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幸か不幸か

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 ロスシー公爵夫人の導きにより、優秀なお針子が呼ばれエリザベスの為のドレスが何着もあつらえられた。どれも一級品で、センスが抜群に良く、素晴らしい出来だった。

 これならローズマリーにも対抗出来る。そう思った矢先、王太后とローズマリーがエリザベスの元を訪れた。

「グレアへ帰る?」
 
 ローズマリーに支えられた王太后は、頷く。

「先王もいない以上、この国にいる必要はなくなりました。生まれ故郷のグレアに戻ります」
「私も王太后さまに付き添い、グレア国へ帰国しようかと思っております」

 二人がそれぞれ言う。突然やって来てこの報告。エリザベスは戸惑った。

「このことは陛下には…」
「既に陛下から許可は頂いております」ローズマリーが答える。
「いつ、発たれるの?」
「明日にでも」

 随分急な話だ。真相が究明されていない今、ローズマリーが王宮を去るのが、果たして良いことなのかどうか。エリザベスは、はかりかねていた。
 かといってアーサーが許可したのにエリザベスが引き止めるわけにもいかないも。エリザベスはご健勝で、とだけ言葉をかけた。
 
 王太后とローズマリーはグレア国へ帰国した。馬車が出ていくのを、エリザベスは部屋から見ていた。


「よろしかったので?」

 振り返る。アーサーは長椅子に横になっていた。

「よろしいさ。この国からいなくなってくれれば、身の危険は無いからな。こそこそ隠れて調査する必要もなくなったし」
「ですが、ローズマリーは、貴方の父君を殺した犯人なのですよ」
「俺が見逃すはずないだろ」

 足を投げ出す。大変行儀が悪いが、今はそれどころではない。エリザベスは続きを急かした。

「グレア国へ帰国する一行の中に、俺の間者を紛れさせた。何かあれば直ぐに知らせてくるだろう。証拠を見つけ、然るべき法に乗っ取り、断罪する」
「手がかりはやはり毒の特定ですか」
「何の毒か特定か、入手経路だ。どちらかが分かればローズマリーにたどり着く可能性は高い」
「…待つだけというのは、もどかしいですね」
「問答無用でたたっ斬ってやりたいがな」

 本音はそうなのだろう。短気の彼がこうしてわざわざ証拠を調べているのは、ローズマリーが王族で簡単に手が出せないのもあるが、一番は前の時の因縁からだろう。前はアーサーを、今回は先王を、同じ毒入りワインで殺しているのだ。慎重にならざるを得ない。

「一番知りたいのは動機だったが、仕方ない。調べがついたら、じっくり聞いてやるさ」

 アーサーは一度伸びをすると、そのまま目を閉じた。このまま寝るつもりなのだろう。風邪を引きますよ、とたしなめた。
 



 庭に出ると、見計らったようにやって来る人物が。エリザベスはまたか、と内心で辟易した。

「これはモラン侯爵夫人」
「エリザベス王妃様、ご機嫌麗しゅう」

 モラン侯爵夫人のアンナだった。王宮に上がったばかりのエリザベスを使用人と勘違いしてきた人物。あの時は身重だったが無事に出産を終え、今はこうして毎日エリザベスのご機嫌伺いに王宮に通っている。

「王太后さまとエリザベスさまがグレアへ向かわれたと伺いました」
「これはお耳が早い」
「皆が噂をしていますわ。なんでも、王妃さまを侮辱なさったとか」
「まぁそんなことを?誤解ですよ。王太后さまが体調を崩されましたので、療養に向かわれただけですよ」

 アンナは、そうでしたの、とわざとらしく言った。噂の真相などどうでもいいのだ。彼女にとって。ただエリザベスに気に入られたいという欲だけで、こうして擦り寄って来ている。

 何と言っても彼女が産んだのは娘だ。将来、セシルと縁組み、と考えているに違いない。浅慮な彼女らしい姑息さだった。

「セシル様、とても陛下に似ていらっしゃいますね。将来が楽しみでございますね」

 案の定、セシルの話題を振られる。エリザベスは、ええ、と同意してみせる。

「本当に。楽しみです」
「王妃さま、今度うちの娘も連れてきますわ。ぜひ会ってやってくださいな」
「まぁ、まだ産まれたばかりでしょう?無理に連れてきて何かあっては遅いのよ」
「王妃さまにお見せしたいんです」
「子供の健康を第一にね」

 まだ乳飲み子だろうに。もう政略結婚の道具として扱っている。そんな親を親とは呼べない。エリザベスは扇子を広げて口元を隠した。

「悪いけれど、一人で歩きたいの。この所、この様な『偶然』が多いけれど、私の歓心を買いたいならば、自分の子に会ってやってくださいな」
「ええ?それはどういう…」
「言葉通りの意味です。失礼、明日また『偶然』が起ころうものなら、私は貴女を無視します。それでは」
「お、王妃さま…!」

 彼女の直ぐ隣を通り抜ける。女官たちも道を開ける。エリザベスは堂々と庭の散策を再開した。
 
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