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第6章 デイエル 統治者
第1話 デイエル
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デイエルの幼少時代は決して恵まれたものではなかった。
父親に気まぐれに見初められて、すぐに飽きられた情けない女・・それが母親だった。
デイエルは婚外子だった。当時は差別対象であり、デイエルは過酷ないじめを上手く避けるため、時には友人という盾をつくり、いなくなってもいい人間を身がわりにしてデイエルは困難を切り抜けていた。
裏切り。それはデイエルが生きるために必要な事だった。
デイエルにとって友は利益価値のある人間や、盾や保証になるものだった。
そんな性質も幼馴染のジル・オーデインは知りぬいて、尚友として弟にも厚遇した男だった。
ジル・オーデインは単純だった。身内に、自分の懐にいれた者には甘く、敵には容赦ない男だった。
デイエルには幸運にも、ジル・オーデインに気に入られた。
彼の従者として過ごすうちに、性の芽生えが来た時期にお互いを意識するようになった。
デイエルはジル・オーデインが好きだった。でもどこか猫のように警戒する意識が彼をどこかで醒めた面で恋に溺れるのを制止していた。
その醒めた意識は統治者の資質を育むものでもあった。
デイエルは決して恋に溺れず、生存を望むものであった。
ジル・オーデインは単純な男で唯、デイエルを恋人として慈しんだ。その愛をデイエルは甘受した。
蜜月はしばらく続いた。ジルはいつまでもこの時が続くと疑わない子どものような純粋な男だったが、デイエルは狡猾な男だった。この蜜月は少年期が終わるぐらいだ。デイエルは期限を決めていた。
ジル・オーデインは父親には逆らえない。こどものような男だ。
おそらく父親の言う通り、有力者の娘を花嫁とするだろう。その時、デイエルは邪魔な愛人として扱われるかもしれない。それは屈辱だが、子は必要だ。貴族である限り義務が必要なのだ。
この男が見知らぬ女に奪われるのかと思うと嫉妬もあったが、それ以上にデイエルは野心があった。
実は、デイエルには他にも男が居る。男爵以上の位をもっている貴族の老人だ。
デイエルは愛してはいなかったが、老いらくの恋というのだろうか?デイエルの顔は初恋の人によく似ている。
デイエルは思い出に縋る男と見下したが、かれにはジル以上の権力と地位、金に溢れていた。
老人はデイエルを養子として迎えたい。愛人兼家を継ぐ者として選ばれたのだ。デイエルは才能があった。
このまま従者として朽ち果てるかと思っていたが、思わぬチャンスが巡ってきた。
屈辱と恥辱を上手く誤魔化して老人を愛しているフリをし続ければ、デイエルは更に地位を得る。
それは男娼のようなことでもあったが、女でもよくあることだ。
ジルと老人の力を天秤にはかり、答えは寿命短い老人の思い出作りに加担すれば力を得ることができる。
老人が重みを増した。相手も老獪でデイエルの打算と野望を知っているだろうが、デイエルは他に道はなかった。
ジルは愛しいと思うが、束の間のやすらぎとデイエルは見限った。
ジルが結婚すると聞いて、デイエルは来るべき時が来たなと思った。しばらくは恋人の関係を続けよう。そして自然消滅をするように仕向けよう・・彼はそう計算した。
デイエルにとって恋や愛は脆いモノだった。
あれほど純粋にデイエルを愛していたジルが、政略結婚してしばらくは女性嫌悪の彼の事だ。落ち込んでいるだろうかと思っていたが、様子を見計らうために、恋人としてジルと森の瀟洒な館で逢瀬すると、ジルは思っていたより随分と結婚した女を気に入っていたようだった。
ふうん。随分と良かったみたいだな。
気まずげにかつての恋人を見るジルは純粋な恋は薄れ、見知らぬ妻のほうに傾倒していた。
デイエルが心変わりを知って、ジルは目をそむけた。
それが答えだった。
デイエルは高い自尊心で嫉妬と憤怒、醜い女の部分を抑え、美しい別れを演出した。
ジルは複雑な顔でデイエルを見ていた。
別れを言ったその翌日、デイエルは老人の養子縁組を受けると手紙を老人あてに出した。
こういうのは運命の転機には早く対応するに限る。
思っていたより自分はジルを好きだったらしい。見知らぬ妻に殺意を抱いたのだから。どろどろとした感情がわいてくるのを感じた。デイエルは理性で制止した。
そこにジルの妻が居たら、この手で引き裂きたいぐらい憎いし、憤怒もあったが、ジルは女の醜い面が嫌いだ。
皮肉なことに、ジルがデイエルの醜い女の面を引き出したのだ。
これからデイエルは力の代償に、醜い身体をもつしわしわの斑点の浮いた老人に性の奉仕をする。
それはデイエルにとっても生理的嫌悪を催すものであったが、デイエルはこれは自分じゃないと自己暗示して必死で奉仕した。
老人は初恋によく似ていると言いながら、デイエルを無惨に嬲った。殺意をこらえながらデイエルは老人に忠実に従った。老人の死こそがデイエルにとっての救いだった。
