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第1章 或る主婦の人生

或る主婦の終わり

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夢を見た。コトコトと水を煮たて、スープを作っている。
家の近くで僅かでも食べ物をつくろうと、夫の二人で荒れ地を開墾した。
畑ができ、少しでも肥料になりそうなものを探してなんとか野菜が育つようにした。
野菜の種は農家の人に頼んで分けてもらった。おばさんは親切な人で、どうやったらうまく野菜が育つか手順を教えてくれた。
試行錯誤を繰り返して、なんとか不格好だが自分でつくった野菜を見たのは感動した。

夫と二人で野菜と僅かな肉を入れてスープを作った。調味料は塩のみだったが美味しかった。
夫もうまいうまいと喜んでくれた。あの時が一番幸福だった。


でも、尻をパアンと叩かれた痛みと、気絶しながらも、攻撃されている。悪鬼の醜悪な性器にずっと侵入され支配されている。うっすらと、無言で目が覚め、この悪夢のような現実を見た。見知らぬ男が、果実をかじるように、わたしの身体を舐め、蹂躙している。男は目が欲望にぎらついていた。狂っている。男は、どうもわたしの肉体を全て味わいたいらしい。旨い旨いとガツガツと貪っている。ああわたしは野菜になったんだ。

わたしの身体は、割とおいしいらしい。年によらず艶のある肌。重くてうんざりしていた巨乳。
何故か日に焼けない白い肌。特異体質だと思っていた。
夫にも見せたことが無い不浄の穴の中もわたしは全てをさらけ出された。わたしの穴と言う穴は全て男どもの性器を入れるものになった。
不思議と、わたしの思考は奇妙なほど冷静だった。

わたしに何故か優しくしてくれる息子程年の離れた金髪の男。それと、マスクをしている小柄な少年。いいえ。少女かしら。わたしの胸に触る手は男のモノではなかった。

わたしに求めるのは肉欲だけではない。母親を求めているようだった。わたしにはそれが解った。
わたしは何故か彼ら二人の子どもが気になった。

あの子ども達はわたしになにを求めているのだろうか?わたしは殺されるのに。

彼らは他の男とは違った。わたしにこっそりと体に良いものを食べさせて、あざだらけの身体を薬で塗ったりしてわたしを治そうとしていた。

あの子供たちは、こんな穢いところで育ったのだろうか?親はいなかったのだろうか?
子ども達は、人を殺してバラバラにして処分したり、後片付けをしている怖い大人の奴隷だった。
彼らはそうやって生きてきたのだ。わたしは獲物や商品として、彼らと出会ったのだ。
わたしと彼らの運命はどう考えても良い出会いとはいえない。しかし地獄の底では、僅かな情が救いになることもあるのだ。
少女はまだ自分の状況、境遇がどれほど穢いか理解してうんざりと憔悴しているようだった。
可哀そうに。でも金髪の男よりはまだまともだ。彼はわたしに惹かれている。お気に入りの玩具のように執拗に猫のように舐めたり、嬲ったりしている。
「でも殺さなきゃ・・。」と彼はずっと呟いている。彼はすっかり壊れている。同じ仕事を繰り返して、わたしが好きなくせに、商品だからエモノだからコロさなきゃと決めている。

わたしはあと数年で酷使された女の身体は終わる。わたしの命運はあとわずかだ。わたしはすっかり諦めていた。
わたしは気が触れた夫に売られてわたしの人生は崩壊し終わったとあの時悟ったのだ。
わたしはもう妻ではない。唯の女。売春婦。商品。獲物。搾取されるものだ。

でも、何の因果か、今度は子ども達に出会った。かれらと一緒にいて、わたしはかれらは母親を求めていたとわかった。

わたしは深い溜息をついて、壊れた子ども達を撫でた。母親のように優しく髪を体を撫でた。
これしかわたしができることはない。

温かい子どもの身体に私も慰められた。ほんのわずかな時だが、わたしたちは疑似的な親子になっていた。

でも怖い男たちがわたしを嬲り続け、わたしの身体はだんだんボロボロになっていく。
子ども達が黙ってわたしを見ている。嗚呼天使みたいだわ。

わたしも狂ったのかしら。こんな地獄で可愛いなと思うなんで。嗚呼。わたしの心も壊れているんだわ。
わたしは必死で狂った頭で花畑や一番見た綺麗な光景を思い浮かべた。

もうすぐわたしの身体は限界を迎える。ことんことんと心臓の音が小さく消えていくのを感じる。
死んだらどこへ行くの?わたしは思った。神様。お迎えはこないの?

