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『まて』をやめました 20

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「それは、どういうことかな?」

麗しのレティシア様から、エドワード様と婚約解消しても繋がりは強固でいてくれると、『妹』と思ってくださると憂いがなくなってハイテンションで元気に返事をしたところに知らない声が乱入してきた。

空気を静かに震わせる甘さを含んだ低い男の声。
その方をみれば、必死に止めようとしているジェイクを引きずりながら背の高い、声のとおりの男の人がいた。
それもただの男性でない。今まで見た中でダントツ一番カッコイイ、美形、綺麗な男性。
ダークブルーの髪は、落ち着いて見えるが陽の光をはじくと天使の輪が現れる。
秀麗な顔立ち、黒曜石ような瞳は玲瓏としていて冷たい光を秘めていた。その一つ一つがレティシア様と同じく、黄金パーツ黄金配置のこの世の美の集大作という美しさの具現。
白い肌は軟弱に見えることなく精悍な印象を与える。それも聖騎士に引けを取らない実力のあるジェイクを引きずるほどの力のあるがっしりとした体格にあると思う。
決してマッチョではない。
でも肩幅だったりトラウザーにぴったりと張り付いた腿の筋肉だったりが、その人を実は筋肉質であると教えてくれる。細身に見せるためか、高級感たっぷりの光沢あるジャケットは紺にも見える黒だが、肩から二の腕にかけてがモリッとしている。たぶん僅かにだけど、たぶん、たぶん、なかなかイイ肉体だろうなぁ。

う~~~ん、レティシア様の観察で最近他の人の身体の洞察力が上がってきているような気がする・・・変態チックに。

まあ、つまるところジェイクに邪魔されながらこちらに向かってきている人は、一言で言うとに細マッチョ的超絶美形であるということ。
レティシア様とは違って、男らしいが美術品にひけをとらないくらいの綺麗なのだ。
レティシア様もそうだけど、人外的な美しさがあるなぁ。

でも、レティシア様とは決定的に違いがはっきりしている。

レティシア様は、心の清らかさまでもがその身ににじみ出ている美しさがあるけど、この人は違う。
なんか・・・腹黒?
本性を隠すのがうまい?
だけどそれを上手く隠しているから、なんか人形みたい。

残念だなぁ。

レティシア様によく似た、美しい人だというのに似ているからこそ、その心の中が透けて見えるようだ。

「姉様、ダメだ!こいつを見ちゃダメ。また呪いにかかるっ。」

ジェイクは美麗な男性にしがみ付くように行く手を阻んでいる。
しかし呪いって・・・

「ジェイク、いくら何でも言い過ぎよ。
ぷっくくっ、一応、お客様みたいだし、そんなことしちゃ、ダメでしょ?」

ジェイクの言い方があまりにもアレなもので、噴出さないようにするのがつらかった。
呪い・・・言い得て妙だわ。

「姉様・・・、大丈夫なの?」

それまで客人にしがみ付いていたジェイクは、ポイっと掴んでいた手をほっぽりだして私の傍に来て顔をまじまじ見つめる。
うふふっ、いやだわ。この子ってば可愛い。
心配そうにしてるのに、ほっとしてる。
至近距離で見るとジェイクってば、甘い顔をしてるわよね。
きっと会う人みんなを誑し込めるくらいに、魅力的だわ。私が安心させるために笑いかけるとぱあぁっと嬉しそうな顔になる。本当に心配していたのね。

「うふふっ、勿論よ。
私には、レティシア様という女神様が付いているのよ。呪いなんてかからないわよ。」

いや~ねぇ、この子ってば。
かわいらしいジェイクの頬を撫でてあげると犬の様に擦りついてくる。
ふわふわした髪が揺れてくすぐったい。客人を止めているジェイクの鬼気迫るかんじはちょっと恐かったけど、こうして擦りついてくる顔はご機嫌笑顔だ。ほっぺも男の子なのに柔らかで癒される。
もう、私の弟はなんてかわいいの?

