文字の大きさ
大
中
小
149 / 262
第四部 至高の奥園
7 決意と別れ②
……金髪碧眼で、どこからどう見ても天上界の『光の娘』であるルゥは、冥王というよりむしろ天王の娘のように見える。
だがあくまでも、彼女は闇神の娘だ。彼女は冥王の脇に立ち、父神を援護するためにレオンに相対した。
「レオンおじさま。まず、おじさまがナシェル兄さまを心配する気持ちも、父さまに説教しなきゃ気が済まないのも分かるし、言ってることも全部まちがってないとルゥも思うわ。
だけどね。いくら正論振りかざしても、時間をかけて理想の親子を父さまに説いても、父さまには一切響かないでしょうし、意見はこのままずっと平行線だと思う。
置かれた立場が違う以上、相手に自分の常識が通用しない場合もあるし、わきまえろと相手に言ったって無理な場合もあるの。
だっておじさま、父さまの言う通り、あなたは父さまが経験してきた色んな痛みを経験してこなかった。孤独で気が触れそうになったこともないし、伴侶を失ったこともないし、命を差し出してもいいと思えるほど誰かを慈しんで育ててきたこともないでしょう。
たしかにナシェル兄さまに父さまがしたことは、褒められることじゃない。
でも、ルゥはこう感じるの。たとえ、父さまのことでナシェル兄さまがこれまでたくさん悩んできたのだとしても、ナシェル兄さまが、ルゥと同じ『天上界の血を引く混血』だったとしても、兄さまは今はもう、やっぱりあっちの世界にいるべき神なの。
兄さまはこの世界では幸せになれない―――、それはおじさまも、兄さまを見てすぐにわかったでしょ? 兄さまの属性はあちら側なんだもの。どう考えたって、こちら側にいては失った神司は回復できない。すぐに連れて帰らなきゃいけないの」
ルゥが毅然と言い放つと、冥王が深く同意を示し天王を睨んだ。
「王女の言う通りだ。部外者のくせに訳知り顔で説教垂れおって」
するとルゥがくるりと振り返り、冥王に釘をさした。
「父さまは黙ってて。怒る権利ないでしょ? おじさまに云われたこと全部図星なんだから。ここはおとなしくルゥに任せて」
「……」
もはや主導権はこの小さな、容姿に合わぬ賢しげな物言いをする女神に握られていた。
「あのね、おじさま。ルゥ、大事なこと言うから聞いて。
おじさまはナシェル兄さまのことを想って父さまを責めたのでしょうけど、そもそもナシェル兄さまはティアーナ姉さまが命を懸けて父さまのために遺していったのよ。父さまの司をなるべくたくさん受け継ぐように、父さまに似せて作った……。
だから跡継ぎでもあり、分身でもあり、器でもあるの。
ティアーナは、本当いうと父さまの子供をたくさん産んであげるつもりだった……。あの世界で神の血累が形成れるように。けど、光の神族が闇の司を胎内に宿すことはあまりにも危険な行為で、現実にはナシェル兄さまを産んだ1回きりが精一杯だったんだけどね。
だからナシェル兄さまの命には、ティアーナ姉さまの想いも込められてる。
ただひとつ言えるのは、父さまも独りで残されて、兄さまを育てるのに必死だった。兄さまを自分の後継として完璧な冥府神に育てなきゃいけないのに、生まれた兄さまはなぜかどんどん神格が下がって行ったから。……そうよね? 父さま。
もちろんだからといって父さまの行いは正当だったとは、とても言えないけど。
……何が正しかったのかなんて、誰にも分からないし、この件に関してはもしかしたら正しい答えなんてこの世にはないのかもしれない。
おじさまは、『親子としてあるまじき方法で神司をうつした』、まさにそのことで父さまを非難したかったんだと思うけど、もう、今はいくらそのことで正論をぶつけても、遅いのよ。
だって兄さまはそうやって育ってきて、もう今は、限りなく父さまの神司でできているんだから。
……そしてこれも大事なことだけど、今や兄さま自身もそれを求めてるってこと。
……だから兄さまから父さまを奪っちゃ、だめなの。
もう闇の世界に還してあげる以外に、ナシェル兄さまを元に戻す方法なんてないのに、無理やり闇の世界から引き剥がして、あの状態の彼になにを決断させるっていうの? そんなことしたらかわいそうよ。
それに、父さまから引き離して、ナシェル兄さまに決断を迫って、……じゃあ今度はその『決断』におじさまの恣意が含まれてないとどうして言いきれるの?……」
だがあくまでも、彼女は闇神の娘だ。彼女は冥王の脇に立ち、父神を援護するためにレオンに相対した。
「レオンおじさま。まず、おじさまがナシェル兄さまを心配する気持ちも、父さまに説教しなきゃ気が済まないのも分かるし、言ってることも全部まちがってないとルゥも思うわ。