デイエルの恥辱は老人との関係だった。
父親に気まぐれに見初められて、すぐに飽きられた情けない女・・それが母親だった。
デイエルは婚外子だった。当時は差別対象であり、デイエルは過酷ないじめを上手く避けるため、時には友人という盾をつくり、いなくなってもいい人間を身がわりにしてデイエルは困難を切り抜けていた。
裏切り。それはデイエルが生きるために必要な事だった。
デイエルにとって友は利益価値のある人間や、盾や保証になるものだった。
そんな性質も幼馴染のジル・オーデインは知りぬいて、尚友として弟にも厚遇した男だった。
ジル・オーデインは単純だった。身内に、自分の懐にいれた者には甘く、敵には容赦ない男だった。
デイエルには幸運にも、ジル・オーデインに気に入られた。
彼の従者として過ごすうちに、性の芽生えが来た時期にお互いを意識するようになった。
デイエルはジル・オーデインが好きだった。でもどこか猫のように警戒する意識が彼をどこかで醒めた面で恋に溺れるのを制止していた。
その醒めた意識は統治者の資質を育むものでもあった。
デイエルは決して恋に溺れず、生存を望むものであった。
ジル・オーデインは単純な男で唯、デイエルを恋人として慈しんだ。その愛をデイエルは甘受した。
蜜月はしばらく続いた。ジルはいつまでもこの時が続くと疑わない子どものような純粋な男だったが、デイエルは狡猾な男だった。この蜜月は少年期が終わるぐらいだ。デイエルは期限を決めていた。
ジル・オーデインは父親には逆らえない。こどものような男だ。
おそらく父親の言う通り、有力者の娘を花嫁とするだろう。その時、デイエルは邪魔な愛人として扱われるかもしれない。それは屈辱だが、子は必要だ。貴族である限り義務が必要なのだ。
この男が見知らぬ女に奪われるのかと思うと嫉妬もあったが、それ以上にデイエルは野心があった。
実は、デイエルには他にも男が居る。男爵以上の位をもっている貴族の老人だ。
デイエルは愛してはいなかったが、老いらくの恋というのだろうか?デイエルの顔は初恋の人によく似ている。
デイエルは思い出に縋る男と見下したが、かれにはジル以上の権力と地位、金に溢れていた。
老人はデイエルを養子として迎えたい。愛人兼家を継ぐ者として選ばれたのだ。デイエルは才能があった。
このまま従者として朽ち果てるかと思っていたが、思わぬチャンスが巡ってきた。
屈辱と恥辱を上手く誤魔化して老人を愛しているフリをし続ければ、デイエルは更に地位を得る。
それは男娼のようなことでもあったが、女でもよくあることだ。
ジルと老人の力を天秤にはかり、答えは寿命短い老人の思い出作りに加担すれば力を得ることができる。
老人が重みを増した。相手も老獪でデイエルの打算と野望を知っているだろうが、デイエルは他に道はなかった。
ジルは愛しいと思うが、束の間のやすらぎとデイエルは見限った。
ジルが結婚すると聞いて、デイエルは来るべき時が来たなと思った。しばらくは恋人の関係を続けよう。そして自然消滅をするように仕向けよう・・彼はそう計算した。
デイエルにとって恋や愛は脆いモノだった。
あれほど純粋にデイエルを愛していたジルが、政略結婚してしばらくは女性嫌悪の彼の事だ。落ち込んでいるだろうかと思っていたが、様子を見計らうために、恋人としてジルと森の瀟洒な館で逢瀬すると、ジルは思っていたより随分と結婚した女を気に入っていたようだった。
ふうん。随分と良かったみたいだな。
気まずげにかつての恋人を見るジルは純粋な恋は薄れ、見知らぬ妻のほうに傾倒していた。
デイエルが心変わりを知って、ジルは目をそむけた。
それが答えだった。
デイエルは高い自尊心で嫉妬と憤怒、醜い女の部分を抑え、美しい別れを演出した。
ジルは複雑な顔でデイエルを見ていた。
別れを言ったその翌日、デイエルは老人の養子縁組を受けると手紙を老人あてに出した。
こういうのは運命の転機には早く対応するに限る。
思っていたより自分はジルを好きだったらしい。見知らぬ妻に殺意を抱いたのだから。どろどろとした感情がわいてくるのを感じた。デイエルは理性で制止した。
そこにジルの妻が居たら、この手で引き裂きたいぐらい憎いし、憤怒もあったが、ジルは女の醜い面が嫌いだ。
皮肉なことに、ジルがデイエルの醜い女の面を引き出したのだ。
これからデイエルは力の代償に、醜い身体をもつしわしわの斑点の浮いた老人に性の奉仕をする。
それはデイエルにとっても生理的嫌悪を催すものであったが、デイエルはこれは自分じゃないと自己暗示して必死で奉仕した。
老人は初恋によく似ていると言いながら、デイエルを無惨に嬲った。殺意をこらえながらデイエルは老人に忠実に従った。老人の死こそがデイエルにとっての救いだった。
デイエルの恥辱は老人との関係だった。
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