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番外編
午餐の間にて④
◇◇◇
長い長い午餐会がようやく終わり、各々、午餐の間を出てゆきかけた所で案の定、陰鬱な表情のナシェルに呼び止められた。
「ヴァニオン……その、城へ帰る予定の件だが」
ヴァニオンは助け舟を出してやる。
「お前大丈夫か? なんか体調悪そうだったよな」
「ああ……出発は六時間後に延期だ」
「ろ、六時間じゃ足りなくね?」
「えっ……」
ナシェルは一瞬怪訝な顔をしたが、たっぷり五秒考えたのち、改めて言った。
「そうだな……。うーん……では、悪いが明日に延ばそう。11刻に厩舎だ」
「あ、ああ」
ナシェルは片手を挙げてふらふらと壁づたいに内殿の奥へと去り、直後に冥王が出てきた。
「そなたら二人、犬猿の仲だと思っていたが珍しく会話が弾んでいたようだな」
いつの間にか隣に立っていたファルクが、これに応じる。
「殿下がひどく御気分がすぐれないようなご様子なので、ヴァニオン卿と二人、遠目からご心配申し上げておりました」
「心配には及ばぬ、あれの機嫌が悪いのはただの寝不足よ」
「睡眠剤を御所望のご様子でしたらすぐにでも届けさせますが?」
「否、必要あるまい」
冥王は涼しい顔だ。ヴァニオンはとっさに口を開いていた。
「殿下をあまり、」
「……あまり?」
「あ……その、あまり……寝させないのはどうかと思いますが」
冥王の顔がぬうと近づいて来、紅玉の瞳がヴァニオンを至近から見据えた。
「そなたに云われるまでもない。あれが『寝せてくれるな』と申すのでそうしておるだけよ」
衣装をひるがえして歩み去る王を、ヴァニオンとファルクは冷や汗と共に見送った。
「今の聞いたか!? ……怖ッ! 怖すぎ!」
「ヴァニオン君、よく陛下に意見しましたね……君の勇気を称えます」
「いや、つい口が滑っちまって思わず」
「陛下、まさかのノロケで返して来ましたね……」
視線の先では王がナシェルに追いつく。
何か声をかけられたナシェルは潤んだ眼差しを王に注ぎ何事か抗議しているようだ。王は余裕の笑みで応じている。結局ナシェルは根負けしたようにその胸にしなだれかかった。
ナシェルは王に支えられるようにして……、双りの影は融け合ったまま回廊の角を曲がって内殿のほうへ消えた。
ファルクは丸眼鏡を指で押し上げながら、主君らの去った方向を眺めやる。
「……それにしても濃厚な2時間だったなあ……。明日、殿下がどうなってるか楽しみですねぇ」
「はー……楽しむ余裕があって羨ましいぜ」
「どういうプレイだったのかあとで殿下に確認とっといて下さいね。気になります」
「んなこと怖くて聞けるかよ……とりあえずもう疲れたわ……」
◇◇◇
翌日、ヴァニオンが厩舎で馬たちに干し草を与えている所に、騎装を整えたナシェルが現れた。
「おい、ヴァニオン。帰りに疑似天に寄るぞ。サリエルに茶でも淹れてもらおう」
王子はだいぶ遅刻しているのだが、もうそんなことはどうでもいい。
ヴァニオンは、幻嶺に近づくナシェルを横から観察した。
目の下の隈は完全には晴れきっていないものの、だいぶ減っている。眉間の皺はどこへやら、血色もよく、昨日とはまるで別人(別神)だ。
なにより表情が明るい。…などとというレベルではない。
めちゃくちゃ機嫌がいいようだ。鼻歌混じりで、口元が時おり、緩い。
「ん? 何だ?」
横顔をしげしげ見られていることに気づいたナシェルが、こちらを振り返る。
ふわりと、長い黒髪が靡く。
連れている精霊の数も、ハンパない。
何だこの、活力にみなぎった感じは……。
ヴァニオンは、拡げた両手で己の頭を掻きむしりながら、吠えた。
「あーもう……お前ってさ……もうちょっと色々隠せよ!! なんかこう……、ダダ漏れなんだよ! 分かりやすすぎるんだよ!」
「ん……? 何が……?」
