【18禁】てとくち

クナリ

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第一章 ずっとずっと好きだったけれどもういけない

青四季海と、養護教諭の女良陽菜の家1

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 陽菜が開けた部屋のドアを、海が恐縮しながらくぐる。

「お邪魔します……」
「入って入って。ごめんねー、遅くなって」

 陽菜の家は、こぎれいな五階建てマンションの二階だった。建物の入り口はオートロックで、本人認証をしないと自動ドアが開かない仕組みになっている。そのため、一度外で待ち合わせをした。
 陽菜が、海を外に残して一度マンションに入り、「一度部屋を片づけるから、どっかその辺散歩でもしてて」と言うので、海は周囲をあてもなく、てくてくと十五分くらい歩いた。
 やがて陽菜からスマートフォンにメッセージが入ったので、再びマンションに向かう。入口の横で、陽菜が出迎えに出てきてくれていたので、合流して、中に入った。
 玄関から続く廊下はぴかぴかと光を反射し、壁には小さな風景画がかけられている。
 養護教諭の収入がどれくらいなのかは海には分からないものの、教師というのは安月給だとドラマや小説でよく見聞きしていたので、失礼ながら結構いいところに住んでるんだな、などと思った。
 そして到着した陽菜の部屋のドアは、シックな黒い木目調だったが、手書きの「女良」という字がカジュアルに書かれたプレートが、不似合いにかけられていた。

「いえ、急いで仕事片づけてきてくれたの、分かってますから……。あのでも、本当にいいんですか?」
「なにが?」

 陽菜も入ってきて電気をつけた。間取りは2LDKらしい。

「おれ、男ですよ。家教えるの、ハイリスクじゃありません? 先生、一人暮らしなんでしょう?」
「男って、海くんでしょ? それに、最初から悪いことするつもりで呼んでるんだから、いいんだよ」

 どういう理屈だと思いつつ上がらせてもらい、荷物を置く。

「それにね、なんだか今日は、家に呼んでよかったなーって思った」
「え?」

「青四季くん、元気なさそうだね」
「……実は、そうなんです。おれって、顔に出るタイプなんですね……」

 海は自分の頬を両手で押さえた。
 昔見た水族館のラッコが、こんなポーズをしていた気がする。

「そっか。それは、私とかに相談できそうな悩み?」
「相談、ですか。うーん、どうかな。自分でも、ちゃんと整理できていないので」

「できてなくてもいいよ、先入観なしで聞くから、あったことだけ言ってみて」
「あったこと……。ええと……。同級生の女子が、好きな人がいるって言ったのを聞いて、なにか不思議な気分になりました」

 海の「仕事」が汚れたものに思えたことは、さすがに黙っておく。

「えー? 本当、それ?」
「嘘つく必要ないですよ」

「だって、それはさ」
「それは?」

 陽菜は目を細め、口を少しとがらせてから、

「やっぱ言わない」
「なんですかそれは」

 なんの意味もない応酬に、海はつい吹き出した。
 それでも、少しは心が軽くなった気がする。
 おそらくは、陽菜の思惑通りなのだろう。こういうところがあるから、海は陽菜を信用しているし、役にも立ちたいと思う。自分の身につけた技術で、信じられる相手を癒すことができるなら、本望だった。

「でもさー、海くん。せっかくだから、それなら今日はちょっと違うパターン試してみない?」
「なにがせっかくなのかは全然分かりませんが、どんなのです?」

「海くんに元気出して欲しいから、今日私がご奉仕するよ。気持ちよくしてあげる」
「それは……ちょっと」

 にこやかに自分を指さす陽菜とは対照的に、海はたじろいだ。

「なんで? 嫌?」
「だって、あくまでおれが女の人に尽くすから、おれの行為に意味があるんであって。おれが気持ちよくさせてもらったら、なんだか不純じゃないですか。第一、先生にそんなことさせられないです」

「不純ときた。狭いなあ、見識が」
「なんとでも言ってください」

「だけど、海くんなら分かるんじゃない? 人間、してもらう一方って、ちょっと負担になってきちゃうもんだよ。今は私、お金も払ってないんだしさ」
「それは……そうですけど」

 海自身、女を満足させると、得も言われぬ充足感を毎回味わっている。自分という人間が生きている価値を確認して、満たされた気持ちになる。
 だから、金銭のやり取りはなくなっても、対価は充分もらっていると思っていた。
 あの感覚を陽菜が味わいたいというのなら、理解はできる。

