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55悪役令嬢

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(シルベルトside)

ティアラ嬢の話は、信じられないと思いつつ、セレナの淫魔なんて遠い昔の絵本の話だと感じてたものが、魔法具という点で納得した。

「彼女がセレナの代わりなんて事にならないようにしなければならない」

イリーネ嬢に言われた事やセレナと同じようないじめ…
「この前も一人で昼飯を食べていたし」
一年生の時のセレナのようだった。
でも、ティアラ嬢は、決して生徒会に入り込もうとはしていない。

きっと今までの俺なら、生徒会に招き入れて保護しようとした、恩人だからということで。
でも冷静に見れば、彼女を遠ざけた方がいい。こんな縛りの中で誰が敵かもわからないからな。彼女は、カミューラ嬢とサクラ嬢と言ったが、イリーネ嬢達はどうなんだろう?

「彼女の言う通り、まずカミューラ嬢が本当に操られているか検証すべきだな」



生徒会室 昼休み

「トリウミ王国の作者ベラが二年前に書いた物語が、この学園で起きた揉め事や婚約破棄騒動、セレナ、私達、カミューラ嬢達と似ているらしい。セレナが魔法具で書かした可能性が高い。それが縛りなのか、セレナがその本をなぞるようにした行動なのかわからないが、実際に起きた通りだそうだ。そして留学生サクラ嬢もまた自分が聖女になる為の話を魔法具で書かした可能性が高い。その本は今、学園長がお持ちだそうです。クラード様、学園長からお借り出来そうですか?実際に見てみたいです」
と言えば、

顔を僅かに振った。
「魔法具、か。やはり…。魔法具なら宝具だ、その在り方を知らせるわけにはいかない」
とクラード様が言えば、

「もうここまで知っていてもですか?」
と聞けば、

「騒いで更なる無理矢理な事になったらという懸念がある…学園長曰く、今、魔法具を持っているのは、留学生サクラ嬢だ。ノーマン王国を潰すことも出来ると言う。だから奪い取るまでは待てと言われた」

「やはり、その話合いだったのですね。私は、カミューラ嬢を解呪したいと思います。彼女も魔法具で操られている可能性は高いですから」

「いや、シルベルト、駄目だ。相手に気づかれるのが一番まずい」

ログワットが手を上げた。
「すみません、あまりよくわからないのですが、セレナをいじめていたカミューラ嬢も操られていて、実際にはセレナの自作自演って事ですか?」

「いや、カミューラ嬢は間違いなくイリーネ嬢達を使ったし、彼女達は、制服や持ち物を捨てたり、暴漢に襲われたり、紅茶に毒を仕込んだりした…証拠がある。ただセレナがそれを全て知って動いていた可能性はある。だからこそ危険は回避していた」

「確かに、知っていたら毒入り紅茶は飲まないな」
とログワットも納得した。
「暴漢に襲われた日、たまたまかと思ったが、確かに待ち合わせに警備隊の隊舎を指定されれば、あの道を通るしかなかった。偶然じゃなかったのか…」
とフランも言った。
「まず、警備隊の隊舎で待ち合わせってなんだよ。そこは疑問持とうぜ。あっ、あの頃はダメか。みんな意識刈り取られてたか…」
とログワットが言い、溜息をついた。

「まぁ、過去の事はどうしようもない、未来のために動くべきだ」

「おい、シル熱いね。どうした?あぁ、シルの姫君か。カミューラ嬢を助けてと言われたか?」
とログワットが言った後、扉が叩かれた。

「大変です。カミューラ様が、二年生のサクラさんを階段から突き落としました!今、サクラさんは医務室に運ばれていますが、カミューラ様をどうしますか?警備員を呼びますか?」
と同じ二年生のオレンジのタイが揺れていた。

「もうか…」

クラード様が、立ち上がり、
「今、行く。まずは事情を聞きたい」



現場につけば、イリーネ嬢が座り込んでいた。カミューラ嬢は階段を睨みつけているようで、たいして表情はなく、真っ直ぐ立っていた。

「どうした?」
とクラード様が聞けば、

カミューラ嬢とイリーネ嬢は話さない。

サクラ嬢と同じクラスメイトが、
「恐れながら、クラード殿下発言してもいいですか?」
と恐々しながら発言の許可を求めた。

「見ていたなら、頼む」

「この階段で、カミューラ様やイリーネ様と鉢合わせになりました。その時イリーネ様が挨拶も出来ないのと言われまして、サクラさんが、頭を下げましたと言えば、嘘つきと言われて。再度サクラさんが頭を下げれば、イリーネ様が扇子を取り出して、カミューラ様がサクラさんの肩を押しました…」