番外編「午餐の間にて」 了
長い長い午餐会がようやく終わり、各々、午餐の間を出てゆきかけた所で案の定、陰鬱な表情のナシェルに呼び止められた。
「ヴァニオン……その、城へ帰る予定の件だが」
ヴァニオンは助け舟を出してやる。
「お前大丈夫か? なんか体調悪そうだったよな」
「ああ……出発は六時間後に延期だ」
「ろ、六時間じゃ足りなくね?」
「えっ……」
ナシェルは一瞬怪訝な顔をしたが、たっぷり五秒考えたのち、改めて言った。
「そうだな……。うーん……では、悪いが明日に延ばそう。11刻に厩舎だ」
「あ、ああ」
ナシェルは片手を挙げてふらふらと壁づたいに内殿の奥へと去り、直後に冥王が出てきた。
「そなたら二人、犬猿の仲だと思っていたが珍しく会話が弾んでいたようだな」
いつの間にか隣に立っていたファルクが、これに応じる。
「殿下がひどく御気分がすぐれないようなご様子なので、ヴァニオン卿と二人、遠目からご心配申し上げておりました」
「心配には及ばぬ、あれの機嫌が悪いのはただの寝不足よ」
「睡眠剤を御所望のご様子でしたらすぐにでも届けさせますが?」
「否、必要あるまい」
冥王は涼しい顔だ。ヴァニオンはとっさに口を開いていた。
「殿下をあまり、」
「……あまり?」
「あ……その、あまり……寝させないのはどうかと思いますが」
冥王の顔がぬうと近づいて来、紅玉の瞳がヴァニオンを至近から見据えた。
「そなたに云われるまでもない。あれが『寝せてくれるな』と申すのでそうしておるだけよ」
衣装をひるがえして歩み去る王を、ヴァニオンとファルクは冷や汗と共に見送った。
「今の聞いたか!? ……怖ッ! 怖すぎ!」
「ヴァニオン君、よく陛下に意見しましたね……君の勇気を称えます」
「いや、つい口が滑っちまって思わず」
「陛下、まさかのノロケで返して来ましたね……」
視線の先では王がナシェルに追いつく。
何か声をかけられたナシェルは潤んだ眼差しを王に注ぎ何事か抗議しているようだ。王は余裕の笑みで応じている。結局ナシェルは根負けしたようにその胸にしなだれかかった。
ナシェルは王に支えられるようにして……、双りの影は融け合ったまま回廊の角を曲がって内殿のほうへ消えた。
ファルクは丸眼鏡を指で押し上げながら、主君らの去った方向を眺めやる。
「……それにしても濃厚な2時間だったなあ……。明日、殿下がどうなってるか楽しみですねぇ」
「はー……楽しむ余裕があって羨ましいぜ」
「どういうプレイだったのかあとで殿下に確認とっといて下さいね。気になります」
「んなこと怖くて聞けるかよ……とりあえずもう疲れたわ……」
◇◇◇
翌日、ヴァニオンが厩舎で馬たちに干し草を与えている所に、騎装を整えたナシェルが現れた。
「おい、ヴァニオン。帰りに疑似天に寄るぞ。サリエルに茶でも淹れてもらおう」
王子はだいぶ遅刻しているのだが、もうそんなことはどうでもいい。
ヴァニオンは、幻嶺に近づくナシェルを横から観察した。
目の下の隈は完全には晴れきっていないものの、だいぶ減っている。眉間の皺はどこへやら、血色もよく、昨日とはまるで別人(別神)だ。
なにより表情が明るい。…などとというレベルではない。
めちゃくちゃ機嫌がいいようだ。鼻歌混じりで、口元が時おり、緩い。
「ん? 何だ?」
横顔をしげしげ見られていることに気づいたナシェルが、こちらを振り返る。
ふわりと、長い黒髪が靡く。
連れている精霊の数も、ハンパない。
何だこの、活力にみなぎった感じは……。
ヴァニオンは、拡げた両手で己の頭を掻きむしりながら、吠えた。
「あーもう……お前ってさ……もうちょっと色々隠せよ!! なんかこう……、ダダ漏れなんだよ! 分かりやすすぎるんだよ!」
「ん……? 何が……?」
番外編「午餐の間にて」 了
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