「でも先生、男が女にしてもらうって、意味が変わってくるような気がします」
「なんで? 性別関係ある?」

「ありますよ。男は乱暴で、配慮が足りなくて、性欲の前にはほかの理性も価値観も全部無意味で、精液を吐き出すことしか考えてないじゃないですか。なんで、女の人がそんなやつに快感を与えてあげないといけないんです?」
「……海くんて、女子を大事にする割に希望とか幻想とかは全然抱いてないように思ってたけど、男性に対してはなかなかに偏ってるよねー」

 海は腰に手を当てて答えた。

「女性の快楽は、必要なものを充足させるものです。一方、男の場合は、精液が最優先です。精液さえ出せればなんでもいい、っていうだけのもので、それ以上はありません。精神的な充足なんて関係ない。だから違うものなんですよ」

 陽菜が、またも口を尖らせた、そして、二人がいるリビングから、隣の部屋をびしりと指さす。

「オッケー。海くん、服脱いでベッドに寝なさい」
「いえなにもオッケーじゃないですし、聞いてました?」

「聞いた。だから言ってるの。今日は私の言うこと聞きなさい。受け身男子プレイで、私に奉仕してもらいます。決まりです。武士の情けで、シャワーは浴びてよし」

 なんの情けなのかは不明だったが、家の中で家主にそこまで言われると、海のほうでも逆らう気持ちが萎えてきた。
 より強く抗弁しようと思えばできるのだが、女性の家で、その女性を怯えさせるほどの迫力を出すのもはばかられる。

 海は、するすると制服を脱ぐと、シャワーを借りた。
 学校では目立つのであまりしないが、女の家やホテルで奉仕に及ぶ時は、自分が服を脱ぐ予定がなくてもシャワーは浴びている。
 それでも、やはりいつもより念入りに、体の汚れを落とした。これから陽菜に触れられると思うと、不思議な気がした。

「お風呂、お借りしました」

 そう言って、腰にバスタオルを巻いて出る。すぐに取り去ってしまうのだろうが、さすがに全裸で人の家の中でうろつくのは控えたい。

「はーい。じゃ、私も入ってくるね。すぐ出るから、ベッドに座ってて。その辺触っちゃだめだよ」

 陽菜は、十分ほどでシャワーを切り上げてきた。
 その間、海は所在なく、ベッドルームを見回していた。ここでスマートフォンをいじるのも、なんだか失礼な気がして、あえて手持無沙汰でいた。

「お、ちゃんと大人しくしてたかな?」
「してましたとも」

 海としては、陽菜の部屋は小物や家具でごちゃついているイメージだったが、部屋の中は、意外に荷物が少ない。
 化粧に使っているらしいテーブルと、一般的なサイズのチェスト。クローゼットはやや大きく、衣服は一通り収まってしまいそうだった。クローゼットなど必要ないくらいに私服が乏しい海は、ちょっとした憧れを抱いてしまう。

「いやー、新鮮だねえ、なんだか」
「最近はずっと学校でしたから、お互いにバスタオル姿って久しぶりですね」

 陽菜もバスタオル一枚の格好で、海の横に座った。
 肩が触れ合う。
 ゆっくりと、陽菜が海を押し倒した。
 そして、いつの間にか、陽菜の手には黒いリストバンドと、白いタオルが握られている。

「……なんですか、それ?」
「受け身だって言ったでしょ? ほら、腕上げて」

 陽菜は、海の両手首にリストバンドをはめると、その上から、タオルをロープ代わりにしてベッドの支柱に縛ってしまった。

「せ、先生?」
「大丈夫、これで、縛った後は残らないから」

「いやそうではなくて」
「ほら、両足も」

 同じ要領で足首もベッドの下方の支柱に縛りつけられ、海は完全に磔状態になってしまった。

「……おれ、こんなの初めてです」
「優しくしてあげよう」

「……どうも」
「はい、これで仕上げ」

 陽菜が、そう言って黒いアイマスクをひらひらと振る。

「え、目隠しもですか」
「目隠しもですよ」

 陽菜はよどみなく動き、柔らかいゴムでぱちりとアイマスクをはめると、海はあっけなく視界を奪われてしまった。
 こういうプレイがあることは知っていたが、いざ自分がやられてみると、四肢と視界の自由を奪われるというのは、かなり心細いものがある。よほどの信頼関係がなければこれはできないな、と思った。

