文字の大きさ
大
中
小
168 / 262
第四部 至高の奥園
26戒めの下に愛され①※
天蓋の奥にたちこめる濃密な湿闇。
裸体がひとつ、そこに蒼く浮かびあがっている。
刻を止めた褥の上で。
両腕を搦めとられ、成すすべなく服順い、瞼は錆の如く軋み、気怠げに、しかし夜陰の色濃き瞳の奥には劣情と、愛ゆえの錯乱が窺える。
雪花石膏の如き喉元に、王の証印を施された首輪が煌めいている。
首輪から伸びた細い鎖が、柱の上部に繋がっている。
柱に向き合うナシェルの前には、幻霧界の水乙女の彫刻がある。
天蓋の四柱の装飾だ。
潤んだ眼差しを乙女の像に注ぎ、両手で乙女の腰を抱く。
――彼は膝立ちで、掲げた腕を天蓋の柱に回した状態で縛りつけられていた。
やがて王の視線を背後に受けながら御子は、繻子布のような黒々した睫毛を潤し、腰を揺らしはじめた。
しゃなり、しゃなりと、白い双丘をしどけなくゆすって、伴侶を誘う。
嫋やかな両腕を天蓋の細い柱に絡みつかせて彫刻を抱え込み、唯一自由の利く尻を揺すりながら、背後の王に向け哀訴を繰り返す。
もう焦らすのはやめて、手ずから愛して欲しいと。
準備の整った此処に、早く貴方のものを含ませて欲しいと。
長時間の行為に耐える体力が、今の彼にはない。
行為の間じゅう、獣の姿勢を保つ力すら無いのである。
ならばと王は、ナシェルの両手を柱に巻き付けた。――こうして中腰で尻をこちらへ向けてごらん、と。
今宵ばかりは従順にと心に誓ったばかりのナシェルは、はじめ王の手に燦然と輝く鎖を目にした時はさすがに額いっぱいに皺を寄せたが、正直を云えば王に性的に服従させられるのは全く吝かではない。
中央に金剛石の首飾りの垂れた瀟洒な首輪を宛がわれて、両腕を柱に廻して鎖で拘束されると、えもいわれぬ恍惚が腹の底から滲みだしてくる。
傷がつかぬよう手首に柔らかい布を巻いてから鎖を使う王に、些か倒錯してはいるが己への愛情深さを感じて、己の身の内からも暖かい情念が湧き上がってくるのも感じた。
湯殿を出て一度は萎えかけた陰茎が、そのように拘束されるとふたたび聳り立ってくる。
抑えきれぬ王への思慕は、ナシェルの唇を割って甘い泣き声となる。
誘うように下肢を揺する都度、被虐の快楽が先走る湧き水となって、揺れる膝間に下垂り落ちる。
戒められて勃起する羞恥に頬を染め、背後から抱擁されるのを待ち焦がれて、王を請うのである。
その淫らでいじらしげな様子に、王は感動の溜息を洩らして魅入った。
親子がそのように心底から互いを想い合い、全てを許容しながら睦みあうのは、もしかするとナシェルがごくごく稚かった頃以来かもしれない。
無論、王は悠久の刻を経てさえ変わらぬ信念と情慕を注いできたのであるが、受けるナシェルの方はこれまで、さまざまに思い乱れてきた。成神してからはとくに。
抱かれながらも闇の神司を餌にされていると感じてきたし、嘘をついている後ろめたさと、心のどこかでは父への復讐心があった。
あの一件を幸いとするわけではないが。
全てを打ち明け、全てを知ったことで、ナシェルの心は重い四肢とは裏腹に、軽くなっていた。
双面の神々は今、そうして互いを高め合ってゆく。錠と鍵が常に一対であるのと同じく、お互い以外に、心身の餓えを満たせる者はいない。欲しいもののすべてをお互いのみが所有し、与えることができるのだから。
ナシェルは王の意図を汲み、淫らに腰を振って哀願する。
「父上――ああ、来て、早く……」
湿り気を残したまま背に纏わる黒髪は、宛ら白樺の若木に張られた黒蜘蛛の巣のよう。
しかしその一本一本は蜘蛛の紡ぐ糸よりも細く強靭かだ。
黒髪の隙間から覗く肩に、汗粒が光る。
まるく弧を描くように誘う白尻。
縛めの布巾の上に覗く、血の気のない指先を、柱の彫刻の溝に喰い込ませて。
