最後に触れる美しい青

わさん

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 最初こそもう二度と会えないのではないかと不安に思っていたが、ウィルは翌日には当たり前のように部屋にやってきた。あまりに普通に現れたので、ここがウィルの部屋なのではないかと思ってしまったくらいだ。
 テトが頼むまでもなく、ウィルは本当に毎日部屋に訪れた。

「また来たの? 怒られない?」
「怒られてもいいよ」

 怒られないよ、とはウィルは言わない。実際怒られてもいるのだろう。
 この部屋に連れ出されてからウィルに何があったのか。テトが尋ねてみても、ウィルは曖昧になんでもないよとはぐらかすばかりだった。その後も何度か訊いたりもしたが、ウィルがここにいられる時間は少ない。それよりもとウィルから遊びの提案をされれば、いつでもテトはそちらに飛びついた。
 ウィルはドアからやってくることもあったし、高い窓からするすると降りてくることもあった。どうしてあの窓が利用できるのだろう。部屋の構造の問題なのだろうか。そして外に続く場所をテトはその二つ以外には知らないが、いつの間にか室内にいて驚いたこともある。

 ウィルが現れてしばらくすると、いつでも大人たちが慌てて探しにくる。どうやらどこかから脱走するなり、逃げ出すなりして来ているらしい。だからかウィルは静かにね、と現れるたびにテトにいたずらっぽく微笑んで見せる。いつでも内緒話をするようにお互いにひそひそと耳元で会話をした。くすぐったくて、テトはそのときばかりは寂しさを感じずに済んだ。きっとウィルが温かいからだろう。

 ウィルはおもちゃや絵本を持ってくることもあれば、懐から黒いうさぎをそっと見せてくれることもあった。
 ふくふくとした毛並みのうさぎにテトは思わずわあ、と歓声をあげた。

「うさぎ」
「かわいいだろう? テトに似てる」
「似てる? どこが?」

 うさぎはふかふかで、耳が長い。大人しい子なのか、それともうさぎじたいが大人しいのか。テトがウィルの懐から抱き上げても、鼻をひくひくさせるばかりだ。
 本当はウィルの弟のうさぎなのだそうだ。ずいぶん飼いたいとねだった割にいまでは関心が薄く、ウィルのうさぎのようになっているらしい。

「髪が黒くて、ぷるぷるしてて、あったかいところ」
「ぷるぷるしてないよ」
「してる」

 ほら、とウィルがうさぎを抱いたままのテトに抱きついてくる。ぷるぷると言われるとまるで怖がりのようで納得がいかないが、うさぎも抱きついてくるウィルも暖かいので心地が良く、テトはそのまま大人しくしていた。
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