わたしの心臓は悪鬼どもに止められた。死んだ心臓。死んだ心。
でも子どもたちが少し気になっていた。

「こいつ。死にやがった。きたねえ。」
お前が一番穢い男だろうか。 わたしの魂はどこかでわたしが死んだ後を見ていた。でも真っ黒な空間で動けない。

わたしは金髪の男と出会ったことを思い出す。

チンピラみたいな汚い金髪の男が、「あんたみたいなの腐りかけの果実だな。あと数年で女としての賞味期限は過ぎる。その時まで可愛がってやるぜ。」
陳腐な悪役の台詞だ。何故息子のような年下の男に嬲られなければならないのだろう。わたしは確かに巨乳で年の割には肌に艶があり、男にとってはなかなか魅力的だったようだ。
だが男運が悪すぎた。この男の母親に言ってやりたい。
もう少ししつけろと。でも何も言えない。無力な自分をあの時わたしは味わった。

はじめは嫌な奴だと思った。でも何故か、だんだん優しくされていることに気づいた。
暴力的で狂った客の男や怖い男の中で、彼が一番ましだった。壊れているけど・・
わたしはだんだん嗚呼・・母親はいなかったんだ。このこどもは・・わたしは彼を良く知るようになった。
あの悪役の台詞はどこかで見て覚えた台詞なんじゃないだろうか?オウム返しに言っているだけなんじゃないだろうか?こどもは物真似をする。見てやってみる。言ってみる。
よくよく彼を観察すれば、なるほど確かにかれは大人の皮を被った子どもだった。
ずっと怖い大人に従っている子どもだった。そうしないと生き延びられないからだ。
「俺はなア。強くなるんだよ。誰よりも・・」
男は母親に自慢げに言うように呟き続けた。少女は醒めた目つきでわたしと男の語らいを聞いていた。

嗚呼・・他の女も悪鬼どもに蹂躙されている。少女は本当は下劣な客を、狂ったように肉欲をさらけ出す男たちを
女達を苦しめるやつらを殺したいようだった。殺意を秘めながら少女は無言で働いていた。

わたしたちは一番無力だった。無力な家族だった。
少女の気持ちと男の気持ちが望まずにも伝わってきて、わたしは泣きそうになった。
死んだ心がその時だけは息をふきかえす。ふうっと。

でもわたしは死んでしまった。
こどもたちは途方にくれながら、大人たちの言う通りに、わたしの身体をばらばらにした。可哀そうに。大変だったでしょう。 少女はかすかに泣きながらわたしの白い乳房を触った。
そんなにわたしの乳房が好きだったのだろうか。少女ならいいかもしれない。触れてもかまわない。

男は、まだわたしが死んだことを実感していない。どこか夢みたいに思っている。

馬鹿な子だ。どうしようもない。

男はわたしのバラバラになった死体を大人たちと運んだ。 誰もこない海の崖だ。
あまりにも陳腐な結末でわたしは思わず笑った。まるでB級映画の主人公じゃないか。わたしは・・
泣きながら笑った。でも誰も気づかない。だってわたしは彼岸にいるのだから。

もう生まれ変わったら男とはやらない。少女とこどもみたいな金髪の男ならまだ許してやろう。
わたしは母親になってしまったから。あの地獄の底で、心が伝わったから。

わたしの死体は、海の底へ沈んだ。嗚呼魚や、水棲生物がわたしの肉を啄む。
醜悪だがこれが自然の摂理だ。わたしは何も無かったから殺された。

わたしは真っ黒な空間でそれを傍観していると、とんでもないものを見た。
とても巨大で花のようにカラフルで美しく水母のような形をしていたが、どこか違う。何か意思があるようだった。
異星人? 海底人? わたしは唖然と未知の生物を眺めていた。

すると、その生物は透明な触手を絡めて、わたしの死体をおもちゃのように動かして、みるみるわたしの死体は繋ぎ合わされ、何か変な力や意思や意味不明な知識が伝わった。
〇△記号のような意味のあるような羅列が続いた。
訳が分からない・・ わたしは唯、見ていることしかできなかった。
すると、わたしの身体が淡く光ってわたしの意思ではない何かが宿った。わたしは怖くてただ見守った。

そうしたら、わたしのいた真っ黒な空間、彼岸が硝子のように破れて、力がある神?のような存在に呼ばれて
●●よ。もう一度、この肉体にモドレ。

わたしの魂は、復元された元の肉体に戻った。 気づいたら唯一つの花をわたしは手に持っていた。
なあに。この花は? 嗚呼。あの金髪の男だわ。あの男は子どものようにわたしが海に落とされることがわかったら
慌てて、そこらへんにある咲いている花をむしって餞別のつもりだろうか、わたしの手に渡した。
あの男なりの情かしら。ふん。わたしは鼻でわらって花をむしろうとしたが何故かできなかった。

悔しいけど綺麗だわ。淡い白と赤の染まった花。

わたしは花のような海の神を見つめた。

わたしは花に縁があるらしい。念話で神の意思が伝わった。オマエハケンゾクニナッタ。オマエハチジョウニモドリ
チジョウノセカイヲミロ。ショクリョウをサガセ。

わたしは呆然となった。わたしは果てに邪神の眷属になったらしい。それも食糧を運ぶ役目を持ったらしい。

わたしはふふふと笑った。死んだり、蘇ったりわたしの人生は忙しい。

わたしはもはやどうでもよかった。わたしは笑いながらもはや上等と思った。

わたしは邪神の言う通り、地上へ戻った。 あの悪鬼どもを探しに戻った。わたしはもう無力ではない。

わたしは花の邪神に力をもらった。あいつらのような下劣な奴らを殺すには十分だ。

わたしは花のように無垢な笑顔を浮かべて探しに行った。
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