「そうか、間違いないか?」
とクラード様が問えば、近くにいた者はみんな頷く。
カミューラ嬢の一団だけ下を向いているが。

「では、カミューラ嬢、事情を聞きたい。一緒に生徒会室に来て欲しい」

「お待ち下さい、クラード様。私が、扇子を取ったのは…。ごめんなさい、私は威嚇のつもりで…」
とイリーネ嬢は言った。
きっとそうなんだろう。
これこそ物語通り。
ティアラ嬢の紙に、カミューラの手下と揉めて扇子で手を叩かれるとあった。そしてカミューラは見て見ぬフリ…

なのに、カミューラ嬢が動いた。

「イリーネ、私、事情を話してくるわ。その証言者は、ちゃんと見ていたのかしら?だってあの留学生が初めに不敬な態度を取ったのよ。反省すべきはあの子でしょうに、あれは、防衛したにすぎませんわ」
と淡々と言う。
自分のやった事を当然とでも言うように堂々として、恐れもないようだ。
周りの目撃者は、顔を強張らせ、目線を下にした。

こんな言動を聞けば、やはり要注意人物で怖がられる存在だ。

ただ物語の概要を聞いた上では、悪役令嬢、ティアラ嬢が言う役に操られているように見える。
それほどイリーネ嬢の表情とカミューラ嬢の表情が違いすぎる。
全く表情が動いていない。

「カミューラ様…」
青褪めたイリーネ嬢の小さな声が聞こえた。



生徒会室

「カミューラ嬢、席に着いてくれ」
とクラード様が言った。
「何故そのような行いをする?危険なことはわかっているな?」
と聞けば、
「たかだか階段二段ですよ。尻餅をついた程度でしょう?それなのに大袈裟に足が痛いだの、立てないと言って。こちらは、不敬罪で訴えますわ。まずはあちらから謝罪をして頂かなければ納得いきません」
と言った。

やはり表情は変わらず。

「段数の問題じゃないでしょう?カミューラ嬢」
ログワットも呆れている。

フゥー、やっぱり話にならない。
鞄から預かった小瓶を出し、中に入った折り畳んだハンカチを出した。

カミューラ嬢の横に立ち、
「失礼します、カミューラ嬢」
と言って、そのハンカチをカミューラ嬢の組んだ手の側に落とした。

「えっ?何をなさるのシルベルト様!」

「失礼、ハンカチを落としてしまいました。返していただけないでしょうか?」
と言えば、組んだ手を離しハンカチを取り上げ、止まる。

「えっ…」
とカミューラ嬢は発した後、ハンカチを持ってない方の手で額を押さえた。額から目を押さえ、持っていたハンカチを落とした。スカートの上に落ちたが、血の滲みがついた部分が、カミューラ嬢から見える。
身体全体が震えているようだ。

「カミューラ嬢、ゆっくり息を吸うんだ。我慢しなくていい、背中を椅子の背につけるんだ」
と言えば、
「待てと言っただろう、シルベルト。今、解放したら…」
とクラード様に言われたが、今だと思う。もう事が起きた。カミューラ嬢がやった事は明白、これで物語の間を飛ばす事が出来た。

「カミューラ嬢は、今は、息をしっかりして、手が熱く感じて、しばらく翻弄されるし、落ち着いて欲しい。頭の中がスッキリしてくるから。クラード様、こちらを見て下さい」
とティアラ嬢から預かった紙を見せた。

「これがカミューラ嬢達がサクラ嬢に対してやる予定だった悪事か…」
とクラード様に言われ、頷く。

「わかった上でこんな茶番見ていられません。悲劇のヒロイン気取りをさせて、舞台に周りの生徒を巻き込むのは間違ってます。サクラ嬢に手を出したカミューラ嬢の対処を学園長と相談して下さい」
と言えば、
「確かに、サクラ嬢が自分を庇っても、クラスメイトは物語通りにするなら放置するだろうな…わかった相談する」

「私は何を?このハンカチを触って、身体中からゾワゾワと何かが通り抜けるように広がっていく、手が熱くなって、頭がグラグラする…」
とカミューラ嬢が話し始めた。

「今、わかりますか?ここは生徒会室です」
と声をかければ、
「えっ!?シルベルト様、クラード様?いえ、私は、階段で女生徒を…
突き飛ばした、のです。手が先に出てしまったんです。申し訳ございません」
と真っ青な顔をしたカミューラ嬢が謝った。

まだ少し息も荒く、身体も震えている。しかし、もう表情がない人物の顔ではなかった。
それを見て、クラード様は、カミューラ嬢を動かさずに、先に学園長と相談すると出て行き、廊下から午後の授業の本鈴が響いた。
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