「はーい。じゃあ、楽にしててね……。ところでさ」
「はい?」

「さっき言ってた女子って、鮎草さん?」
「えっ!?」

 海が、アイマスクの下で目を見開く。

「……正直だねえ」
「なにも言ってないじゃないですか!?」

「ふーん。鮎草さんが、好きな人がいるって聞いて、動揺しちゃったんだー」
「せ、先生。そういうのはよくないですよ」

「そーだねー。よくないねー。こーんな時にする話じゃないよねー」
「そ、そうですよ。亜由歌の話なんてしていたら、おれ、そっちに気が行ってしまいますし」

「亜由歌?」
「あっ」

 見えはしないが、海の脳裏に、陽菜がにやりと笑った顔が浮かんだ。

「ずいぶん、仲良くなってるみたいじゃない?」
「あ、亜由歌は……いいやつです。今は、話に出すのはやめましょう」

「いいやつ? いい人、っていうのとはなんかニュアンスが違うね」
「た、単に人がいいっていうのとは違うので……だ、だからやめましょうって……」

 抗議の声の最中で、海が、しゃべるのをやめた。「あ」と声を漏らして、体を少し固くする。
 腰のあたりに衣擦れの感覚があった。バスタオルが、少しずつ解かれている。

「どうした、海くん?」
「あ……ああ……」

 海のそこは、すでに、半ばまで大きくなってしまっていた。
 バスタオルの上からでも、それは見て取れるはずだ。それでも、布一枚あるのとないのとでは、心細さが全然違う。
 そろそろと布が自分の体から離れていく。
 代わりに、外気がひやりと下半身を包んでくる。
 やがて、布の感触が腰から消えた。

「ああっ……」

 自分が完全に全裸になったのを悟って、海の羞恥心が濃度を増す。
 なにも隠すものがなく、全身をくまなく陽菜に見られている。
 まだなにもされていないのに、それだけでペニスは完全に勃起してしまった。

「わあ……やらしい形」
「そん……な」

「凄いよ。反ってて、段差が凄くはっきりしてる。大きいのに、形もいやらしいなんて、海くんのこれ、すっごく……」
「や、やめてください」

 思わず体をよじろうとして、タオルでできたロープに足の動きが阻まれる。
 思うようには動かせないと分かりきっているのに、手を下に下ろそうとして、それができずに無様に身じろぎだけをする。

 なにかが、海の体に触れた。
 指先だ。
 左右の腰骨のあたりに、ぽつんと、小さな体温の点が置かれた。
 左右一つずつだった点はすぐに四つずつになり、海の体の中心へ、ゆっくりと動き始めた。
 しかし硬くなったところには触れずに、腿のつけ根へ滑り降りてしまう。
 そんなことをしようと思ってはいなかったのに、海の腰が、ぐいっと浮いた。足が、さっきまでよりもわずかに開いている。

 陽菜の指は一度腿を離れると、みぞおちを撫で、胸に至り、左右に分かれて、乳首をつまんだ。
 一度柔らかくつねられてから、こりこりと緩く愛撫される。

「あ、あ、あ……」

 左の乳首への愛撫は継続したまま、もう一方の手が、海の脇や、鎖骨や、首をなでる。
 それは、海が女を喜ばせる時にもよく触れるところだった。
 これまで、海がする一方だったので、知らなかった。陽菜が、こんなに上手に触れてくるということは。

 海は、自分の息遣いが荒れてきているのが分かった。
 再び両手で乳首をもてあそばれると、もう声が止まらなくなる。

「せん、せい」
「ん?」

「お願い、です」
「なあに?」

 指は、一度へそのあたりまで来て動きを止めてから、またそろそろと下っていく。
 今度こそその先へ、と海はまた腰を上げてしまった。陽菜の指が、そこへ到達しやすいように、迎え入れるように。
無意識だったが、自分の体の浅ましさに、海は赤面する。
 しかし八本の指は、巧みに、接触を求めてくる硬直をかわして、またも鼠径部へ下りていった。

「あはッ!」

 くすぐったさと、遠回りの快感に、声が抑えられなくなってきた。
 すでに、ペニスは、限界まで反り返ってしまっている。
 その中には、若く未熟な性欲が、目いっぱいに詰め込まれていた。
 それなのにただなにもない虚空を突き上げ、欲望をむなしく空転させるのに、海はもう耐えられない。


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