だけどね。いくら正論振りかざしても、時間をかけて理想の親子を父さまに説いても、父さまには一切響かないでしょうし、意見はこのままずっと平行線だと思う。
置かれた立場が違う以上、相手に自分の常識が通用しない場合もあるし、わきまえろと相手に言ったって無理な場合もあるの。
だっておじさま、父さまの言う通り、あなたは父さまが経験してきた色んな痛みを経験してこなかった。孤独で気が触れそうになったこともないし、伴侶を失ったこともないし、命を差し出してもいいと思えるほど誰かを慈しんで育ててきたこともないでしょう。
たしかにナシェル兄さまに父さまがしたことは、褒められることじゃない。
でも、ルゥはこう感じるの。たとえ、父さまのことでナシェル兄さまがこれまでたくさん悩んできたのだとしても、ナシェル兄さまが、ルゥと同じ『天上界の血を引く混血』だったとしても、兄さまは今はもう、やっぱりあっちの世界にいるべき神なの。
兄さまはこの世界では幸せになれない―――、それはおじさまも、兄さまを見てすぐにわかったでしょ? 兄さまの属性はあちら側なんだもの。どう考えたって、こちら側にいては失った神司は回復できない。すぐに連れて帰らなきゃいけないの」
ルゥが毅然と言い放つと、冥王が深く同意を示し天王を睨んだ。
「王女の言う通りだ。部外者のくせに訳知り顔で説教垂れおって」
するとルゥがくるりと振り返り、冥王に釘をさした。
「父さまは黙ってて。怒る権利ないでしょ? おじさまに云われたこと全部図星なんだから。ここはおとなしくルゥに任せて」
「……」
もはや主導権はこの小さな、容姿に合わぬ賢しげな物言いをする女神に握られていた。
「あのね、おじさま。ルゥ、大事なこと言うから聞いて。
おじさまはナシェル兄さまのことを想って父さまを責めたのでしょうけど、そもそもナシェル兄さまはティアーナ姉さまが命を懸けて父さまのために遺していったのよ。父さまの司をなるべくたくさん受け継ぐように、父さまに似せて作った……。
だから跡継ぎでもあり、分身でもあり、器でもあるの。
ティアーナは、本当いうと父さまの子供をたくさん産んであげるつもりだった……。あの世界で神の血累が形成れるように。けど、光の神族が闇の司を胎内に宿すことはあまりにも危険な行為で、現実にはナシェル兄さまを産んだ1回きりが精一杯だったんだけどね。
だからナシェル兄さまの命には、ティアーナ姉さまの想いも込められてる。
ただひとつ言えるのは、父さまも独りで残されて、兄さまを育てるのに必死だった。兄さまを自分の後継として完璧な冥府神に育てなきゃいけないのに、生まれた兄さまはなぜかどんどん神格が下がって行ったから。……そうよね? 父さま。
もちろんだからといって父さまの行いは正当だったとは、とても言えないけど。
……何が正しかったのかなんて、誰にも分からないし、この件に関してはもしかしたら正しい答えなんてこの世にはないのかもしれない。
おじさまは、『親子としてあるまじき方法で神司をうつした』、まさにそのことで父さまを非難したかったんだと思うけど、もう、今はいくらそのことで正論をぶつけても、遅いのよ。
だって兄さまはそうやって育ってきて、もう今は、限りなく父さまの神司でできているんだから。
……そしてこれも大事なことだけど、今や兄さま自身もそれを求めてるってこと。
……だから兄さまから父さまを奪っちゃ、だめなの。
もう闇の世界に還してあげる以外に、ナシェル兄さまを元に戻す方法なんてないのに、無理やり闇の世界から引き剥がして、あの状態の彼になにを決断させるっていうの? そんなことしたらかわいそうよ。
それに、父さまから引き離して、ナシェル兄さまに決断を迫って、……じゃあ今度はその『決断』におじさまの恣意が含まれてないとどうして言いきれるの?……」
感想 71
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
【BL】惚れた男に嫌われたくなくて「男遊びならしてもいい」と言ったら、本当に男遊びを始められて絶望している侯爵令息の話
多額の借金で没落寸前の実家を救うため、結婚相手を探していた男爵令息のラキにカムグロス侯爵家から求婚状が届く。
お相手は同性のディートリヒで、初対面で歓迎されるどころか冷たく突き放されてしまう。
『必要最低限関わるな』
『愛人を作るな』
『男遊びならしてもいい』
ディートリヒから実家の借金を完済する条件を言われたラキは、学園で令息たちとの交流を満喫中。
褒め上手なラキの周りには可愛い令息が集まり、推し活状態に。
一方、ディートリヒだけが嫉妬で胃を痛める日々。
ラキへの恋心を隠し続けた不器用侯爵令息に、幸せな未来は訪れるのか?
.