが2年間の休職を学校側が呑んだ条件だ。
「真崎くん、きっと似合うだろうなって…………様になるって言うか」
先日やっと名前で呼んでくれたと言うのに、元に戻ってしまった。
名前を呼ばれたあの瞬間まで「真崎」のままでもいいと思っていたが、自分の名を呼ぶ夢月の甘く震える声には身体の奥底までくすぐられた。
「…………じゃー、明日衣装借りてくる」
「ほんとに?」
「その代わりオレを呼んで」
狡い言い方をしている。
ノスタルジーとは過去への感傷的な切望または思慕だ。
過去にあった人生の分岐点や大きな意味を持つ出来事を何度も思い起こす、忘れられない、忘れたくない経験なのだ。
きっと夢月に名を呼ばれたその声を、この先何度も思い返す。愛しい記憶として。
「…………有都、くん?」
自分の腕の中で見上げてくる夢月の肩を髪が滑る。
桜色に染まる頬と、恥ずかしげに潜められた声音が妙に艶めいていた。
ノスタルジーと言うセンチメンタルな感情は、過去の良き思い出に浸る自分を受け入れながら、孤独や喪失に向き合うのだろう。
自分にとっての幸せな思い出があれば、辛い経験を乗り越える術を持てるのだと、彼女は教えてくれた。
そして乗り越えた経験の分、強さも得られると…………
「初日はどうだった?」
玄関で有都の帰宅を迎えた夢月は待ち兼ねたように尋ねてきた。
「佐竹の話だとそれなりに客は来たらしーけど」
「写真、写真ないの?執事の」
自室の扉に手をかけても側を離れずに期待を込めた眼差しを向けてくる夢月に、有都は失笑する。
有都が自室で着替えるので、いつもなら夢月は出迎えて直ぐにリビングへ戻って行くのだ。
「オレは執事コスプレしてねーよ」
「えええ………………楽しみにしてたのに」
残念そうに肩を下げる夢月の顎を指先で捕まえる。
顎を持ち上げると反射的に夢月の頬が色付いた。
「夢月だけにしてやろーか?執事プレイ」
「 ──── っ!…………プ、プレイじゃなくて、執事姿見たいだけで」
「夢月はオレが執事姿で他の女に傅いてるの見たいワケ?」
「ち、違うのっ」
ふるふると首を振る夢月が愛らしく、有都は腰を抱き寄せていた。
夢月の姿がないだけで物足りない学院祭となったが、参加したくても出来ず家で待つだけだった夢月としては、それ以上に寂しく切ないものだったのだろう。
堂々と周囲に公表できる関係であれば、参加も出来たのだ。
だけれど結婚も妊娠も、知られる訳にはいかない。
それが2年間の休職を学校側が呑んだ条件だ。
「真崎くん、きっと似合うだろうなって…………様になるって言うか」
先日やっと名前で呼んでくれたと言うのに、元に戻ってしまった。
名前を呼ばれたあの瞬間まで「真崎」のままでもいいと思っていたが、自分の名を呼ぶ夢月の甘く震える声には身体の奥底までくすぐられた。
「…………じゃー、明日衣装借りてくる」
「ほんとに?」
「その代わりオレを呼んで」
狡い言い方をしている。
ノスタルジーとは過去への感傷的な切望または思慕だ。
過去にあった人生の分岐点や大きな意味を持つ出来事を何度も思い起こす、忘れられない、忘れたくない経験なのだ。
きっと夢月に名を呼ばれたその声を、この先何度も思い返す。愛しい記憶として。
「…………有都、くん?」
自分の腕の中で見上げてくる夢月の肩を髪が滑る。
桜色に染まる頬と、恥ずかしげに潜められた声音が妙に艶めいていた。
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