「まったく、君の弟はなんて失礼な・・・」

ジェイクに癒されていると、客人の低い声が響く。あまり大きな声を出していないようなのに、耳によく響くいい声だ。
ジェイクがつかんだせいでよれて皺になったジャケットを手で馴らして此方を睨むように近づいてくる。うわぁ、機嫌悪う・・・

レティシア様に性別的なところを除けばよく似ている美麗男性、その見た目から、どう考えても私の婚約者だと言う、エドワード様で間違えないだろう。
確かに見た目は美しい。
美丈夫というには、もっと美しいんだよなぁ。男性ってわかるけど中性?でもないし、性別とか人とか関係ないって感じかなぁ?
美術館にある、彫刻か絵画の様・・・いや、今の機嫌悪い顔、きれい過ぎて魔王的な?
女神様と魔王?
鑑賞物としてなら魅力的だろうけど、う~ん・・・ないかな?
圧倒的にレティシア様に軍配があがる。レティシア様に会う前なら夢中になれたかもしれないけど、レティシア様を知ってしまった私には、それほどの熱を向けられない。

──────日記を読んじゃうと・・・特にね

「ねえジェイク、この場合『お久しぶり』というのかな?でもさぁ、私的には初対面なわけで『初めまして』?でもないよね?なんていうのが正解なのかな?」

「そうだね、まずは『とっとと帰りやがれで!』でどうかな?」

「え~、それはいくら何でも失礼でしょ?もう顔は見たかったら見れてよかったよ。う~ん、あとは用はない、かな?」

「あっ、そうか『サインをして帰りやがれ』だね」

そうでした、用はあったな。忘れるところだった。
おもわすぽんっと手のひらに拳でたたいて、そ~でしたと思い立つ。だけど、それが第一声としてはどうなのかな?
いくらこのあと、繋がりが希薄になろうとも貴族の社交の場では、会うだろうしザリエル家にマイナスな印象の発言は避けたいなぁ。

「ねえ、クレアはどう思う?」

私とジェイクの会話を静かに傍で影のように聞いていたクレアにも助言を頼む。

「そうですね、私はの思うままに話されるのがよろしいかと存じます。
溜めていた思いも一緒に。」

考えていたのか、スラスラと言われたアドバイスは的を得ていた。
それもそうね。
で話すことの重要さを思い出した。

記憶がない私には、エドワード様への恋慕は無いに等しい。
だけど言いたいこと、そりゃ山ほどありますわぁ!
偶に見る夢の起き抜けの悪いこと悪いこと。腫れた瞼に痛ましい視線のクレアやメイドたち。なにも聞いてこないけど、何かに感づいている家族。

本人がサインをしないことには、進まない婚約の解消。

早く断ち切って、飛び立ちたい。

心身ともに、軽くなって新しい人生を、家族や友達、周りの人たちと新たな思い出をつくる。

日記や夢の中のように、言いなりになって『まて』はもうやめる。

だから、私は、今の私で言いたいことを言う。

スッと立ち上がり、私たちの近くでやり取りを、無表情に微妙な心情を僅かばかり顔にだしているエドワード様のもとに向く。

さて、私の今の気持ち?

『はじめまして』『私は記憶がありません』『貴方のことはなにもおぼえてません』『婚約解消しましょう』

どれもあてはまるけど、まずはこれかな?

私の今の気持ちを聞いてこの人は、どんな顔するのかな?
怒る?
呆れる?
それとも、無反応かしら?

どれもあり得て顔が想像つく。それがおかしくてニコニコしてしまう。
ニコニコ?
いや、ニヤニヤだ。

また、日記にあったみたいに、だらしない顔で笑うなというのかな?
貴族らしい洗練された笑みで過ごせ、だったかな?

うふふっ、今なら言える。

エドワード様の顔を正面から見据え、黒曜石のような煌めきの瞳をじっとみつめる。

トクンッ・・・

目があった瞬間、胸がちょっとだけ高鳴ったけどレティシア様のときのように感情の制御不能ほどではない。

その瞳は、ずっと見ていられるほど綺麗だけど、・・・胸が苦しくなるけど、大丈夫。

私は、今日を限りに─────

「貴方がエドワード様ですよね。挨拶は省略します。
私は、『まて』をもうやめます。」




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