――咲きほころぶ、という表現が似つかわしいほどの、かぐわしい艶姿であった。
冥王は紫煙を吐きながら、目を和ませる。
同じ姿をしているが、痩せ衰えた半身とは対照的。制御していてもまだ、全身から燃え盛るような神気を放っている。
王は己の優美な肉体を夜着で包み、幾重にも重ねた枕に身を預けて仰向き加減に、脚を組む。
半身の奥処を今すぐにでも衝いてやりたいと、王の中心もとうに張り裂けんばかりに怒張していたが、そんな邪念は微塵も感じさせぬ落ち着きはらった微笑とともに寛ぎ、王子の乱れる姿を視姦するのである。
哀訴の声を響かせるナシェルの様子をそうしてしばらく眺めていた王は、やがて燻らせていた二尺ほどもある長煙草を、精霊に持たせて天蓋の外の灰皿に戻させる。
ふぅ、と煙たい吐息をつきながら身を起こし、ぎしりと寝台を軋ませて、
王子の背後へと膝行った。
そっと両の腕を伸ばし、背中から王子の露わな脇腹や腋下を撫でる。
薄い唇に、意地の悪い戯言を載せる。
「見事な踊りだ……褒めてあげる。
ここの色がだいぶ良くなってきたようだよ。それに、大きさも……ほら、こんなに膨らんで。
鎖の揺れるのが、さぞかし気持ちが良いのであろうな?」
王はナシェルの肩越しに、充血した胸の尖りを眺め下ろす。
紅の双瞳は隷属者を賛美するあまり瞬きを失し、炎の熱を埋め込んだように炯炯と耀く。
……ナシェルのふたつの乳首には闇に映える金色の輪が嵌められている。
胸の輪と首輪は、鎖でつながっているのだ。
ナシェルが体をゆするたびに鎖が揺れて、行き場のない快感が尖端に集まる。
鎖の振動がリングに直に伝わり、そのたびに重い痺れが乳頭を炙る。
そこは勃起したようにぷくりと膨れて、淫らな果実色に熟していた。
「はぅ……はあぅ……」
ナシェルは一層呼吸を浅く乱しながら、早く愛してと王を呼ばわる。その声に応えるように、王がリングの嵌まった乳蕾のかたほうを指で弾いてやると、快感に極まった声が迸る。
「あ、っん、……だめ………揺らさないで……!」
「これを? そんなに悦んでおきながら、何故?
ああ……ここも、まだ触れてもおらぬのに、そんなに溢れさせて……」
王は後ろからナシェルの尻や太腿を撫でながら、割り開かせた膝の間の寝具が濡れているのを指摘する。
気づけばぽたぽたと、広げた膝の合間に先走りの蜜が零れ落ちていた。
幹竿はすでに雨樋の如く、しとどに露を通わせていた。
「……さわ、触って、そこ……」
顎を上向かせ、虚空に向けて必死の懇願を吐き出す。膝立ちで尻を半ば下げたままの中腰は、これはこれで辛い。それにそろそろ前のほうも極限で、いい加減昇りつめたい。昇りつめた後は、約束のものを奥いっぱいに受け取りたい……。
ナシェルの脳裏には、身勝手な我欲ばかりが渦巻く。
「まだまだ早いよ。今宵はたっぷり啼かせてあげると云ったであろう……?」
感想 71
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
【BL】惚れた男に嫌われたくなくて「男遊びならしてもいい」と言ったら、本当に男遊びを始められて絶望している侯爵令息の話
多額の借金で没落寸前の実家を救うため、結婚相手を探していた男爵令息のラキにカムグロス侯爵家から求婚状が届く。
お相手は同性のディートリヒで、初対面で歓迎されるどころか冷たく突き放されてしまう。
『必要最低限関わるな』
『愛人を作るな』
『男遊びならしてもいい』
ディートリヒから実家の借金を完済する条件を言われたラキは、学園で令息たちとの交流を満喫中。
褒め上手なラキの周りには可愛い令息が集まり、推し活状態に。
一方、ディートリヒだけが嫉妬で胃を痛める日々。
ラキへの恋心を隠し続けた不器用侯爵令息に、幸せな未来は訪れるのか?
.